伝えたいことがあるんだ
「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ
サラダ記念日 (河出文庫―BUNGEI Collection)
- 作者: 俵万智
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 1989/10/01
- メディア: 文庫
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両国国技館の中にある相撲博物館では6/14まで「特別展 七十二代横綱稀勢の里」が開催されているので、相撲観戦のついでに見てきた。
懐かしい取り組みのビデオも流れているし、昔の写真、稽古まわし、そして立派な化粧まわしも展示されている。そんな中でやっぱり一番目をひいたのはこれだ。
横綱土俵入りで使われた北斗の拳の化粧まわし。友人と一緒に見ながら、ずっと胸に抱いていた疑問をぶつける。
「いや、私もラオウ好きだし、稀勢の里は引退会見でも一片の悔いなしって言ってたからラオウファンなのわかるし、北斗の長兄だっていうのもあるけど、でもラオウってケンシロウに負けるじゃない?だから、やっぱ稀勢の里がラオウじゃダメだったんじゃないかしら」
すると友人は困惑した顔で言う。「うん、私はこの漫画よく知らないんだけど、なんか聞いた話では相撲の15日間の白星を願って北斗七星2つともう1つ星をつけて15個の星が描かれているんだってよ」
な!!なんですって!?ハっとして化粧まわしをみると、確かに!北斗七星のわきに輝く星が!
ダ!ダメじゃん、これ絶対ダメなヤツじゃん!死兆星じゃんか!見えたら死ぬやつじゃんか!
あわわわわ、と焦る私を友人は不思議そうな顔で見ていた。
ダメだ!伝わらない、このダメさが!!…とすぐに他の友人にLINEで現状を伝える。「え!?死兆星じゃね?」
…よかった。伝わった…。さすが同年代の、そして類は友を呼ぶ友人。ありがとうありがとう。
ていうか稀勢の里…北斗の拳ファンなら、何故そんな修羅の道を選んだのか…。愛ゆえか。愛ゆえに人は苦しまねばならぬのか…。
【後編】「特別展 72代横綱稀勢の里」荒磯親方の本人解説!
お友達のかえる姉さんは何かにつけて「職場でなかなか話が通じる人いないよね。もう若い人ばっかりでさ」と嘆く。でも今の会社ではやっと同年代の人たちが見つかったらしい。そして石立鉄男のわかめラーメンのCMの話ができたらしい。
夜更けのタリーズコーヒーでその話を聞いて、わーかめスキスキ、今の今まで忘れてた!と息が止まるほど笑った。
【エースコック】わかめラーメンTVCM 石立鉄男さんVer
そんな日から数ヶ月過ぎ、ある日会社でお昼にわかめスープを飲もうと粉末パックを取り出した瞬間、私の頭の中で石立鉄男が躍動し始めた。わーかめすきすき、ピチピチィ!!
昼ご飯を食べている間も、そして午後の仕事の最中も、頭の中で鉄男はしつこく踊り続ける。そして何度も問いかけてくる。「お前はどこのワカメじゃ?」
ダメだ!誰か!誰かと共有しなければ!
あたりを見渡すが若い人ばっかりだ。そんな中同僚のオスカルさん(仮名:ご主人はフランス人)におそるおそる、「オスカルさん…石立鉄男のわかめラーメンのCM…知ってる?」と聞くと、知ってる!と即答だったので少し救われた。
その勢いで社外の友人にもハングアウトで伝えたら「伝染力高いんだからやめてよ!」と怒られた。よかった。友人に伝染させて更に救われた。
また、仕事の合間に「わかめラーメン」で検索するとエースコックがこんな特設サイトを作っていた。
…そうなのよ…若者には伝わらないのよ。お前はどこのワカメじゃ、が。
…まあ私もいまだに米津玄師の名が読めないのですが。
帰宅後はかえる姉さんにももちろん連絡した。ふう、やれやれ。
あれから、わかめスープを飲むときは鉄男を思い出さないようにとても気を付けている。鉄男にやられると、午後がまるまるつぶれてしまう。
*
一人で死ねとか、そんな事言うなとか、引きこもりとか絶望とか、孤独だとか理不尽さとか社会がどうとか、悪意の理由とか。
北斗の拳やらわかめラーメンみたいなくだらない話でさえ共有できる人を見つけるのはそれなりに難しい。けれど、くだらない話が共有できるだけでちょっと救われたりもするもんだな、と思う。
それができないから絶望なんだろうか。孤独だって言うんだろうか。
せめてネット回線でもつながっていたら、顔の見えないどこかの誰かとネット掲示板でくだらないおしゃべりもできたのに。youtubeでわかめラーメンのCMを見て笑ったりできたのに。
もちろんネットもいいことばかりじゃないけれど、何一つつながりがないことでそんなにも絶望するなら。
伝えたいことが誰にも伝わらないことで、他人を傷つけてしまうなら。