君拾帖

■くんしゅうちょう■  すきなことだけてきとうに

曲がり角ごとの驚きXⅨ 命短し

人生は何事をも為さぬには余りに長いが、何事かを為すには余りに短いなどと口先ばかりの警句を弄しながら、事実は、才能の不足を暴露するかも知れないとの卑怯な危惧と、刻苦を厭う怠惰とが己の凡てだったのだ。
                中島敦 山月記

李陵・山月記 (新潮文庫)

李陵・山月記 (新潮文庫)

若かりし日は山月記を読むと、胸がヒリヒリして居ても立ってもいられず、動物園の虎のようにおろおろと部屋の中を歩き回ったりしたものだったけれど、もう大概いい年で特に何かを為そうとも思っていないので、おろおろせずに読める。
うわああああああーーーっ!!!と叫びたくなる気持ちは変わらないけれど。

長野・元善光寺ジャイアンにシメられて目玉飛び出たスネ夫みたいな顔。

さて、虎の話ではなく、狛犬の話。
あちこちのお寺やら神社やらに行くたびに、何も考えず、ただなんとなく狛犬の写真を撮ったりしていた。

高知・五台山竹林寺。子ども相当悪い顔。

そのうちだんだん「変な顔の奴がいる」とか、それぞれの個性が気になり始める。

世田谷・善養寺。相当個性的。アダムス・ファミリーのフェスター似。

狛犬画像が集まるにつれて、狛犬が気にかかるようになり、本日ついに「狛犬 個性」でググってみたら、ヤバい予感。
世の中に、狛犬ファンは割りといたのだな。まあいるだろう、それはいい。それにしてもだ。
大変なことに世の中にはこんな冊子が出回っていたのだ。
狛犬ガイドブック Vol.1  狛犬の楽しみ方」
その紹介文もすごい。
狛犬ファンがさらに狛犬ウォッチングを楽しめるように狛犬の個性の解説から、狛犬の見つけ方、狛犬との接し方、石工や奉納者のドラマ、狛犬の撮り方などなど、狛犬歴35年の筆者が懇切ていねいに解説。」

狛犬界の「プロフェッショナル 仕事の流儀」みたいな。「プロジェクトX」みたいな、すごい情熱。

三崎港・海南神社。土佐闘犬横綱の如くりっぱな綱をお召し。

狛犬ファンの方の個人ブログ「狛犬を10倍楽しむ」。こちらも素晴らしい。
狛犬を追いかける愛好家は、必ずと言ってよいほど個性派狛犬志向におちいるか、おちいっていると思う。
一度個性のある狛犬に出会うと、また個性のある狛犬に会いたくなる、必然の心理である。」

こういう、マニアックな趣味を持って、心からその対象を愛している人にしか書くことのできない文章、大好き。
キノコマニアやタコの研究者が書く文章に相通ずるものがある、この情熱、味わい深さ、魅力、シュールさ。
狛犬ガイドブックの著者であるたくきさんのエッセイもネットで読める。なんて便利な時代なんだ。そしてやはり、なんてすごい文章なんだ。

唐突に「狛犬」である
なぜ狛犬なのか? 狛犬のどこが面白いのか? ほとんどのかたは「?」の連続でありましょうが、それは認識があま~い。」

…本当に唐突で笑ってしまう。そして笑いつつも「ヤバい、これはヤバイ」と私は震えるのだ。

靖国神社。花見の時期は狛犬も働かされる。

まだ世の中にこんな面白いものが隠れていただなんて、どうしよう。
あそこも行きたい、ここも行きたい、あれも見たい、これもしたい。古墳も気になる。古事記も勉強したい、地学も、貝も、古代史も、戦国時代も勉強したい、キノコが気になる、タコが気になる、深海も気になる…ああ、それなのに狛犬まで!
人生は何事かを為すにはあまりにも短い、と言うけれど、才能の不足はとっくに暴露していて、何事も為せないくせにあれこれ気になって目移りしては味見したがる者にも割りと短いのね…。

静岡・久能山東照宮資料館前の狛犬。すごい不細工。でも誰かに似てる。

あまり、この世界に深入りしちゃいけないと思う。でも面白いもの見つけて胸がぞわぞわトキめいているんだ。