君拾帖

すきなことだけてきとうに

三途の川の向こう側

三大「友達や親と“いつか一緒に行こうね”と約束する場所」は上高地尾瀬屋久島。
どれもまあ、国内だし行こうと思えば行けるけど、なんだかはるか遠くの夢の国みたいで「死ぬまでに1回行ければいいや」なんて後回しにしている。

が、課長はにんまり笑って「俺はもう全部行ったな」と言う。
そして「先週尾瀬行ってきたからさ、写真見せてあげようか」とiPhoneを持っていそいそやってきた。
あら、尾瀬ですかー。私、実は尾瀬ってどこなのかもよく知らなくて…。
と言うと、課長も「うーん、いろんな県の県境」と言葉をにごす。行ってきたくせに…。

新宿を早朝発のバスで5時間くらい、今がちょうど水芭蕉の時期だけど思ったほど混んでいなかったそうだ。
そして「是非行ってご覧。まずは日帰りでも。平坦なコースだし気構えずに。是非に」との事。
この課長の「是非に」に触発され、調べてみたら夜行バスで行く日帰りプランがあった。でも満席でしょう?と思いきや空席有り。週末の天気は晴れ予報。
…行くか。行っちゃうか、もう。

バスのチケットをポチっとして「あの…課長に触発されて週末のバスのチケットとりました…」と報告したら「マジで!?いいねえ!その行動力!!」とお褒めに預かり、有頂天。

池袋23時発。尾瀬戸倉4時30分着。鳩待峠5時30分着で14時30分まで自由行動。
ちなみに尾瀬群馬県。福島や新潟とも隣接してるらしい。関東だったんだな。

当然のことだが、歩いている間頭の中を流れる曲は「夏がくーれば思い出すー」だ。
水芭蕉か。「夢見て咲いている水のほとり」とか言うけど、水芭蕉の真ん中のマイクみたいなところって若干気持ち悪いよな、どのへんが夢見てる感じなのか、と思っていました、まだこの時は。

1時間ほど歩いて開けたところに出た途端に「あ、これはヤバいな」と思った。

だってこれ、こんなのってもう天国だもの。
私のイメージしてた三途の川の向こうってこんな感じだもの。

ああ、これが「夢見て咲いている水のほとり」か。夢見てるな、確かに。

そして人々はみな同じ方向へゆっくりゆっくり歩いて行く。
これもう完全に召されてるな。召されてるなう。

死にかけた時に川の向こうに死んだばあちゃんが立ってて「まだ来てはいけない」とか言い出すタイプの川。

亀山モデルのテレビのハメコミ画面みたいな景色。

これだけひらけていると日影がないのが少しつらい。天国も日影ないのかしら、太陽に近いから暑いんじゃないかしら、と、余計な心配をする。

帰ってきて友人に「尾瀬ヤバい、浄土感ハンパない。丹波哲郎とか宜保愛子とか出てきそう、召されそうだった」と興奮を伝えると「どんな臨死体験だよ」と笑われた。
いや、ホントあれ、尾瀬に行くって臨死体験ね。大霊界ね、懐かしい!と、また興奮。

大霊界~死んだらどうなる [DVD]

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月曜日、課長にも浄土感を伝えたが「何だよそれ」と笑われただけだった。
課長は曇りの尾瀬だったからわからなかったんですよ!
晴れてたらあれは完全に、三途の川の向こう側。

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曲がり角ごとの驚きⅩ 使いみちのない風景

すべては冠を頂いた幼年期のなかに坐っている
曲がり角ごとの驚き
         トリスタン・ツァラ「内面の顔」

犬も歩けば棒に当たるし、曲がり角を曲がるたびに、
どこかへ出かけるたびに、おかしなものばかりが目につくし。

ベトナムの看板。おそらく高圧電流がどうのこうのってやつだろう。言葉のわからない私にも、言わんとすることは伝わる素晴らしい看板だが、なんて顔だ。

奈良井宿。臼改造型椅子。
人はどういうタイミングで「この臼、もう使わないな」と思うのだろう。息子が上京して餅をつく人がいなくなったとか、そういう時か。それでもなぜ「処分しよう」ではなく「そうだ!椅子にリメイクだ」と思えるのだろう。
しかし調べてみると、臼を改造した椅子はアンティークとして多く出回っており、それなりのお値段だ。
ちなみにこの椅子、割りと尻のサイズが限られる。

ベトナムのカラオケおじさん。年の瀬のお忙しい中、昼間から大音量でカラオケを歌いながら歩いてくる。かなり上手だが、なんなんだ、これは。

合羽橋。ネギスライサー・ネギー。そのまんまだが味わい深い。ネギー。

同じく合羽橋。つま太郎。「一気に仕上げる高性能。手切りにせまるつま太郎」なんと語呂の良いキャッチコピーよ…。

談合坂サービスエリアのクレイジーなホットドックさん。

大井町にて。いつから時が止まっているのか…。

スペイン。TUNA TOUR。ツナツアー。
要はあれだな。葛西臨海公園のマグロ周遊みたいなやつだな、きっと。
西洋人もマグロ周遊の雄大さには心打たれるものなのか。

バルセロナ。観光周遊バス停留所の屋根の上には各国語ガイドで使われたイヤホンが山積み。
目の前の老夫婦もやっぱり楽しそうにここに投げ捨てていた。
ゴミのポイ捨てというより、輪投げみたいな感覚っぽい。

仙台の水族館で目の前を歩いていた小学生男子のリュックについていた納豆ブローチを盗撮。
これすごく素敵。特にこぼれた納豆が。
欲しい。けど、作る気力と甲斐性はなし。

仙台うみの杜水族館で売られていたイカバッグ。怖い。

城ヶ島。行き倒れみたいな干され方のダイビングスーツ。

高松。この真ん中のマークは何なのか、あれからずっと考えている。

高知。強力ATM。強そう。何が強いのかわからないけど。

更に高知。「ソフトバンク会長王貞治様お客様です」って言われてもねえ。
ともかくソフトバンク会長王貞治様がお客様な果実店。

高松。一般道の中央分離帯
「この付近に生えるキノコ(オオシロカラカサタケ)は有毒で食べると中毒症状を起こします。持ち帰らないでください」との事。
こんな場所のキノコを採取して食べようとする猛者がいるのか…この四国の地には。

街はなんと驚きと不思議に満ちていることか。

使いみちのない風景 (中公文庫)

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お久しぶりね


交流戦の季節、一番いいのは会社帰りにライオンズの試合を見に行けることだ。平日ふらっと行くには西武ドームは遠すぎる。
「今日野球行くから、絶対残れないから!」と昼休憩も半分にして仕事をバタバタと片付けて、今年初のプロ野球観戦。

お久しぶり神宮球場。席に着いたらすでに1点入ってた。

先発は菊池雄星お久しぶりね。あなたもいい人できて結婚したせいか、ずいぶん大人になったわね。

久しぶりだから忘れてたけど、交流戦はピッチャーも打席に立つんだった。

去年はここで、打席に立つ岸くんを見たっけ。あれは岸くんの怪我からの復帰戦だった。そんな岸くんももういない。

あの時代打で元気に出てきた森くんが今年は怪我でいない。
1年て長いんだか短いんだか。

坂口ってオリックスにいたあの坂口か。神宮は懐かしい人にたくさん会える。前にもソフトバンクにいた新垣くんが出てきて驚いた。大引もいる。

でも何より成瀬くんだ。

成瀬くん!久々の成瀬くん!横浜高校出身の成瀬くん!キャー!

…と、トキめいたがワンポイントなんてひどいじゃないですか、真中監督。もう少し成瀬くんが見たかった。

しかし代打上本くんでトキめきを取り戻す。上本くんやっぱりいいなあ。きっちりヒット打って、ベンチに帰ってみんなにすごい笑顔で迎えられる。

メヒアも満面の笑み。

大松!成瀬くんもいて大松もいるのか。脳内に千葉マリンのウグイス嬢の「オオマツ~」という声が響き始める。

極めつけは鵜久森くんだ。鵜久森くん、そうか、ヤクルトにいたのか。
2004年、駒大苫小牧高校が初めて優勝した夏の甲子園勝戦済美高校最後の打者が鵜久森くんだった。真剣な横顔がニュースでも熱闘甲子園でも高校野球雑誌でもどこでもクローズアップされていた。
久々に鵜久森くんの、この横顔を見て変わらないなあと思ったり、でも大人になったなあ、と思ったり。

神宮のナイターは夕焼けがきれい。もっと暗くなると高層ビルの灯りがきれい。月もきれい
夏も来ようっていつも思うけど、またきっと来年になるんだろう。そして「お久しぶりね」と思うんだろう。
ああ、楽しかった。野球ってやっぱ楽しいな。ライオンズ勝ったしな。

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むくわれてあまりある


最近マンガの引用ばかりでちょっと気が引けるが、大好きなんですよ、マンガ。

これは「エースをねらえ」で、お蝶夫人に憧れ続けた尾崎さんが初めてお蝶夫人を送ることに成功し、海を見に連れていき、手を差し出されて感極まるシーン。
「あのプライド、あの気性。あの人は10代の男にどうこうできる相手じゃない」と言われるお蝶夫人もまた10代。恐るべし。
尾崎さんは大変な相手を好きになってしまったのだな。
そして私は大変に可愛いコアラが好きになってしまったのだ。
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そんな訳で先日多摩動物園に行ってきたが、一人ぼっちのコアラが寂しく眠り続けているのみであり、今際の際のゲーテの如く「もっとコアラを!」と切に願った私は、その情熱の赴くまま、翌日すぐに、赤ちゃんコアラがいるという埼玉へ出かけたのであります。
埼玉県こども動物自然公園 Saitama Children's Zoo

開園前から、コアラ窓口で待機。来る途中、バスの中から「産直市場 コアラの里」なんてお店も見えて、期待が高まる。
開園するなり一直線にコアラ舎へ。

相当歩く。橋も渡る。

まだ歩く。

コアラ舎!

顔ハメ看板がなんか斬新。もちろん一番乗りだ。

いた!

あっちにも!5頭もいる!すごい!

でもまあ寝てるよね、そうよね…と思っていたら動き出すので大興奮する。

おおお起きてる!動いてる!しかもなにげに動きが早い!

「コアラだけど何か質問ある?」みたいな顔。

これ、あの女子がキュンってするって噂の、「ドライブ中、バックする時、助手席に手をかけてハンドル切る彼の姿」でしょ、そうでしょ。すごいトキめく~!
まあ、ここにいるのはみんな女の子なんだけど。

木に登ったり

いい顔をしてくれたり、あまりにサービスがいいので「あなた、なんておもてなし精神に満ちたコアラなの…」と感動する。
ちなみに飼育員さんが作ってくれたコアラ紹介ボードがあるのだが、この子が誰なのか、見分けられなかった。ニコニコ笑顔がジンベラン、鼻が真っ黒なのがエミらしいが、みんなニコニコ笑顔で鼻が真っ黒に見える…。

赤ちゃんもいた!!!赤ちゃんを抱いているのが小顔ガールのドリーのはず…。

隣の木では、赤ちゃんと同じ顔で眠る女子。

一旦起きて、器用な姿勢で眠りなおす。

外でカメとナマケモノ見て、また戻ってきて赤ちゃん見て、約2時間、大興奮しながらコアラ舎に張り付いていた。


エースをねらえの尾崎さんはお蝶夫人を送り届けただけで「思い焦がれた3年半、むくわれてあまりある」と感極まっていた。
私も同じ。
片道2時間の道のりも早起きもむくわれてあまりある。あまりありすぎる。
感極まって鼻血が出そう。
ありがとう、ありがとう、埼玉県こども動物自然公園

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紫のバラのタコ


先日行った小江戸川越。何故だかうなぎも有名らしい。
カメレオンがどーんと鎮座する鰻屋。
今年はうなぎが値下がりするんですってね。
うなぎの価格がうなぎ登りだった数年前、母が得意げな顔で「うなぎって生態が全然わかってないから養殖が難しいんだって。海に出てった後、どこでどうしてるか全然わからないんだって」というので、この時代にまだ解明されていないことがあったのか、と驚いた。
しかも、宇宙の成り立ちとかじゃなくて、うなぎが!

まあ、ダイオウイカも謎らしいけど。

そしてタコも謎らしい。

タコの教科書

タコの教科書

以前も書いたけれど、スペイン在住のアメリカ人ジャーナリストが書いたこの「タコの教科書」という本が非常に面白い。
「タコをよく食べる国としてはやはり日本を挙げないわけにはいかないだろう」と述べる著者は、しかし日本へのライバル心メラメラである。それはタコをめぐる憎愛と呼べるほどだ。
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タコの養殖の難しさを述べる項には
「スペインは積極的にタコの養殖技術を公開しているのに、日本人は秘密にしている。スペイン人やメキシコ人の間では、日本人は本当は既に養殖に成功してるんじゃないかという噂がある。自分たちだけが養殖に成功すれば山ほど金を稼げるもんな」
というようなことが書いてある。
これだけでも、お前どれだけタコが大好きだよ、と驚きだが、タコの世界はさらなる驚きに満ちている。

この本によれば、タコの養殖を成功させたと明言できる国、それはメキシコだとのことだ。著者は幸運にも、卵から養殖されたタコが網にとらえられ、出荷される瞬間を見ることができたらしい。
そうか、それはそんなに幸運なのか…。
そして養殖プログラムを率いた50歳の海洋生物学者ロサスは胸を張って言うのだ。

これまでは、タコは忘れたころにぽつんぽつんと育ってくると育ってくるという感じでしかなかった。でも今後は計画通りに育てれば何万匹でも大丈夫だ。実に感激だよ。

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それなのに。嗚呼それなのに、それなのに。
タコ養殖、加工工場、レストランを併設する複合施設の建設にあたり、タコ養殖推進派と他の観光業者との間に悶着が発生。ようやく決着が着き、事業が現実味を帯びてきた矢先、1万3000匹のタコを育成中の建物が全焼。
「火をつけたのは、タコの養殖が成功するのを見たくない誰かであろうというのがおおかたの見方だ」との事。
…放火なのか。タコの養殖に反対するあまりの。タコとはそこまで人を激情に走らせるものか。
尚、このメキシコで養殖されているタコの名前はオクトパス・マヤ
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マヤ、おそろしい子…。
本の中で著者は折に触れて、このオクトパス・マヤがマダコに劣らぬ味わいであるにも関わらず、評価が低いことを嘆いており、「世界市場の多くはマダコに慣れているという理由でしかなくても、あくまでもマダコを要求する」と不満げだ。
著者のアツいマヤ推し。まるで紫のバラの人。
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あまりの情熱に気圧されて、心の片隅にずっとタコ養殖のことが残っていたので、今日こんなニュースを見て「おお!ついに!!」と図らずも感動してしまった。
ほら見ろ、紫のバラの人。ついに日本がやったぜ。お金のために今まで成功を隠してたんじゃないぜ!
そうか、日本水産がついにやったか。ついに…。
…別にタコ業界に詳しいわけでもないのだが、こんなにも胸をアツくさせるのは、ひとえにタコ業界の方々の情熱のせいだ。
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なんてことだ、この私がタコ養殖に感動だって?タコの種類も違いもわからない、まして触ることなどできない、この私が!

…タコって人を紫のバラの人にさせるものなのかしらね。

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曲がり角ごとの驚きⅨ 青木の仕業

埼玉で過ごした高校時代、後輩がほりのぶゆきにハマっていて「先輩も読んで下さいよ」と薦めてくれた。

かなりお下劣でバカバカしいのだけれど、二人でゲラゲラ笑い転げた。
そんな青春の1ページに鮮烈に刻まれたのはこれ。
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正直これを読むまで青木昆陽を知らなかったが、これ以降、私の中で江戸城の庭は一面のサツマイモ畑であったとの認識になってしまった。
「旦那がうちの庭を勝手に家庭菜園にした」という職場の主婦の嘆きを聞いても、密かに「青木昆陽かよ」と思ってしまうし、母が焼き芋にハマった時にも「青木の魔の手が我が家にまで」と、あの漫画を思い出した。
目黒不動で偶然、青木昆陽の墓を見つけたときには「実在してたのか!(当たり前だけど)」とトキめいたものだ。
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さて、窓の外に西武園遊園地の観覧車が見える部室で、後輩と笑い転げていたあの頃、川越はまだ今みたいに小江戸前面推しの観光都市ではなかった。それがいつ頃からか急に「小江戸」として町の整備や観光誘致をし始めた。

ええー?川越が観光地なの?と、どうにもピンと来ないままに神奈川に戻ったが、今となっては東京から気軽に行ける観光地としてかなり名を馳せているらしく、同じく「川越なんてわざわざ行くか?」と笑っていた高校の同級生達も、チラホラと「川越なにげに面白いよ」と言い出すようになってきた。

そんな折、はてなのお友達で川越出身のいもこさん(id:xx_green-heuchera_xx)にお会いするチャンスがあったので、川越を案内してもらうことに。

蔵の町はスポーツ用品店まで蔵造り。まさかこんなガラス戸の向こうで微笑む大谷くんを見るとは。

とは言え、私だって学生時代は埼玉で過ごしたのだから、川越がさつまいもで有名だということくらいは知っていた。

知ってはいたけど、まさかここまで芋づくしだとは思わなかった。

そびえ立つさつまいものダンボール。

アイディア麩菓子。

種子屋さんもサツマイモ栽培を推奨。

「いも恋」という芋愛に溢れた店の前では部活帰りらしい大量の学生達が何らかの芋スウィーツを召し上がっていた。

いも茶。茶もあるのか。芋から出した茶なのか、葉を使用しているのか。

おしゃれな芋けんぴ屋ののれん。
兎にも角にもさつまいも。見てるだけでお腹がいっぱいになるほどだ。
さつま芋饅頭、さつまいもソフトクリーム、芋ようかん、芋チップス、スイートポテト…。


さらには、芋そうめん、いもうどん、芋釜めしの店もあった。
小江戸川越、ここはさつまいものテーマパークなの?
怒涛のさつまいも波状攻撃に圧倒されながら入った川越市立博物館でもさつまいもについて教えてくれる。

出た、青木昆陽
さっきからずっとお前のこと、考えてたぜ。
芋そうめん、いもうどん、芋釜めしなんて無茶しやがって…。お前の仕業だな、青木。

氷川神社の入り口で夏らしく回る風車の紫色さえさつまいもの色に見えてくる。これもきっと青木の仕業。
尚、お会いしたいもこさんのハンドルネームも川越の名産が芋だから、とのことでした。なんという地元愛。そして芋愛。
その愛もきっと青木の仕業。

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幸福な蕎麦屋


世界じゅうがだれもかも偉い奴に思えてきて
まるで自分ひとりだけがいらないような気がする時
突然おまえから電話がくる 突然おまえから電話がくる
あのぅ、そばでも食わないかあ、ってね
(中略)

風はのれんをばたばたなかせて ラジオは知ったかぶりの大相撲中継
くやし涙を流しながらあたしたぬきうどんを食べている
おまえは丼に顔つっこんでおまえは丼に顔つっこんで
駄洒落話をせっせと咲かせる

            中島みゆき蕎麦屋

つくづく中島みゆきは恐ろしい。
大事なことは何も言っていないのに、情景も心情もすごくよく伝わってくる。
老夫婦の経営する、少し薄暗い蕎麦屋だ、きっと。
まちがっても小奇麗で気取って、そばにうるさい店主のいるようなこだわりの蕎麦屋じゃない。
歌詞に「とんがらし」とでてくるが、きっとひょうたん型の入れ物に入ってるんだろう。
この曲をいつもドリカムの「なんて恋したんだろ」と比べてしまうのは多分にうどんのせい。

最後の夜 話し疲れて ふたりでおうどん泣きながら食べた 今思うとなんか笑うよね
それでもお互い 思い遣ってえらい、おわりまでずっと気遣いあってた
        DREAMS COME TRUE「なんて恋したんだろう」

こちらはずいぶんカジュアルだ。こんな別れ話、「味の民芸」ですればいい。
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増田屋でもまあいいんだけど、できることなら別れ話中のカップルには増田屋のことはそっとしておいてほしい。
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子供の頃、ある日突然近所に増田屋ができた。
あれが生まれて初めて見た増田屋で、なんだか普通の蕎麦屋とはちょっと違う感じに見えた。中に入ると、優しい親戚の家に来たみたいないい匂いがして、人の良さそうな夫婦が経営していて、行くといつでもこけし型の容器に入ったお子様セットを頼んだものだ。
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ちょっと違うけどこんな感じの。
吉本ばななの小説「キッチン」の続編にものすごく美味しいカツ丼屋さんが出て来るシーンがある。新しくて白木の匂いがして清潔で手入れの行き届いた感じのいい店だ。主人公は、母を亡くした友人にその店のカツ丼を届けに行き、友人が少し元気を取り戻す。

キッチン (角川文庫)

キッチン (角川文庫)

私にとって増田屋はあの小説の中のカツ丼屋のように、なんだか夜道にぼうっと光っていて安心させてくれたり、懐かしくてキュンとしたり、幸せの象徴のように思える店だ。
増田屋を見かけると「あ、ここはいい町だ」と思えるくらいに。
ちなみにあれはチェーンじゃなくて暖簾分けなんですってよ。

さて先日、そんな思い入れのある増田屋にふらっと入った。ガラッと扉をあけたら、大相撲中継の声が聞こえて、おじさんとおばさんがそそくさと立ち上がる。
あ、相撲見てたのか…とちょっと嬉しくなりながら、大相撲中継の見える席に着いて、最後の3番くらいを見た。

高安のお母さんの表情に涙ぐむし、白鵬と玉鷲の真剣な立会いにも胸を震わせながらそばをすする。
冒頭に引用した中島みゆきの「蕎麦屋」でも大相撲中継が流れていた。
梅にうぐいす、蕎麦屋に相撲。
相撲の結果が気になって、時々そわそわと厨房から出て来るおじさんとおばさん。

かまぼこ板とガムテープで修復されたテーブルのガタつき。
清潔な店内。手入れの行き届いた鉢植え。
世界じゅうがだれもかも偉い奴に思えてきて、まるで自分ひとりだけがいらないような気がしたとしてもここのおじさんとおばさんは優しくお蕎麦を出してくれるんじゃないか、みたいな安心感。

完璧だ。
今、私は完璧な場所にいる、完璧な夕方、と幸福感でちょっと胸がつまるくらい。
こうしてまた増田屋に幸福の思い出が積み重ねられていくんだ。

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