健康の守り人

猫と暮らして1年半ほどになるが、しみじみ思うのは彼らはかなり時間に厳しい生き物だということだ。
どこの誰だ、猫は日がな一日寝ていてお気楽だの、と言っているのは。

朝は5時に起こされる。まずは「目覚ましをとめろ」と騒ぎ立て、二度寝をすると容赦なく踏まれる。「愛しているならメシを出せ」
それでも尚、鋼鉄の意志をもって寝ようとすれば、耳の中に口をつっこみ、直接脳に語りかけてくる。「きこえますか、飼い主よ。我らはご飯を所望しているのです…」
たとえご飯をあげたあとの2度寝であっても、許されるものではない。「コイツ...死んでいるのか?試してみよう」とばかりに髪の毛を食いちぎられるのだ。厳しい。
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ちなみに昼寝には寛容だ。

夜、なんの連絡もなしに帰りが遅くなれば、あちこち漁って盗み食いした後に、ブレーカーを落として強制消灯される。おかげで冷凍庫のモナカはふにゃふにゃだ。
祖母の容態が悪かったときでさえ、母に「今日は泊まれば」と言われたのを「いや、猫に叱られるので」と震えながら帰宅した。もちろんブレーカーは落ちていた。

猫に言葉など通じないだろうと思われるかもしれないが、事前に何時までに帰りますと伝えておくと不思議なことに惨事は避けられるのだ。予定時刻をすぎると父親の如く厳しく詰め寄られるが。
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一人暮らしを初めて二十余年。こんなにも帰宅時刻に気を遣うことになろうとは。

風呂上がりは猫と遊ぶ時間であるということも熟知しているので、洗面所で身支度をする時には振り向けば猫がいて無言の圧をかけてくる。猫の権利を主張しているのだ。「我々猫は、1日に1度エキサイティングなおもちゃを出してもらう権利があるはずだ」と。ぼやぼやしてはいられないのだ。
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このコロナ騒動のせいで、4/6からは私も在宅勤務になった。当初は猫に邪魔をされるのではないか、生活のリズムが崩れるのではないかと危惧していたがおかげさまでそのようなことはない。
猫には猫の1日の過ごし方があるのだ。私が仕事をしている時間、彼らはいびきをかき、寝言を言いながら爆睡している。
時間に厳しいので、残業になると容赦なくキレる。
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朝も普通に叩き起こされるし、「お!今日は天気いいな!ベランダに出せ!朝日をあびろ!」と主張もしてくる。
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仕事中に喫煙ならぬ喫猫しようと近づくと、明らかな邪魔者扱いだ。
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勤務時間だろう、持ち場に戻れ、と言わんばかりの目つきだ。
私が一日家にいることで、おそらく彼らの一日のスケジュールも乱されているのであろう。
それでも「良いではないか!良いではないか!」とちょっかいを出すと都知事の如く密を主張してくる。
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彼は密に非常に厳しく、30センチ以上のソーシャルディスタンスを求めてくる。猫同士ではみっしり密密のくせに。たまに甘えん坊で密してくるくせに。
でも、そんな彼らのおかげで私の健康は保たれているのだ。
最近では猫のうんこが臭うたびに「お!まだイケるな。まだ大丈夫」と少し安心してさえいる。
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自粛引きこもり生活で孤独を感じたり精神を病む人もいるらしいが、うちには最強のメンターがいるので問題ない。
ありがとう、健康の守り人。…人じゃなくて猫だけども。

アサリベイベ

タカラガイいいよな。

ところで中国語の「宝贝」
これは「バオベイ」と読む。赤ちゃんや恋人のことを表す言葉だ。つまりベイビーに漢字があてられたものだぜ、ベイベ。
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昔、会社で宍道湖しじみを頂いたことがある。大きくて立派だった。しじみってこんなにデカいのか!と同僚たちと驚いた。
そして会社の人はご丁寧にしじみを紙コップに入れてみんなに持たせてくれたのである。ありがたいことだが、当時の私はまだ若く、しじみを持て余して実家に持っていった。
母はぷりぷりしながら言った。
「アンタはそうやって猫とかしじみとか世話の焼けるものばかり押し付けてさ!」

しじみの世話はしなくて良い…と思ったものだが、今になってあの時の母の言葉を思い出すことがたまにある。
それはアサリの砂抜きをするとき。

まあ、恥ずかしながら、アサリなんて食材に手を出せるようになったのはここ数年のことですよ。それまでは頭の片隅にもなかった。家で食べるつもりは毛頭なかった。
最初に買った時はまず砂抜きの方法を調べ、「海水と同じ濃度の塩分というが海とはこんなにしょっぱいのか!」と驚きもしたし、「アサリとは買ってきてすぐに食べられる食材ではないのか!」ということに驚きもした。
ネットで調べると様々な砂抜き方法が出てくる。やれお湯につけろ、とかどうとか。でも私はいちばんオーソドックスな方法をとっている。

海水と同じ濃度の塩水に一晩つける。
潮吹きをすることがあるらしいので蓋もする。暗いところを好むらしいので新聞紙をかぶせたりと甲斐甲斐しく世話をする。そして時々チラと様子を見る。
「どうだい、アサリたち。リラックスして砂を吐いているかい?」
のびのびしていると少し安心するし、蓋をあけて光が入ったことで、アサリがびくっと縮こまれば「お、すまんな」と慌てて蓋をしめたりする。

そうして思うのだ。「アサリって結構世話の焼けるヤツだな」
そしてそれがまた密かに嬉しくもあるのだ。アサリの世話が。

世界中がコロナコロナと大騒ぎの中、アメリカではひよこが爆買いされているらしい。自給自足と癒やしが目的だそうだ。
確かに家に籠もらなければ行けない今、ペットは非常に心強い味方だ。
だが、ひよこはすぐに大きくなって凶暴でけたたましくなるかもしれないし鳥インフルの恐れもあるじゃないか。
私はアメリカ人に心の底からアサリを薦めたい。
迷えるアメリカ人たちよ、今すぐアサリを買うのです。
そして一晩なり二晩なり砂抜きをしてごらん。
アサリを伸び伸びとリラックスさせてやるのです。今最も旬の食材だぜ?
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ベイビーたち、どうだい?リラックスできたかい?

そう優しく問いかけた後、君は一転して鬼になることが可能なのだ。半分は煮立て、半分は冷凍だ。クラムチャウダーもいいだろう。酒蒸し、スンドゥブチゲも意のままだ。
君が世話をして砂を吐かせたアサリたちは鍋の中できっといい出汁を出してくれるはずだ。
アサリたちは「おのれ、謀ったな!」と思っているだろうか。
アサリを煮ながら悪代官ごっこをすることもまた可能であろう。

もしあなたが今、自粛生活に疲れて果てているのなら、私はアサリベイベーの世話を強く薦める次第です。

天が下のすべての事

天が下のすべての事には季節があり、すべてのわざには時がある。
生きるに時があり、死ぬるに時があり、植えるに時があり、植えたものを抜くに時があり
殺すに時があり、いやすに時があり、壊すに時があり、建てるに時があり
泣くに時があり、笑うに時があり、悲しむに時があり、踊るに時があり
石を投げるに時があり、石を集めるに時があり、抱くに時があり、抱くことをやめるに時があり
捜すに時があり、失うに時があり、保つに時があり、捨てるに時があり
裂くに時があり、繕うに時があり、黙るに時があり、語るに時があり
黙るに時があり、語るに時があり、愛するに時があり、憎むに時があり
戦うに時があり、和らぐに時がある
           「伝導の書」第三章1~8節

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すべてのわざには時があり、時が満ちればいろんなことがいっぺんに起こるもので、この年度末たるや繁忙期に加えて、コロナに次ぐコロナ、尚コロナ、弟3号に子供生まれる、祖母が死にそう、等々盛りだくさんだった。

天が下、すべての事が同時に湧いて出始める春。
もう何度目になるか、祖母がいよいよ危ないと言われたのは三連休直前で、会社から病院に向かったが、穏やかに寝ていた。
翌日3連休の初日はよく晴れた麗らかな日で、弟と病院に行こうと車に乗り込んだところ、高速は観光客で大渋滞していた。
「渋滞ハマってる間にばあちゃん死ぬんじゃねえの」と悪態をついていた弟は、ようやく病院に近づくと明るく言う。
「こんなこと言ったら悪いんだけどさ、せっかくみんな揃ってるし、ばあちゃんも今日旅立つのがいいんじゃないかな」

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春のにおいがする
そうね。同じことを思っていたわ。
こんなことを思えるのは祖母が91まで長生きして、しかも呆けたりもせず最後まで穏やかでいてくれたおかげだ。
そんな訳で両親も同じ思いで、「本日もお日柄も良く…、って感じだし、今日でいいんじゃないかしらね」なんて話をした。
が、なごり雪降りしきる本日もばあちゃんはまだ生きている。
まだその時ではないのだろう。
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ワオテナガザルの親子
子供が生まれたばかりの弟3号、よくこんな大変な時にばあちゃんの所に来れたな、と思ったが、コロナウイルスの影響で産院への立ち入りを禁じられているらしい。そんな訳で出産にも立ち会えず、生まれたばかりのわが子に会うことも出来ず、出生証明書も受け取れず、という状態とのこと。
一応出産のときには病院の外までは駆けつけたらしい。だが中には入れてもらえなかったのだそうだ。
そして立ち会えない代わりに看護師さんが出産の動画を撮ってくれたらしい。今どき、そこまでしてくれるのだな。
ばあちゃんの寝顔を見守るだけのヒマな病室で、出産動画を見るか、と聞かれたけど、いやいやいやいや、帝王切開とか無理です、ご遠慮いたしますと丁重にお断り。
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コアラの親子。クイン&シャイン
それでもどうしてもばあちゃんにひ孫を見せたい弟は、ばあちゃんの目を無理やり開けようとしたり、耳元で動画を流し始めたりと強硬手段に出る。
動画から流れる赤子の泣き声はまるで子猫みたいで、感想を述べると、弟も「そうなんだよ!俺も病院の外でさ、あれ、どこかで猫が鳴いてるなと思ったら子供産まれてたわ、ははは」と笑う。
そう…そういうもんなんだね…。なんかこうドラマみたいな感じとはちがうわけね、なるほどね。
両親は「ホント命のリレーよねえ」としみじみしている。
生まれるに時があり、死ぬるに時があるとは言うが、うまく出来てるものだな。まるでゆく年くる年みたいだ。
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世話の焼けた赤子時代。
あーあ、せっかくなんだから今日がいいと思ったんだけどなあ、と弟は最後まで祖母の旅立ちの日を譲らない。
「俺、もう来週からは子供退院してくるから無理だからな」「まあ最後にこうやって集まったからもうこの後立ち会えなくてもしょうがないわよ」などと言いながらお茶を飲んで家族は解散。

その後の1週間はコロナコロナコロナで日が過ぎた。
何もかも、いったいこれからどうなることやら。

だがしかし、すべての事に時があり、なるようにしかならないのだから黙って成すべきことをするしかないさ。
この天が下、生きてから死ぬまでの間。
明日、会社に行くか行かないのかもわからぬ状態ではあるが、いずれ時が来るであろう。

こんなに大きくなりました。

これまで、犬や猫は生後1年で20歳だと信じてきたのだが、猫を飼い始めて以来いろんな人から「1年で17歳、1年半でハタチだよ」と言われ、調べてみたら、どうやら本当にそうらしい。
そんなわけで我が家のにゃんずも間もなくハタチ。
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これが

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こうなる。
ポーと来たらまた随分真っ黒い顔になったもんだ。真っ黒すぎて写真を撮るのに難儀する。
我が家に来た生後2ヶ月の頃はまだやっと1kgになったばかりなのに、今や6kg。
ケツもデカい。ルーズスキンもタプタプだ。
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襖の開け方もシンク下の開き戸の開け方も覚えた。引き出しだろうが、引き戸だろうが音も立てずに開けられる。
猫は犬に比べて頭が悪いなんて言ったのはどこのどいつだろうか。
ブルーレイレコーダーからディスクまで取り出せる生き物のどこが頭が悪いと言うのだ。
猫が一つ賢くなるたびに、私は震えているのだ。
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確固たる意志を持って、シンク下に侵入しちゅーるを盗み食いするし、留守番の折には餅を食べウィダーインゼリーを飲むという小学生男子のようなスキルもある。
この家の治安は俺にかかっていると言わんばかりに、宅配便のドアチャイムには威嚇の声をあげ、窓からの周辺警備も怠らない。

猫が来る前に買っておいた爪とぎベッド。33センチ経のレギュラーサイズ。
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2018年11月
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二匹でまだ余裕ある2019年1月
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暑くなってきたし独り寝を覚えた2019年6月
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寒い夜だから無理しても二人でいたい2020年2月
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仕方ないので買った40センチ経のビッグサイズにみっちり収まる2020年2月

よくぞここまでご立派に賢く大きくなられたが、甘える術も日に日に成長しているので、まだまだこども。
…という話を先日友人ともしたのだけれど、もしかしたら、そう思いたいだけなのかもしれない。
ホントは外でも立派に一人で生きていけるのかもしれないし、1日2日留守にしたって平気なのかもしれない。
私が猫離れできていないだけで。
卒業シーズンの3月、ハタチの節目にそんなことも思うけど、まあ愛玩動物だからいいよな、いいよね?

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知らんがな

この世界の片隅に

最近見た映画はパラサイトとスウィング・キッズ。
どっちも結構重い。だんだん映画が「他人事」ではなくなってきているような気がする。ただただ口をあけて、楽しく夢物語を見ていられる時代じゃなくなっているような気がする。
格差社会も貧乏も不運も、戦争時代の不自由も理不尽も苦しみも、すべて明日は我が身。
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そもそも映画館に行くことすら若干ためらわれるような今日この頃。上映中止になった劇場もあるらしい。払い戻しも受け付けてくれるらしい。
なんだか世の中が物騒でざわざわしている。昨日までの生活ががらっと変わるようなことが起きている。

会社だってそうだ。
「オリンピックのために時差通勤やテレワークを考えなければいけないとは言え、現状ではとても環境が整っていません。テレワークは多分無理なので、4月からなんとか時差通勤だけ実験してみようと思います。まずはアンケートをお願いします」と先週言われたばかりだが、コロナで大騒ぎになった途端、テレワークと時差通勤が急遽導入されることになった。
なーんだ、できるのかよ…!いざとなればできたのかよ…!とびっくり。

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若干ブラック臭もあるけれど。「やればできる」
世間がすごいスピードで非常時体制に入っていく中、使い捨てマスクを洗いながら思い出すのは「この世界の片隅に」だ。
この世界の片隅に

この世界の片隅に

  • 発売日: 2017/04/26
  • メディア: Prime Video

最近公開された(さらにいくつもの)の方は見ていないが、以前の「この世界の片隅に」の公開中は「戦争中でも工夫しながら普通に生きようとする姿がけなげ」「当たり前の日常が愛おしい」などとよく言われていた。
でも今、私達がいる状況って正にアレなんじゃないのかな、と思う。

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マスクも闇市で買わなきゃいけないし
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大本営発表のことはちょっと疑ってる。
トイレットペーパーが売り切れているのは地方だけの話かと思っていたら、スーパーでものの見事にトイレットペーパーがなくて笑ってしまった。最近では米も買い占められているらしい。ちょっと前まで米が売れない世の中だったのにな。
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不要不急の外出も控えるようにとのこと。
見に行く予定だったラグビーは海外開催となり、中国語教室は休みになった。プロ野球オープン戦や大相撲春場所も無観客開催になり、友達の家でテレビで相撲見る約束をしたけれど、出歩いていいのかしら。3月のハイキングには行っていいのかしら。
不要不急の外出だからダメかしら。
もしもそれで私がコロナにかかったら「ハイキングでウイルスをばらまいた非常識な人」と世間からは非国民扱いされるのだろう。
ちょっとヒステリックになった世の中は、国粋主義のように中国を叩き、イギリスを叩き、政府を弱腰と叩き始める。
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玉音放送よりハッキリ聞こえたのにも関わらず、あまり理解できなかった総理大臣のお話。
ああ、なんだか本当に歴史の再現ドラマを見ているようだ。
当たり前の日常がどんどん非日常に変わっていく。

とは言え、それでもなんでも普通に生きていくより他ないですよね。
流言飛語に惑わされたり、大本営発表に翻弄されたり、不安だらけの世の中でも、なるべく普通に、粛々と、できる限り今まで通り地道に。
だってそれ以外どうしようもない。

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当たり前のことをして、普通に。
映画の世界がどんどん他人事じゃなくなっていくこの世界の片隅で、普通に。
感染には気をつけないと、うちのにゃんこ兄弟を「火垂るの墓」にするわけにはいかない。
でも明日も普通に、いつもどおりに、まともに。

いつかそんな生活を他人から「けなげだ」と評されるんだろうか。

ばあちゃんのノート


星占いによると本日の蟹座は「すごく大事な事を教えてもらったり、教えてあげたりできるような日。とっておきの話。」との事。


12月に、もう年は越せないかもしれないと言われていたばあちゃんはなんだかんだ元気で年を越し、そしていよいよそろそろだと言う。
それで今日はばあちゃんの病院へ行ってきた。
相変わらず私のことは忘れていて、弟のことは覚えている。「ばあちゃん男のことはちゃんと覚えてる。いい女だから」と口も達者。
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猫の写真を見せると「あら、こんな若くてハンサムな男二人と暮らしてるの」なんて言う。
でもやっぱり随分むくんだり小さくなったり、起きてる時間が短くなったり、12月よりも元気はない。

病室には叔母か誰かが持ってきたのか、ばあちゃんのアルバムやノートがあったのだが、そのノートたるやすごい。
少なくとも25年前くらいから書き溜めてあるようで、気に入った短歌、俳句や文章、そしてきっとばあちゃんが「なるほど!」と感心して書き留めたのであろう様々な知識が書かれている。
「青丹よし 青=緑 丹=赤 春の奈良は緑と赤が美しい」
「蒲団 昔、綿を入れたふとんができる前はガマの穂を詰めていたから」
「千両箱の重さ=15kg」
なんと勉強になることか。
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あんまり面白いので私達は病室で、ノートを見ながらあれこれクイズを出し合う。
「日本の癌患者第1号は誰?」 「答えは岩倉具視
「太平洋戦争の開戦勅書を書いたのは誰」 「徳富蘇峰
「ルビの語源は」 「イギリスで活字の大きさを宝石の名前で呼んでいたことによる」

そんな面白知識のあいだに、山頭火の句や、若山牧水石川啄木の歌が書き写されており、また「日本尊厳死協会」の連絡先なども書かれている。
米兵と結婚した叔母がアメリカに行くことになった時の寂しい気持ちの日記も、実姉が亡くなった後にばあちゃんが作った歌も。
人生や老い、死への覚悟を意識させるような言葉たちも。
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「ホント面白いな、このノート。何度でも読みたいもんな」と弟は言い、「この人博学なのよね」と母が言う。
ばあちゃんはいびきをかいて寝ている。
そして私は「ばあちゃんみたいなノートを作ろう」と決意する。
今日の星占い、本当によく当たっていた。
「すごく大事な事を教えてもらったり、教えてあげたりできるような日。とっておきの話。」
本当にそのとおりだった。
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今年は開花が早いという桜。あと2週間くらいで咲くらしい。
ばあちゃんは今年の桜が見れるだろうか。
ボケても病気になっても笑って冗談を言って、面白いノートを残してくれて、なんとまあ見事な生き様だ。
一番大事な事はきっとそのこと。

相撲に感謝

1月の終わり、相撲友達のまるちゃんからLINEが来た。
「2月1日の豪風引退相撲のチケットまだあるみたいなんですけど行きませんか。私は例え一人でも行きます!」
ミーハーな私は即答で「行く!」と返事したが、もう一人の相撲友達つるちゃんはその日に予定があるという。だがしばらくして返事が来た。
「今豪風Twitter見てきたら、席埋めてあげないとって思った。途中からだけど行くよ!」


すごい。つるちゃんもまるちゃんも、なんという愛情の深さなの・・・。
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内館牧子に負けてないよ、その愛情。
引退相撲を見るのはこれで2度目だ。
1回目は日馬富士の時で、辞め方が辞め方だったものだから、司会をしていたNHKの藤井アナが「写真は撮って頂いて結構ですが、SNSやインターネットでの公開はご遠慮ください」と何度も注意を促していた。
藤井さんに言われちゃ仕方ないので、写真はおとなしくPCの中に収まっている。太刀持ち白鵬、露払い鶴竜という三横綱での最後の土俵入り、本当に豪華で素晴らしかった。

あの時とは違って今回は写真のアップも全然OKなのに、本当に大丈夫かな、となんだかソワソワしていた。
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豪風現役最後の相撲は長男くんと。長男くんは柔道をやっているらしく最後は一本背負いで長男くんの勝ち。
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今回の司会は刈谷さん。
つくづく思うけれど、NHKのアナウンサーというのはすごいもんだ。
日頃はテレビの向こうの、目に見えないたくさんの人達に語りかける仕事をしている人が、今目の前にいるお客さんたちに近い距離で語りかけることもできる。当たり前のことかもしれないけれど、距離感の使い分け、語りかけができるって本当にすごいことだと、昔選挙のウグイス嬢を少しやってた私は思うのです。
そしてこの後の幕内力士の取組では刈谷さんが実況解説してくれる。取組を見ながら国技館刈谷さんの実況が聞ける。
こんな贅沢あっていいの?いつもやってほしいくらい…と感動する。
何せトイレに行っていたって刈谷さんのおかげで取組の状況がわかるのだ。すごい。

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躍動感あふれる高安-阿炎の取組
なんだかんだ言って引退相撲も巡業も、花相撲で真剣度が低いので取組自体はあまり面白くない。前に仙台場所に行ったけれど「ああ、やっぱ本場所の方が面白いな、巡業はしばらくいいかな」と思った。
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2016年仙台場所での豪風
プロ野球でも、正直オールスターゲームはあまり面白くない。真剣勝負が見れないから。
とは言え、その分普段とは違う顔が見れるという魅力ももちろんある。サードコーチャーをやる藤浪晋太郎とか、笑顔の栃煌山とか。
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貴重な笑顔
「キャ!栃煌山が笑ってるー!!」
遅れてきたつるちゃんがはしゃいで写真を取り始めるので私も便乗。いつも本場所で「自分、集中してるんで」みたいな栃煌山ばかり見ていたので「笑えるんだ!?」と衝撃を受ける。まあ、笑うよなそりゃ。人間だもの。
秋田出身、そして2年前の夏の甲子園で大活躍した金足農業高校出身の豪風
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そんな訳でロビーには金足農業の化粧廻しが飾られていたし、金足農業高校の人も来た。北秋田市の市民栄誉賞なんかももらっていた。
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幕内取組前の断髪式には自民党の谷垣元総裁が来た。
そして車椅子から立ち上がって鋏を入れる。刈谷さんの感動的なアナウンスと相まって場内は「クララが立った!!」状態だった。
その後も延々と続く政治家による断髪。後で遅れてきたつるちゃんに「もう政治家ばっかりだよー」と言うと「まあ、秋田だからねえ」とのこと。
そうなの?秋田と言えば政治家なの?…選挙のウグイス嬢をやっていた割には政治に疎い私。
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はなわやくみつる隠岐の海、矢後、白鵬稀勢の里嘉風も鋏を入れて、最後は尾車親方の止め鋏。
すごく豪風のファンってわけでもなかったけど、やっぱり寂しくて泣いてしまう。
「ねえ、最近引退多すぎない?私が相撲見始めた時にいた人がどんどんいなくなる」と涙ながらにつるちゃんに訴えると、つるちゃんもやっぱり泣きながら「多いねえ。ていうか最近の力士がずっと長く相撲とってくれてるからねえ。昔はもっと引退早かったよ。長く相撲とってる人が多い分、引退が立て続けになるのかもね」と言う。

確かにそうだな。白鵬も今まで何人の力士を見送ってきたんだろうか。そんな白鵬だって、もう世代交代の波に飲み込まれてきている。若い力士が台頭してくるのは嬉しいし楽しみ。でも長く見てきた力士が去っていくのは本当に寂しい。
幕内力士土俵入りを見てしみじみ「本当に豪栄道がいないね。いつも土俵入りの最後にいたのにね」と不在を痛感した。
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それでいて、この先何度も見ることになるであろう貴景勝×朝乃山の取り組みにトキめきもする。

はね太鼓を聞きながら「ああ、豪風ホントに引退なんだねー」と帰路に着く。
豪栄道の断髪式も行こうね」「3月場所はつるちゃんちでテレビ桟敷で相撲見ようね」なんて空元気で約束を交わしながらも、寂しさいっぱいで駅に向かっていたら、駅横の立ち食い寿司屋の前でつるちゃんが「あ!」と声を上げた。
何?と横を見ると寿司屋の中に力士がいる。
「ほらあの!ついこないだまで弓取りやってた!中川部屋の…!!」
え、誰だっけ、誰だっけ、聡ノ富士の後に弓取りやってた…。

「春日龍!!!」

そう叫んだ後、「こういうとこでご飯たべるんだねー」と満面の笑みで言うつるちゃんには本当に元気をもらったわ。
さすが相撲の大先輩。
つるちゃんまるちゃん、いつも一緒に相撲を見てくれてありがとう、元気をくれてありがとう、断髪式に誘ってくれてありがとう。
そして豪風、今までどうもありがとう。お疲れさまでした。
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