バスに乗れば、停留所のたびにアナウンスが流れ、言われる。
「走行中のお座席の移動は思わぬケガや事故につながる恐れがあり大変危険です。」
電車に乗ろうとすれば駅のアナウンスは繰り返す。
「駆け込み乗車は大変危険です。思わぬケガの原因となりますので次の電車をご利用ください」
他にも「スマートフォンを操作しながらの歩行は思わぬケガや事故につながります」や「ドアが開く際は、手やお荷物をドアから離すようお願いいたします。指や手が戸袋へ巻き込まれ、思わぬケガの原因となります」などもある。
自転車を買えば「誤った使用は思わぬケガの原因になる」と諭されるし、ガス会社は「思わぬ火災防止のため、使用しないときはガスの元栓を閉めましょう」と訴える。

高校時代、電車通学時にこんなアナウンスを聞くたびに友人ゴトオは「思わぬケガや事故ってどんなだ。すべてのケガや事故が思わぬ=想定外ではないのか」と考え込んでいた。
確かにそう言われればその通りなので、私もあのアナウンスになんとなくひっかかる体質になった。そしていろいろ想像してみるものの、想像の斜め上を行くからこそ「思わぬ」なのであろう。
好奇心は猫を殺す
イギリスのことわざ(en:Curiosity killed the cat)の訳。英語に「Cat has nine lives.」(猫に九生あり・猫は9つの命を持っている/猫は容易には死なない)ということわざがあり、そんな猫ですら、持ち前の好奇心が原因で命を落とす事がある、という意味。転じて、『過剰な好奇心は身を滅ぼす』と他人を戒めるために使われることもある。
wikipediaより
エゲレス人はさすがだな、真実を知っているな、とこの諺を噛み締める今日この頃。
先週の土曜日、耳鼻科から帰宅した私は驚愕した。冷蔵庫の前にボタボタと血が落ちているではないか。
え?私鼻血だしたっけ、いや違う、これはアイツに違いない!あの、わんぱく猫野郎だな。今度は何した!
猫は何も語らないが、私のホームズ並みの現場検証によると、冷蔵庫の上からオイルヒーターのパネルの上に飛び乗ろうとし、指の股をオイルヒーターのパネルで切って流血した模様だ。
オイルヒーターのパネルに血しぶきも飛んでいたし、流血した足で歩いた足跡がキッチンマットにも残されていた。本人の胸毛にも若干血がついていた。
病院に連れていくか迷ったが本人は平気な顔で駆け回っているので様子をみることにした。

我が家の猫は同日生まれの兄弟2匹だが、性格は大きく違う。ポーは慎重でビビりだが、どんこは好奇心で死ぬタイプの猫だ。
「この家はオレの家である」と主張し、家の隅々まで自らが念入りに調査し掌握しなければ気が済まない。そして、調査方法に計画性はないので、大体当たって砕けて流血沙汰だ。
もちろん私だって猫を飼うにあたってあれこれ十分注意し「思わぬケガ」に備えている。
洗濯機のコンセントも抜き、水栓も閉め、ガスの元栓も閉めているし、引き出しにはチャイルドロックをかけた。薬類は猫の誤飲を避けるため冷蔵庫にしまったし、電気コードにもコードカバーを巻いた。
2児の父である弟には「猫ってマジで子供と同じ注意が必要なんだな」と驚かれた。

だがしかし、
事例①:スーパーのビニール袋に喧嘩を挑んだ際、ビニール袋に顔が入ってしまいパニックを起こして部屋を大疾走し、絨毯に爪をひっかけ、3本の爪が根元から折れて流血
事例②:常日頃、木製の抽斗の角を噛みしだいてジャギジャギにしてきたが、うっかりその角に顎をぶつけて流血
事例③:ベランダで鬼ごっこをし、エアコンの室外機の後ろに無理やり入ろうとして足をひっかけ脛から流血。
このような惨事が私に予期できたであろうか。いやできない。これこそが「思わぬケガ」であり、「思わぬ事故」だ。
なんであのどんこ野郎はこんなにも流血沙汰が多いのか。アホなのか!
憤りと同時に悲しい気持ちでいっぱいになる。「バカ!なんでケガするのよ。どんこが痛かったら悲しいじゃないの!!」
猫を胸に抱き、そう訴えるが「別に大したケガじゃないぜ、まあちょっと失敗しちまったけどよ」と言った体で猫はハードボイルドを気取っている。
スポーツを見ていたら、危ない!と思うことはたまにあって、アスリートのケガだってなんとなく当たり前のように思っている。
少しくらいの怪我なら出場できて当然だとか、「あの選手いつもケガばっかりだな」とか思ってしまうこともある。「けがは土俵で治す」なんてまことしやかに語られたりもする。
でも、家族や本人にとってみたら少しの怪我だってイヤなものだろうな、と改めて思う。猫の怪我で。
この世の怪我や事故はどれも「思わぬ」ものだろう。
そして思わぬからこそ、思いがけず悲しんだり、苦しんだりするものだろう。
もう、誰も彼も猫も、本当に本当に気をつけてほしい。思わぬケガに。
だが猫はまた絶対にやるだろう、私の想像の斜め上をいく思わぬケガ。
笑える範囲にしておいてほしいんだ、思わぬ事故は。