新しい朝

35をすぎたらめっきり夜更かしができなくなった。
ここ数年ずっと11時には大体寝てしまい、朝は5時半くらいに起きるという老人のような生活だ。友達と旅行に行くと「え、もう寝る?」と毎回驚かれる。

築地の朝

だが、もっと前は全然そんなんじゃなかった。毎日1時2時が当たり前だった。我が家は全員宵っ張りで、小学生の頃だってそれくらいまで起きていた。
その結果当然朝は弱い。林間学校に遅刻しそうになったこともある。高校の頃の五色沼合宿にも寝坊して一人で電車で追いかけた。ものすごく恥ずかしくていたたまれなかった…。
夏休みの間中開催されていたラジオ体操だって、40日中、1日出れるかどうかだった。

だから恥ずかしながらラジオ体操の歌も歌えない。学生時代のお泊まり会で徹夜した朝、「あれ歌わないと朝が来ないんだよ」と、突如大声で歌いだした友達の姿に大笑いしながらも「そういうのいいな」と憧れた。積み重ねてきた習慣があるっていいもんだ。

学校でよくやるラジオ体操第1はできても、第2はイマイチ動きもよくわからないまま大人になった。

おかげで、朝型生活になった今でも、そんな自分を信じきれずにいる。
友達に「私の友達の中ではまめが一番朝に強いから」という理由で早朝試写会に誘われても「あ、あ、あ、ありがとう(本当は違うのよ)」と引きつって笑うし、同僚が「朝遅くまで寝てると気持ち悪くて…」と言えば(ああ、これが本当の朝型人間なのだな…)と羨望の眼差しを送る。
久々に会った弟が「まめちゃん、朝起きれないじゃん。え?最近早起きなの?年取ったね」と鼻で笑えば、(そうよね、そうなのよね…)と少しばかり傷つきながらも安堵する自分がいる。

熱海の朝

規則正しい生活ができるようになったのは転職して今の職場に来てからだ。
何せ早番とか遅番とか終電帰りもない。初めて出社した日には、帰ってきてもまだ明るい!!と感動したものだった。
そんな素晴らしい職場でイキイキと働く女子たちはさすがなもので、毎朝、NHKで放送している「テレビ体操」をやっていると言う。ああ、あの、真ん中に座ってる人がいるやつね…。
「いや、アレね、バカにできないって!本気でやると結構大変なんだから!」
まだ20代だった同僚は力説する。他の子も言う。「いや、ホント私も最近始めたんだけど、結構ヤバい」

広島の朝

そんな同僚たちの証言を「いやあ、面白い人達ね」「あれ、完全に老人向きじゃない…」と笑って何年もスルーしてきたが。
先日、名古屋へ行った折、宿泊先のホテルで朝テレビをつけたらちょうどテレビ体操が始まるところだったので、どれどれとやってみる。そして愕然とする。
「体が動かない!!!」
ラジオ体操一つまともにできなくなってる。垂直ジャンプが難しくなってる。なんか骨がゴリゴリボキボキ言う。やたらよろめく。なんてこと…なんてこと!こんなにも動けないものなの?

それに比べてテレビの中のお姉さんたちのなんと美しい動きであることか。皆さん体育大学出身らしい。そしてピアノもわざわざ芸大やら出ている方々が弾いてくださっている。贅沢だな、この体操。
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NHKテレビ・ラジオ体操
…この所、背中に肉がついてきたのを痛感したり、職場の大御所お姉さまの背中の食い込みに「ああはなるまい」と思ったりで、ヨガでも始めるか…と検討していたが、ヨガどころではない。まずはラジオ体操のできる体にならなければ…お金もかからないしな、と早速帰宅後からテレビ体操を毎日録画して朝晩やることにした。

ベトナムの朝

驚いたことにテレビ体操は土日祝に関わらず365日放送している。しかし8月末の北朝鮮のミサイル発射の日はさすがにJアラートのせいで放送が飛んだ。ミサイル飛んできたら体操もなしか…とそんなところで非常事態を実感した。
体操を初めてそろそろ1ヶ月。
おかげさまでよく知らなかったラジオ体操第2を覚えた。ラジオ体操の歌はやらないので覚えられない。朝型だという自信もまだない。垂直跳びは問題なく出来るようになったが腕を回すと相変わらずボキボキ言う。

近所の朝

もう亡くなってしまったが、随分前、父方の曾祖母のお兄さんが法事の折に言っていた言葉を思い出す。
「私は60の時に決心してラジオ体操を始めて30年になります。まめさん、何かを始めるに遅いということはありません」
41で決意して、今からどれくらい続けられるかしら。そのうち腕はボリボリ言わなくなるかしら。背中の肉はとれるかしら。
そして、いつか自信を持って「朝型です」と言える日がくるのかしら。
まあ、当座は迫り来る冬を乗り越えることが一番の難関なんだけど。