天が下のすべての事

天が下のすべての事には季節があり、すべてのわざには時がある。
生きるに時があり、死ぬるに時があり、植えるに時があり、植えたものを抜くに時があり
殺すに時があり、いやすに時があり、壊すに時があり、建てるに時があり
泣くに時があり、笑うに時があり、悲しむに時があり、踊るに時があり
石を投げるに時があり、石を集めるに時があり、抱くに時があり、抱くことをやめるに時があり
捜すに時があり、失うに時があり、保つに時があり、捨てるに時があり
裂くに時があり、繕うに時があり、黙るに時があり、語るに時があり
黙るに時があり、語るに時があり、愛するに時があり、憎むに時があり
戦うに時があり、和らぐに時がある
           「伝導の書」第三章1~8節

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すべてのわざには時があり、時が満ちればいろんなことがいっぺんに起こるもので、この年度末たるや繁忙期に加えて、コロナに次ぐコロナ、尚コロナ、弟3号に子供生まれる、祖母が死にそう、等々盛りだくさんだった。

天が下、すべての事が同時に湧いて出始める春。
もう何度目になるか、祖母がいよいよ危ないと言われたのは三連休直前で、会社から病院に向かったが、穏やかに寝ていた。
翌日3連休の初日はよく晴れた麗らかな日で、弟と病院に行こうと車に乗り込んだところ、高速は観光客で大渋滞していた。
「渋滞ハマってる間にばあちゃん死ぬんじゃねえの」と悪態をついていた弟は、ようやく病院に近づくと明るく言う。
「こんなこと言ったら悪いんだけどさ、せっかくみんな揃ってるし、ばあちゃんも今日旅立つのがいいんじゃないかな」

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春のにおいがする
そうね。同じことを思っていたわ。
こんなことを思えるのは祖母が91まで長生きして、しかも呆けたりもせず最後まで穏やかでいてくれたおかげだ。
そんな訳で両親も同じ思いで、「本日もお日柄も良く…、って感じだし、今日でいいんじゃないかしらね」なんて話をした。
が、なごり雪降りしきる本日もばあちゃんはまだ生きている。
まだその時ではないのだろう。
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ワオテナガザルの親子
子供が生まれたばかりの弟3号、よくこんな大変な時にばあちゃんの所に来れたな、と思ったが、コロナウイルスの影響で産院への立ち入りを禁じられているらしい。そんな訳で出産にも立ち会えず、生まれたばかりのわが子に会うことも出来ず、出生証明書も受け取れず、という状態とのこと。
一応出産のときには病院の外までは駆けつけたらしい。だが中には入れてもらえなかったのだそうだ。
そして立ち会えない代わりに看護師さんが出産の動画を撮ってくれたらしい。今どき、そこまでしてくれるのだな。
ばあちゃんの寝顔を見守るだけのヒマな病室で、出産動画を見るか、と聞かれたけど、いやいやいやいや、帝王切開とか無理です、ご遠慮いたしますと丁重にお断り。
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コアラの親子。クイン&シャイン
それでもどうしてもばあちゃんにひ孫を見せたい弟は、ばあちゃんの目を無理やり開けようとしたり、耳元で動画を流し始めたりと強硬手段に出る。
動画から流れる赤子の泣き声はまるで子猫みたいで、感想を述べると、弟も「そうなんだよ!俺も病院の外でさ、あれ、どこかで猫が鳴いてるなと思ったら子供産まれてたわ、ははは」と笑う。
そう…そういうもんなんだね…。なんかこうドラマみたいな感じとはちがうわけね、なるほどね。
両親は「ホント命のリレーよねえ」としみじみしている。
生まれるに時があり、死ぬるに時があるとは言うが、うまく出来てるものだな。まるでゆく年くる年みたいだ。
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世話の焼けた赤子時代。
あーあ、せっかくなんだから今日がいいと思ったんだけどなあ、と弟は最後まで祖母の旅立ちの日を譲らない。
「俺、もう来週からは子供退院してくるから無理だからな」「まあ最後にこうやって集まったからもうこの後立ち会えなくてもしょうがないわよ」などと言いながらお茶を飲んで家族は解散。

その後の1週間はコロナコロナコロナで日が過ぎた。
何もかも、いったいこれからどうなることやら。

だがしかし、すべての事に時があり、なるようにしかならないのだから黙って成すべきことをするしかないさ。
この天が下、生きてから死ぬまでの間。
明日、会社に行くか行かないのかもわからぬ状態ではあるが、いずれ時が来るであろう。