ONCE IN A LIFETIME

今はもうずいぶん安い値段で眼鏡を購入できるお店がたくさんあるけれど、ちょっと前までは全然そんなことなくて、眼鏡やらコンタクトなんて買おうと思ったら5万は覚悟しなければならなかった。

眼鏡男子、ていうか眼鏡力士ぬすくぐ。錦木
近所に「ものっすごい慇懃な南こうせつ」みたいな店長と、GLAYのJIROみたいなトガった兄ちゃんのいる眼鏡店があって、家族全員目の悪い我が家はずいぶんあの店にお世話になった。
店長はまあ、本当に気持ち悪いくらいの慇懃さで「お名前様頂戴できますか」などと言うので、我が家では「お名前様」と呼ばれていた。
ある日母がゲラゲラ笑いながら言う。
「今日、お名前様のとこ行ってきたんだけど、あの人本っ当に口がうまいわねえ。あなた白髪のことなんていうか知ってた?『おぐしにシルバーが』だって!!!」
それで「シルバー!!」と母と笑いあった後、「いや、勉強になるねえ」「いろんな言い方があるねえ」「それでお客様が気持ちよくなったり、面白がったりするなら、そういう言い方もアリだねえ」「どこでああいう言い回しを勉強してきたのかねえ」としみじみ感心した。

『四角四面は豆腐屋の娘、色が白いが水臭い。四谷赤坂麹町、ちゃらちゃら流れるお茶の水、粋な姐ちゃん立ちションベン、ってなどうだ!!』
寅さんの啖呵売もそうだけど、まあ、人間うまいこと言われたら、なんだかその気になってしまう部分はある。別に自分を褒めてくれなくとも、話が面白かったら、話芸に感心してしまったら、その通りだなあなんて思ってしまったら、ついフラフラと。いらない鍋でも、別にほしくなかったゴム紐でも買ってしまったりもする。
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さてさて、2018年も始まったばかりなのに、もう来年2019年のラグビーワールドカップのチケットが発売だ。去年もおととしもかえる姉さんと「絶対見たいよね」「チケットとれるかな」と話し合ったが、いざ発売が近づいて値段を見るとビビってしまう。
なに、国際試合ってこんなに高いの?予選4試合セットのA席が14万円ですってよ!!マジで!?二桁万円?
サッカーのワールドカップもこんな値段だったんだろうか。2020年の東京オリンピックもこんなものすごい値段なんだろうか…。
ガタガタ震えながらかえる姉さんに「ど、どうする?高すぎてヤバい」とLINE。
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「ヤバいね…でも南アフリカ×ニュージーランド、魅力的だよね…」
「海外旅行だと思えば、頑張れるんじゃない?」
…確かに、いつかニュージーランドラグビー観戦したいと思ってはいた。それを思えば宿泊なし、自宅から1時間もしない場所でラグビーの最高峰の試合が見れるなら、妥当…?
ぐらぐらと揺らぐ気持で何度も何度もチケット購入サイトを凝視した。チケット購入サイトにデカデカと書かれたスローガンはこれだ。
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なんて力強い…。
確かに言われてみれば、生きてる間に日本でラグビーワールドカップが見れることなんてもうないだろう。もしもう一度めぐってくることがあったって、その時自分が元気でいるか、お金があるかもわからない。
…最近何をするにもそんな風に考えるようになってきた。「気力のある今のうちに、体力のある今のうちに、とりあえずお金のあるうちに、やりたいことはやっておかないと」
もしかしたらこの先に「あの時のお金があれば…」と涙ながらに後悔する日がくるかもしれないけれど、少なくとも「あの時やっておけば」「あの時勇気を出していたら」とは思わずに済む…
も~う、うまいこと言うな~。畜生、ありきたりと言えばありきたりだけど、そんなうまいこと言われたらその気になっちゃうよなあ…。

そんなワケでかえる姉さんと「よし!一生に一度だよ!!申し込もう!」と二人揃って勇気を出して申し込んだ。
チケットサイトは「ワールドカップのチケットは世界が相手の争奪戦」とまで煽ってくる。勢いのままに、勇気を出して申込んだけど、心のどこかで「抽選はずれたら、ちょっとホっとするんだろうな、お金払わなくて済むし」とも思っていた。
…それなのに…抽選が外れた日、自分でも意外なくらいガッカリしていた。「ああ、見れないのかー、テレビで見るのか…、一生に一度なのになあ。せっかく勇気だしたのになあ」
もうすっかりあのスローガンに洗脳されて、行く気満々でいたのだ。あーあ…と思いながら洗濯物をたたんでいたら、かえる姉さんから「とれてた!」との吉報が。
キャーーーーー!!一生に一度!!!一生に一度のラグビーワールドカップ!!!

浮かれた勢いのまま、姉さんはすぐさま2人分28万円のカード決済を済ませ、私は次に会う時に14万円持参の約束をする。そして恐ろしいことに私たちは言うのだ。
「ユニフォームも買わなきゃねえ」
「決勝戦も横浜開催だからさー、見たいよねえ!」
勝戦のチケットはA席10万円…。目眩がしそう…。でもきっと大会が近づくごとに「あー、幾ら払ってでも決勝戦が見たかった」「チケット買っておけば良かった」とか思うんだろう。だんだん「ワールドカップなら10万くらい普通でしょ」とか思うようになるんだろう…。
2015年イギリス開催のワールドカップのチケッティングスローガンは「Too Big to Miss」だった。「見逃すにはあまりにデカすぎる」…ああ、ああ、そうでしょうとも。そして「一生に一度」でしょうとも…。
そんな言葉でついついその気になってしまって、今では思っている。「4試合も見れて14万なんてお得!!」…自分が怖い…。
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「アリとキリギリス」のキリギリスだな、って人は言うだろう。耳障りのいい、お上手なセールストークに簡単に踊らされちゃってさ。
でも後悔なんかしていない。むしろとっても楽しみにしている。だって一生に一度だもの!
…さて、頑張って働くか…。