君拾帖

■くんしゅうちょう■  すきなことだけてきとうに

扉の向こう側

昨今では宅配便を装った殺人事件などが起こる物騒な世の中なので、簡単にドアを開けてはいけないなんてよく言われるんだけど、ドアチャイムが鳴るとついうっかりインターホンも使わずにハイハイとドアを開けてしまう。ビールなんか飲んで上機嫌なら尚更だ。
そんな訳で、3月の終わり、新聞屋につかまった。朝日新聞

完全保存版 高校野球100年

完全保存版 高校野球100年

高校野球ファンなもので、朝日新聞には分が悪い。
「今センバツ開催中なんですけど、これはうちと毎日新聞の共催なんですよー」
…知ってる。
「夏はウチの単独主催で、今年は100回記念大会なんです。」
…もちろん知ってる。
「3ヶ月だけでもいいので購読してくれませんか。紙面も野球に力をいれていきます。購読して頂くと、その分何割か、神奈川の野球部にボールを寄贈したりすることにもつながるんです」
…くっそーーーー…。そんなこと言われたら、ぐらっとくるじゃんか。
ダメ押しに、人体展と山種美術館ベイスターズのチケットくれたので、もうしょうがない。3ヶ月購読することになった。そうして届く新聞を読んで、あれこれ度肝を抜かれる。
f:id:mame90:20180422204822j:plain:w350
まず、折込チラシの中にまぎれる「定年時代」という地域情報誌。なんてタイトルだよ!!
地元の老人たちが老いてなおイキイキと過ごす様などが書かれている。「封印されたヨーデルの復活」とか。
…なんなの…?
折込チラシも墓だの介護だの。新聞紙面の広告もヤバい。
「自分の力で歩く!!本当に信じられるサプリを見極められるか!!上り下りも自分らしく。90才、ジョギング大会が楽しみ!」
f:id:mame90:20180422205531j:plain:w350
すごい迫力で薦められるオオイタドリサプリ。
その他、セサミン、コンドロイチン、キューピーコーワゴールド、ハズキルーペ。
また、朝日新聞の「4月から紙面を刷新する」旨のお知らせ欄には「若い人の声もたくさん!」などと書かれ、投書欄には「僕は13才です」だの年齢アピールから始まる、ちょっとイヤらしく狙った感のある「若者の主張」が連日並ぶ。
あまりのことに目眩を覚えつつ、しみじみ実感した。
「今、新聞読んでるのって本当に高齢者だけなんだな…。読者層に応えようとするとこうなるんだな…」
まるで老人ホームの扉をあけたような気持ち…。

細面歴写送後詳細

小さな求人欄にはこんな暗号も並ぶ。
大昔、祖母が言っていた。
「おばあちゃんね、若い頃、仕事探そうと思ったんだけど、何見ても「細面」って書いてあるからね、細面じゃないとダメかしらって鏡を見てずっと悩んでいたの。でもあれ「委細面談」の略だった!」
祖母からあの話を聞いていなかったら私は上記の暗号を解読できなかったことであろう。
祖母の若い頃から今にかけて、変わらぬものがこの新聞の紙面にあるのだな。「紙面の都合上」「紙幅の都合上」っていう言葉が、今尚リアルに存在するのだな、ここには。
f:id:mame90:20180422213344j:plain:w350
もう、驚きを通り越して、不思議な気持になってくる。なんだか生きている世界が全然違うみたい。パラレルワールドみたい。ニュースやネット記事とはまた少し違う角度のアプローチや書き方なので、書かれていることが本当に今の世の中のことなのかどうなのかもわからなくなってくる。

山極寿一×鎌田浩毅 ゴリラと学ぶ:家族の起源と人類の未来 (MINERVA知の白熱講義)

山極寿一×鎌田浩毅 ゴリラと学ぶ:家族の起源と人類の未来 (MINERVA知の白熱講義)

そんな中、一番楽しみにしているのは紙面の下にある、本の宣伝ページだ。世の中にはこんな奇妙な本があるのか、と驚くような本の紹介がたくさんある。こればかりは「新聞でしか知ることのできない情報」のような気がする。キャッチコピーがたまらなく面白い。
「霊長類学の第一人者にして京大総長、異色の火山学者と大激談 『ゴリラと学ぶ』」
すごい。なぜ火山学者とゴリラの話をするのか。もう読みたくてたまらない。
歎異抄をひらく

歎異抄をひらく

「なぜ、無人島に一冊もってゆくなら歎異抄なのか。何が、心の支えになるのか」屎尿・下水研究会なんて会がこの世にあるとは知らなかった…。非常に興味をそそられる。
家主と地主 2018年 05 月号 [雑誌]

家主と地主 2018年 05 月号 [雑誌]

「家主と地主」
こんなドストレートなタイトルの月刊誌が世の中に出回っていたことも知らなかった。

扉をあけると新聞屋がいた。そして新聞という扉の向こうには老後の世界が広がっていた。マニアックな本の世界も広がっていた。もはや指を舐めなければページがめくれないという、我が身の老いも教えてくれた。
いやあ、勉強になるなあ…。でも3ヶ月でいいや、ホント。
この扉の向こうはまだ早い気がする…。

広告を非表示にする

曲がり角ごとの驚き・25~苦難に耐えて~

以前、別ブログでこんな記事を書いたけれど、人間ジブリが出たら本当に危険な状態だと思う。

よしながふみ「1限目はやる気の民法」より、司法試験に失敗して精神を病んでしまった先輩の台詞。何度見てもゾッとする。やばい。
前のブラックな職場で徹夜明けの先輩がナウシカ・レクイエムを歌っていたのも怖かった。

木更津キャッツアイ 5巻BOX [DVD]

木更津キャッツアイ 5巻BOX [DVD]

宮藤官九郎脚本の「木更津キャッツアイ」の中でも、阿部サダヲ山口智充が「どうだ、女にフラれた時はジブリに限るだろう」「…なんかすいません」と二人で泣きながらジブリを見続けるシーンがある。
よしながふみ作品ほどではないが、このやり取りをみても、やはりジブリ作品にはなにかしらの廃人ベクトルがあるのだな、と実感する。ディズニーには決してない何か。
f:id:mame90:20180415191705j:plain:w450
まあ、人魚姫すら無理くりハッピーエンドにせざるを得ないディズニーにもそれなりの狂気は潜んでいるのだろうけども。
人間、生きているといろいろあるから、いろいろ乗り越えないといけないから、大人になればなるほど、それぞれの乗り越え方があると思う。ジブリまではいかなくとも。
f:id:mame90:20180415185309j:plain:w300
羽海野チカハチミツとクローバー」の中で、いろいろ訳あり女性のリカさんは気づくとぼーっと小樽のライブカメラを眺めている。帰りたいけれどなかなか帰る勇気の出ない場所。
それに気づいて強行突破してくれる若造…という形で物語は進むけれど、実際の人生だったらそんなことないかもしれない。10年も20年もライブカメラを見つめるだけかもしれない。
それでも、その事でまだもう少し頑張れるなら、それでいいと思う。
f:id:mame90:20180415193351j:plain:w400
最近気づいたけれど、私、冬はやっぱり気が滅入るみたい。2005年や2006年の冬は、毎日夜中に駒大苫小牧高校の甲子園の試合ビデオを見てから眠りについた。
そのあとはWBCのビデオを繰り返し見て泣いたり、ライオンズが優勝した日本シリーズを毎晩見て泣いたりしてるうちに2回目のWBCが来て、ムネリンの神の手やイチローの決勝打やを繰り返し見た。それから震災があって、泣きながら漢詩を写経したり、盆栽をただただ眺めたり。ラグビーワールドカップの試合も繰り返し見た。夜毎あだち充の「H2」を読み返した日もあった。去年は疲れたらなんとなく、NHKBSでやっていた15分番組のコウイカを繰り返し見た。

f:id:mame90:20180415200107j:plain
ねえねえ、なんかそういう風にさあ、疲れた時ただぼーっと見るもの、ある?と友人に聞いたら、またすごい答えが返ってきた。
「PCの検索窓に“秋田 雪かき”とか入れると、ただただ延々雪かきするだけの動画が出てくるの。ジョシュ!ザー!ジョシュ!ザーってね。それを延々見てる」
…なんでしょう、その、ジブリに近い狂気具合。
…そう…。そうなの…。そんな動画見てるまるちゃんに比べたら、私なんか全然疲れてないよ。私、元気だよ。
だって、雪かきの動画、見ようと思わないもの。むしろ見たくないもの…。
そんな話をした翌日。新聞で恐ろしい見出しを見た。

眞子さま(26)公務もう出たくない。憔悴の日々 心の癒やしは毒キノコ鑑賞
ええええええ!!!
ジブリまで行ってないとはいえ、えええええ!ナウシカの研究室みたいになってるじゃない、眞子さま!!
f:id:mame90:20180415200634j:plain
26の娘が、夜な夜な毒キノコ眺めてそっと涙してるとか…。
あのね、眞子さま、人生いろいろあるけども、あれこれ言う人もいるけども、あなたの立場もあるかもしれないけども。
でも好きにしていいよ。好きな男と結婚したらいいよ。毒キノコ眺めて泣かなくてもいい。どうかジブリまでたどり着かないように。
私、あなたの幸せを祈っているからね。生きているといろいろあること、わかってるからね。
キノコ眺める日も、イカを眺める日もあるよね。でもまだ大丈夫だからね。ジブリよりかは大丈夫だからね!

広告を非表示にする

蟹座の女の子

…って~どこか少し大胆~♪

私が大学生の頃が広末の全盛期で、広末大ファンの男子に「ヒロスエじゃない!!ヒロスエさん、と呼べ!!」と怒られたので、未だに脳内でヒロスエさん、って思ってる。休日の渋谷に行かなければ行けない時は頭の中で「渋谷はちょっと苦手~♪」と歌ってる。
そして私も蟹座故、星占いを読むたびに「蟹座の女の子って~どこか少し大胆~♪」と歌うヒロスエさんが脳内に出現する。

さて、ある日突然「コアラが見たいんじゃ!!」と思って動物園に通いだしてからそろそろ1年たとうとしている。あれから月に2度ほどは動物園に通うようになり、ストーカーのようにコアラを見つめてきた。
instagramにコアラの写真ばかりあげていると、動物好きの人にフォローされることが多いが、驚くのは世の中にいろんな「この動物専門」の人がいることだ。タヌキ専門、カンガルー専門、キリン専門、カメ専門。ナマケモノ専科、ワオキツネザル専科、クオッカワラビー専任、カピバラ専任、パンダ専任。
f:id:mame90:20180407103913j:plain
特にクオッカワラビー専任にはやられた。「なんだこの可愛すぎる生物!!クオッカが見たい!!」と思ったけど日本にはいなかった。
最近ではタヌキにやられている。
f:id:mame90:20170717105234j:plain
やだ…可愛い…。それでズーラシアのタヌキ前に貼り付いたけど、タヌキは姿を表さず。隣のキツネばかりがうろうろしていた。タヌキ…うちの近所にもいることはいるんだけど、なかなか会えない。

カンガルーが見たいな…と思う日もある。今日はゾウの気分だな…とか、牛に会いたくなる時もある。
そんな時、まずはネットで画像を探す。ちょっと検索すれば山のように画像があがってくる。可愛い写真、ブサイクな写真、お約束な写真、すごい写真、たまに残酷な写真。youtubeでゾウとサイの決闘だって見れる。
インターネットってすごいな。なんでも見れるもんな…と思っていたが。

最近私が「見たいなあ」と思っていたものは蟹。
多分世の中には私の知らない蟹がたくさんいると思う。観賞用の綺麗な蟹たちだってきっといるはずだと思う。世の中にはアツいアクアリウムファンが多く存在することを私は知っている。そのアクアリウムファンの中には魚じゃなく、貝や蟹を飼育している人だっているんじゃないかしら。私はそんな人達に愛でられるような綺麗な蟹とか光る蟹とか、いろんな蟹が見たい。
…そうして「蟹」って検索してもね、出てくるのは山のような「高級食材としての蟹」ばかりですよ。
f:id:mame90:20180407110001p:plain
instagramtwitterも「蟹」「crab」と言えば「蟹食べた」とか「蟹うまい」っていうアピールばっかりで困惑する。
世の蟹好きはどこにこっそり隠れているのか。久々にシオマネキとか見たいのよ、私。
それで、水族館なら蟹もいるだろう。珍しいものもいるだろう、と新江ノ島水族館へ。

タカアシガニ。生きてる時からもうすでに食材っぽい見た目。

手前はイガグリガニ。こっちの方が美味しそう。なんだかガンダムっぽい。
他には蟹は見当たらなかった。もっと蟹が見たい。食材っぽくない蟹が見たい。
以前にNHKでオーストラリアコウイカのドキュメンタリーを見た。ものすごく面白くて録画保存してある。ダイオウイカはみんなのアイドルで、ダイオウイカが展示されるとなれば深海展も大賑わいだ。タコについてあらゆる角度から研究した本「タコの教科書」は私の愛読書だ。

タコの教科書

タコの教科書

なのに、何故?
何故蟹に関しては、食用以外の情報を得ることがこんなにも難しいの?
こうなると本当に蟹が見たくなる。障害があればあるほど燃え上がる愛情だ。蟹愛だ。だって蟹座だもの。もう女の子じゃないから「どこか少し大胆」どころか「あられもなく大胆」よ。大胆に蟹欲を宣言する。

すさみ町立エビとカニの水族館 |

今年、私はお伊勢参りしてから、この和歌山のすさみ町という所にあるエビとカニの水族館に行く。そして蟹を見る。絶対見る。見てやるからな!!
あと、誰か綺麗な蟹の写真下さい。

…どうしてこんなに蟹が見たいのかは、我ながら謎でもあるけど。

広告を非表示にする

何もかも皆懐かしい

f:id:mame90:20180331083228j:plain
地球か…。何もかも皆懐かしい…。 by沖田艦長

相撲友達のつるちゃんは「日頃から相撲が好きだって公言してるとさ、誰かが余ってるチケット回してくれたり、『相撲と言えばこの人』って感じで声をかけてくれるんだよね。ありがたいよね。やっぱ言っとくもんだね」と言っていた。
私も公言していたせいか、1月にはくみちょうさん (id:Strawberry-parfait)が「大相撲カレンダーいりますか」と声をかけてくださり、ありがたく頂くことに。やっぱ言っとくもんだね。
横綱最後の大相撲カレンダー。日馬富士の勇姿にしみじみとする。ものすごく残念だけど日馬富士も、「懐かしい人」になってしまった。
f:id:mame90:20180331084001j:plain
先日、会社で係長がうふうふ笑いながら誰かと電話をしているうちに「Tさんが行きますよ!ねえ、Tさ~ん」と声をかけてきた。
「週末どっちかヒマ?東京ドーム行く?巨人対楽天
え、何?オープン戦のチケットあるの?行きます!と即答。
会社が東京ドームに広告を出している関係で、時々このようにチケットが回ってくる時がある。やったー嬉しい。いやあ、本当に言っとくもんだなあ。
それで巨人ファンのいもこさん (id:xx_green-heuchera_xx)を誘って日曜日の東京ドームへ。オープン戦だからとナメていたけど、結構混んでいてびっくり。

いもこさんと二人で「井端カッコいいね~」とか言いながらお弁当食べてたら先発が発表されて、野上×岸だったのでまたびっくりして大興奮!こんな!ライオンズファンのためにあるような組み合わせって!!今日来て良かった!!

巨人のユニフォーム着た野上くんなんて初めて見たけれど、フォームや仕草は見慣れた野上くんで、なんだかもう懐かしいやら寂しいやらでちょっと複雑。

涌井くんに似てるってよく言われてたよねえ。ホントに似てる。涌井くんももうロッテに行ってしまったなあ…。

対する楽天の岸くん。すごい安定感で6回までノーヒットノーラン。そんな姿に2008年の巨人対西武の日本シリーズを思い出す。あの時の岸くんすごかったな。ライオンズの日本一が決まった第7戦を東京ドームの2階の端から見ていたな、ちょうどあの辺だったな。岸くんがみんなに胴上げされて、ものすごく高くまで飛ばされてたなあ…。あれから10年か…。何もかも皆懐かしい。あの時の勝利の立役者片岡くんも今や巨人のコーチ…。

岸くんと野上くんの対決も見れた。こんなの見れる日がくるとはね。喜ぶべきか悲しむべきか。


この人も出てきた。アイセイヤマグチユーセイシューン!ヤマグチシューン!

懐かしい人ばっかり出てくるのはヤクルト戦のお約束かと思ってたら、巨人戦も相当だな。陽岱鋼もいるし。

でも何よりこの人だ。まさか今日見れるとは思ってなかった。背番号が違うとは言え、東京ドームのマウンドに、巨人のユニフォーム着た上原がいるなんて、なんだかタイムスリップしちゃったみたい。

ああ、やっぱ貫禄が違うなあ。まさか戻ってくるなんて。


それから5日。昨日プロ野球が開幕した。
3回の終わりからテレビつけたらライオンズが8-0で圧勝してて「何がおきたのか」と驚く。オープン戦を見ていなかったのでなんだかみんなの顔が懐かしい。
ライオンズの背番号7は稼頭央。代打で出てきた。稼頭央がいるんだなあ…。栗山くんも代打で出てきた。すっかりベテランの顔をして。10年前の日本シリーズの時はまだ全然若手の扱いで「中島さんがー、片岡さんがー」って言ってたのになあ。時の流れは早いもんだ。

しつこく岸くんを貼る…
先発は菊池雄星で、解説の人が「今までは涌井さんや岸さんがいたので、自分はいなくてもいいかなくらいの気持だったけど、去年くらいから自分がやらなきゃいけないんだと意識が変わった」という雄星のコメントを紹介していた。
こうしてエースになっていくんだねえ。松坂くんがボストンに行った後の涌井くんも同じようなことを言って、すっかり見違えるエースになっていった。あの姿に「男の子ってすごいねえ、今まで子供みたいな顔していたのに突然見違えるほど立派な男になっちゃうんだもんなあ」と心底感動したもんだった。
松坂くんも日本に戻ってきたなあ。

ああ、何もかも皆懐かしい…。球春到来。

広告を非表示にする

想像力より高く飛ぶ鳥

どんな鳥だって想像力より高く飛ぶことはできないだろう
                      寺山修司

ロング・グッドバイ 寺山修司詩歌選 (講談社文芸文庫)

ロング・グッドバイ 寺山修司詩歌選 (講談社文芸文庫)

何度も書いているが、うちの弟は高校受験の折にまるで勉強をせず、案の定高校に落ちた際、まるで新たな発見でもしたかのように「高校って本当に落ちるんだなあ」と呟いたし、無免許運転の車を他所の家の塀に擦りつけた際には「ゲーセンの車と本当の車って違うんだな」という名言を残した男だ。
「あの子は本当に想像力がない」「実際にそうなってみるまで、物事が理解できないのね」と、母と私は悲しい顔で語り合ったものだったが、実は自分もまったくあの子と同じで「実際にそうなってみるまで物事が理解できない」のだな、と今になってやっと気がついた。

子供の頃から、クラスの女子が「キャー!蜂!!」と逐一騒ぎ立てるのがとても不思議だった。今でもまだ「何故人はあんなにも蜂に大騒ぎするのか」と思ってしまうのは、幸いにも蜂に刺された経験がなく、蜂の怖さを知らないせいだ。心のどこかで「蜂に刺されるなんて、そうそうないでしょ」と思っている。
クラゲもそうだ。「クラゲに刺されてから海がいや」なんて話を聞いても「あんなフワフワのくらげちゃんが?」とどこか半信半疑でいる。「夏はヒルがいるから丹沢に行かない」という人の話を聞いていても「ヒルって何?そんなに人間に寄ってくるもの?」と怖さを実感できずにいる。

思えばインフルエンザのことだって最初はナメていた。「インフルって別にちょっとひどい風邪くらいでしょ?」
自分がインフルにかかって初めてその威力を思い知り、あれからはインフルを心底恐れ、毎年予防接種を受けている。
妄想力も想像力も持ち合わせているつもりでいたが、弟の何をバカにできようか。

先週は山友達のおじいさんとお姉さんと逗子の鷹取山へハイキングに行ってきた。山頂でお昼ご飯を広げた際、お姉さんはしきりにトビを気にしていたが、私はただ空を見上げて「なんて上手に飛ぶんだろうか」と感心していたのみであった。トビって本当に優雅に、ナウシカメーヴェみたいに上手に飛ぶ。
我々は全くトビに狙われなかったが、狙われそうになっている人もいた。「野菜ばっかりだったから狙われなかったのかな。タンパク質とか油ものが好きだから、そういうおかずだと狙われるんだよね」というお姉さんに「そうなのかー」としみじみ感心したものだった。

さて、本日私は久々に江ノ島に行ってきた。島内にはあちこちに「トビに注意」という看板があり、「うんうん、了解」と思っていたがお腹が空いた。リュックに入っているのはおにぎりとハムチーズサンドイッチ。
先週のお姉さんの「トビってタンパク質や油ものが好き」という言葉が一瞬頭をよぎりはした。でも、おにぎりよりサンドイッチが食べたかったのだ、私は。大丈夫だろうと思ったのだ。

そして食べ始めたら、すっかりトビのことなんて忘れていたのだ。

神奈川県のホームページにも注意情報が載っている。
「トビは、食べ物をねらって、後から飛びかかってきます。」
赤い太字でちゃんと書かれていたこの文章を、今なら心底理解できる。
奴は後ろからやってきた。そしてあの力強い羽で、私の顔を思いっきり引っ叩いて去っていった…。
一瞬何がおきたのか理解できなかった。引っ叩かれるのなんて何十年振りのことだか…。アムロの如く「殴ったね!!」と思えたのは、しばらくたってからだった。

これは吉田秋生のマンガ「海街ダイアリー」のワンシーン。読みながら「そうそう、あの辺の海はトンビに狙われる人多いんだよねえ」と他人事のように思っていた。

今ならわかる。このサンドイッチがどれほど危険な食べ物か。
鎌倉江ノ島付近にたくさんある「海の見えるレストラン」のオシャレなテラス席がどれほど危険な場所か。あれはトビに対してこのマンガの主人公たちの如くきっちり対処できる人間のみが座ることの許される席だったのだな。

夜勤明けに恋人と別れてボロボロになっていてさえ、トビと戦えるシャチ姉。いつかこうなりたい。

鳶に油揚げを攫われる
【意味】 鳶に油揚げをさらわれるとは、自分の大事なものや手に入れられると当て込んでいたものを、不意に横からさらわれることのたとえ。また、奪われて呆然としている様子のこと。
【注釈】 鳶は普段は悠々と空を飛んでいるが、ひとたび獲物を見つけると非常に素早く空から舞い降りて獲物をさらっていくことから。転じて、大事なものや当然手に入れられると思っていたものを、うっかりしているうちに突然横から奪われて唖然としている様をいう。

故事ことわざ辞典にはこう書いてある。
全く持ってこの通り悠々と空を飛ぶトビが非常にすばやく獲物を見つけて降りてきた。きっと大昔から、みんなこうしてトビに狙われ、あれこれ攫われて来たのだろう。
ツイッターで検索してさえ「トビにファミチキを奪われた」という報告がたくさんある。鳥なのに、鶏肉好き…。
f:id:mame90:20180324233849j:plain
そんなのはコイツだけかと思っていた…。
こんなにもたくさんの警告があったにも関わらず、私はそれを自分の問題として捉えることができずに今日まで来た。なんという想像力の欠如。
私の乏しい想像力のはるか上からトビは私を狙ってきた。
戒めのように、私の顔には今、トビの羽による3つの傷がある。青痣になるかと心配になる程の衝撃で、若干出血もした。

でもな!それでも私はヤツにハムチーズサンドは渡さなかった!!だからイーブン。
…ええ、ええ、こんな言い訳、私には弟をバカにする資格もありませんよ…。

海街diary 3 陽のあたる坂道 (フラワーコミックス)

海街diary 3 陽のあたる坂道 (フラワーコミックス)

広告を非表示にする

曲がり角ごとの驚き・24 逢いたくなった時に君はここにいない

あれは4才くらいだったかしら。風邪をひいて母と小児科に行ったら、小児科の入り口でペロペロキャンディーを舐めながら靴を履いている女の子がいて、私はそのキャンディーに釘付けだった。
帰ってから母に「何か食べたいものがあるか」と聞かれて「ペロペロキャンディーが食べたい」と行ったら「あの子が食べてたからでしょ」と見透かされていて、すごく恥ずかしかったのを覚えている。

不二家 ポップキャンディ袋 21本×6袋

不二家 ポップキャンディ袋 21本×6袋

ポップキャンディーって名前だったのか、あの不二家のペロペロキャンディー。

うちのアパートの下に自販機が2台あって、不二家の桃ネクターが入っていた。たまに無性に飲みたくなるあの飲み物。アパートの階段を降りさえすればいつでもあれが手に入るのだ、と浮かれていた時期がありました。。。
f:id:mame90:20170627145049j:plain
うまく手に入れることが出来たのは1度だけ。その後、ふっつり姿を消したが、ある日戻ってきた。
「やっぱりね!なにげにニーズあるんでしょ」と調子にのってその時は買わなかった。
あー、疲れた!もうこんな時はヤケネクターだ!ネクター飲むしかない!!と自棄っぱちになった深夜、アパートの下の自販機にネクターの姿はなかった。
そのまま深夜の街を徘徊し、自販機を見かけるたびにネクターを探して、「あの先まで、あの先まで、コンビニまで…」と彷徨うもネクターは見つからなかった。

おのれ、不二家…なぜいつもそうつれないの?
昔住んでいた埼玉の田舎町には奇妙な形の不二家レストランがあった…というか、ファミレスと呼べるものは不二家レストランしかなかった。
f:id:mame90:20090620180608j:plain:w400
あの頃は「な~んか微妙…」と思いつつ仕方なく家族で不二家レストランに行き、なんだかあんまり信用出来ないままドリア食べてた。
なのに、あれから時が経ち、不二家レストランの存在をすっかり忘れた頃になって、見違えるほどきれいになったアイツに再会し、ウキウキトキめいてしまったりするのだ。
f:id:mame90:20170307175854j:plain:w400
ペコもすっかり垢抜けて今どきの女の子になっていた。私が小さかった頃、お前はしょぼい駅の踏切脇のしょぼい店舗で、妙に首が長く、なで肩の体に七五三の着物を身に着け、千歳飴をひきずっていたというのにね。
f:id:mame90:20180318203812j:plain:w300
手の長さもおかしいね、あなた。
私が18になった頃、不二家は「ペコちゃんのほっぺ」を売り出し大ヒットした。「流行りものなんて」と尖っていた10代の私があれを口にしたのはずいぶんたってからだった。頂きもので「ああ!これが例の!」と食べてびっくり。「これは…!人気があるはずだわ!おいしいわ!買いに行こう」と思った矢先、不二家食中毒騒動でペコちゃんのほっぺが販売休止になった。
f:id:mame90:20170417095511j:plain:w350
再び口にしたのは30になる頃。またしても人から頂いて「ペコちゃんのほっぺ、復活してたのか!!!」と驚いた。

さて、今日は久々に山友達のおじいさんとお姉さんと、お気楽ハイキングに行ってきた。
山頂でロッククライミングを眺めながらお弁当を広げたら、おじいさんがにこにこしながら「これ食べて」とお菓子を差し出してきた。
f:id:mame90:20180318205458j:plain:w300
「僕ね、最近これにハマっててね、山に行く時には必ず持ってくの。100円よ、100円。高いもんじゃないのよ」
それで二つもくれる。食べてみたら、甘すぎず、ふんわり軽くてとっても美味しい。うわー、美味しい!!これ、スーパーで売ってるんですか?と聞くとおじいさんは「不二家にしか売ってない。僕の家の近所は不二家いっぱいあるから」と仰る。
不二家不二家不二家、どこにある、うちの近所のどこにある…!すぐさまスマホで検索し、おじいさんに「何?今調べてるの?」と呆れられる。
f:id:mame90:20180318210209p:plain
…ない…。不二家、ない…。
なぜ?どうして…。久々にペコちゃんのほっぺも買おうと思ったのに。

あーあ、今度伊勢佐木町でも行くかな…と思いつつ、帰宅後スーパー銭湯に行ってスッキリしたら、久々にアレがやってきた。あの「桃ネクターが無性に飲みたい病」が。
だが、こんな時に限っていつだって、うちの下の自販機に桃ネクターはない。それでまた夜の街を徘徊する。
昔のCMソングを頭の中でエンドレスに流しながら。
「ももももも もももももももも もも もも 桃ネクター 桃 桃 桃!」

…すごくハッキリ覚えているけど、もしやあれは幻だったの?youtubeではそのCMは見つからなかった。一番近かったのはこれだ。江川だったことは忘れていた…。
CMソングさえ見つからない…。そしてもちろん、今夜、不二家ネクターも見つからない。幾多の自販機を渡り歩き、コンビニを覗いても。

いつも必要なわけじゃない、甘ったるい気分じゃない、と邪険にしてしまう時もある。
でもないと困る。
時々無性にお前に甘えてしまいたくなる。
ママの味の優しさに「これが必要だったんだよ!」と泣いてすがりたくなったりもする。
なのに、逢いたくなった時に君はここにいない。
それが不二家。どんな魔性の女だよ、このやろう!

広告を非表示にする

ONCE IN A LIFETIME

今はもうずいぶん安い値段で眼鏡を購入できるお店がたくさんあるけれど、ちょっと前までは全然そんなことなくて、眼鏡やらコンタクトなんて買おうと思ったら5万は覚悟しなければならなかった。

眼鏡男子、ていうか眼鏡力士ぬすくぐ。錦木
近所に「ものっすごい慇懃な南こうせつ」みたいな店長と、GLAYのJIROみたいなトガった兄ちゃんのいる眼鏡店があって、家族全員目の悪い我が家はずいぶんあの店にお世話になった。
店長はまあ、本当に気持ち悪いくらいの慇懃さで「お名前様頂戴できますか」などと言うので、我が家では「お名前様」と呼ばれていた。
ある日母がゲラゲラ笑いながら言う。
「今日、お名前様のとこ行ってきたんだけど、あの人本っ当に口がうまいわねえ。あなた白髪のことなんていうか知ってた?『おぐしにシルバーが』だって!!!」
それで「シルバー!!」と母と笑いあった後、「いや、勉強になるねえ」「いろんな言い方があるねえ」「それでお客様が気持ちよくなったり、面白がったりするなら、そういう言い方もアリだねえ」「どこでああいう言い回しを勉強してきたのかねえ」としみじみ感心した。

『四角四面は豆腐屋の娘、色が白いが水臭い。四谷赤坂麹町、ちゃらちゃら流れるお茶の水、粋な姐ちゃん立ちションベン、ってなどうだ!!』
寅さんの啖呵売もそうだけど、まあ、人間うまいこと言われたら、なんだかその気になってしまう部分はある。別に自分を褒めてくれなくとも、話が面白かったら、話芸に感心してしまったら、その通りだなあなんて思ってしまったら、ついフラフラと。いらない鍋でも、別にほしくなかったゴム紐でも買ってしまったりもする。
f:id:mame90:20180303212223j:plain:w350
さてさて、2018年も始まったばかりなのに、もう来年2019年のラグビーワールドカップのチケットが発売だ。去年もおととしもかえる姉さんと「絶対見たいよね」「チケットとれるかな」と話し合ったが、いざ発売が近づいて値段を見るとビビってしまう。
なに、国際試合ってこんなに高いの?予選4試合セットのA席が14万円ですってよ!!マジで!?二桁万円?
サッカーのワールドカップもこんな値段だったんだろうか。2020年の東京オリンピックもこんなものすごい値段なんだろうか…。
ガタガタ震えながらかえる姉さんに「ど、どうする?高すぎてヤバい」とLINE。
f:id:mame90:20180303221703j:plain:w350
「ヤバいね…でも南アフリカ×ニュージーランド、魅力的だよね…」
「海外旅行だと思えば、頑張れるんじゃない?」
…確かに、いつかニュージーランドラグビー観戦したいと思ってはいた。それを思えば宿泊なし、自宅から1時間もしない場所でラグビーの最高峰の試合が見れるなら、妥当…?
ぐらぐらと揺らぐ気持で何度も何度もチケット購入サイトを凝視した。チケット購入サイトにデカデカと書かれたスローガンはこれだ。
f:id:mame90:20180303222008j:plain
なんて力強い…。
確かに言われてみれば、生きてる間に日本でラグビーワールドカップが見れることなんてもうないだろう。もしもう一度めぐってくることがあったって、その時自分が元気でいるか、お金があるかもわからない。
…最近何をするにもそんな風に考えるようになってきた。「気力のある今のうちに、体力のある今のうちに、とりあえずお金のあるうちに、やりたいことはやっておかないと」
もしかしたらこの先に「あの時のお金があれば…」と涙ながらに後悔する日がくるかもしれないけれど、少なくとも「あの時やっておけば」「あの時勇気を出していたら」とは思わずに済む…
も~う、うまいこと言うな~。畜生、ありきたりと言えばありきたりだけど、そんなうまいこと言われたらその気になっちゃうよなあ…。

そんなワケでかえる姉さんと「よし!一生に一度だよ!!申し込もう!」と二人揃って勇気を出して申し込んだ。
チケットサイトは「ワールドカップのチケットは世界が相手の争奪戦」とまで煽ってくる。勢いのままに、勇気を出して申込んだけど、心のどこかで「抽選はずれたら、ちょっとホっとするんだろうな、お金払わなくて済むし」とも思っていた。
…それなのに…抽選が外れた日、自分でも意外なくらいガッカリしていた。「ああ、見れないのかー、テレビで見るのか…、一生に一度なのになあ。せっかく勇気だしたのになあ」
もうすっかりあのスローガンに洗脳されて、行く気満々でいたのだ。あーあ…と思いながら洗濯物をたたんでいたら、かえる姉さんから「とれてた!」との吉報が。
キャーーーーー!!一生に一度!!!一生に一度のラグビーワールドカップ!!!

浮かれた勢いのまま、姉さんはすぐさま2人分28万円のカード決済を済ませ、私は次に会う時に14万円持参の約束をする。そして恐ろしいことに私たちは言うのだ。
「ユニフォームも買わなきゃねえ」
「決勝戦も横浜開催だからさー、見たいよねえ!」
勝戦のチケットはA席10万円…。目眩がしそう…。でもきっと大会が近づくごとに「あー、幾ら払ってでも決勝戦が見たかった」「チケット買っておけば良かった」とか思うんだろう。だんだん「ワールドカップなら10万くらい普通でしょ」とか思うようになるんだろう…。
2015年イギリス開催のワールドカップのチケッティングスローガンは「Too Big to Miss」だった。「見逃すにはあまりにデカすぎる」…ああ、ああ、そうでしょうとも。そして「一生に一度」でしょうとも…。
そんな言葉でついついその気になってしまって、今では思っている。「4試合も見れて14万なんてお得!!」…自分が怖い…。
f:id:mame90:20180303225314j:plain
「アリとキリギリス」のキリギリスだな、って人は言うだろう。耳障りのいい、お上手なセールストークに簡単に踊らされちゃってさ。
でも後悔なんかしていない。むしろとっても楽しみにしている。だって一生に一度だもの!
…さて、頑張って働くか…。

広告を非表示にする