曲がり角ごとの驚きXⅢ 傍観者・丼・後悔

傍観者には自己の歴史がない。傍観者は舞台の上に居るには居るがしかし、役者ではない。傍観者は聴衆ですらもない。芝居とそれを演ずる役者の命運は聴衆に左右される。が、傍観者の反応は彼以外の他の誰にも効果を及ぼさない。とはいうものの、傍観者は----劇場の消防係にたぶん類似して----舞台の袖に立って役者や聴衆が気づかずに見過ごすものを見る。なかんずく、彼は役者や聴衆とは異なる見方で見る。そして彼は省察する。----省察は鏡ではなくプリズム、それは見たものを屈折させて映し出す。
        ピーター・F・ドラッガー 「傍観者の時代」


渋滞にうんざり疲れて入った夜8時のサービスエリアで、「軽いものでいいや」と500円くらいのヘルシー丼を選んで食券が出た途端、「あー、やっぱり800円払っても普通の海鮮丼にしておくべきだった」って思うことってある。
それを思えば「後悔のない人生」なんてあるもんか。人間、何したって後悔する。

昨日は友人の誕生日ホームパーティーに招待されて行ってきた。学生時代のインカレサークルで知り合ったA。小じんまりとやるのかと思っていたら、朝になって総勢15人くらい招待したという連絡が来て、面倒くさいなあとゴロゴロしていた。
人見知りだし、コミュニケーション能力も高くないし、暑いし。

でも行ったほうがいいんだろう。年取るとだんだん交友関係も狭くなるし。
狭くて何が悪いのかと思わなくもないけど、まあ一応。
動物も人間も社会って大事だからね。

よいしょ、と重い腰をあげ、焼鳥とビール買ってA宅へ。「だいぶ盛り上がってるよー」と迎え入れられた会場では、Aと同じゼミだったというB氏の人生初の恋人お披露目会見が始まるところだ。しかも何月何日に出会い、何月何日に初デートをして…という詳細版。
…長くなりそうだぜ…。

うん…、なるほど、そうか。これは海鮮丼でいうならヘルシー丼。
このふにゃふにゃで話も行動も段取りの悪いB氏は甘~い卵焼き。「ネバネバ系の食べ物が大好きです」という恋人のCさんはオクラだな。
B氏と喧嘩しそうになると「また怒らせちゃって私はダメな人間だ」とCさんは思うらしい。
私だったらスリッパで引っ叩くところだが、これがB氏をメロメロにする「慎ましさ」と「誠実さ」なのだな。お似合いカップル。

そんな2人の甘くネバネバな話に意味不明の茶々を入れ、話の尺を引き伸ばすDは納豆。
素材の味を殺さぬよう大人しく正座して頷きながら話を聞くご学友3人は白米かな。声も小さく、どんな場所でも波風立てず嫌われもせずひっそりと静かに粘り強く生きていけるタイプで、昔はそういう人になりたいと憧れたものだ。
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時折自分の思い出話をぐいぐいと挟んで皆をまとめようとする主催者Aは醤油、「妹の生き方は危うい」「あなた方はなぜ結婚していないのか」「あなた方はどこの会社で何の仕事をしているのか」とスパイシーわさびなAのお姉さん。
コミュ力の高い働く女子ですー、気配り上手なんですー、○○さんのネイルって素敵ですねー、みたいな青じそ女子。大人たちの視線を卵の黄身みたいに絡め取っていく幼子を連れた夫妻。
若き日に学生運動的なものに参加してしまって以来、ちょっとこじらせてる燻され沢庵50代男性。

そんな中に燦然と現れる、元ダンサー、元スポーツライター、海外在住歴有の大トロレディ。
かれこれ3時間以上続いている長い自己紹介、大トロさんの後では辛口のわさび姉さんもキラキラ働く青じそ女子も「私なんてつまらない人生で」「もっと冒険すれば良かった」とぼそぼそ言う。
大トロさんは大トロさんで「もっと堅実に生きれば良かった。才能もないのに追い求めてる場合じゃなかった」と苦笑する。

人は皆、ないものねだりなものですね、神様。

ようやく終わりかけてきた自己紹介を傍目に、輪から外れたところで大トロレディがぼそっと言う。
「最初のあの知らない人ののろけ話、何?どうでもよくない?帰ろうかと思ったわ」
その言葉に納豆子は困惑し、悲しげな顔をする。
ごめんね、私も「ああ、今日はヘルシー丼だな、ヘルシー丼って若干欺瞞の香りがするよな」くらいのことは思ってた。帰るタイミングも探してた。

期待を裏切らない大トロレディは帰りのエレベーターの中、主催者Aに「どういうつもりで私を今日呼んだの?」とバッサリ仰る。「ここにいても大丈夫な人を呼んだの!」と笑顔のA。
そうだねえ、大丈夫だけど、ヘルシー丼にはもったいないかもしれないね。マグロ丼の主役になれる人だから…。

キラキラ光れば光るほど影も濃い。
駅までの帰り道、大トロさんは「どうやったら人生を幸せだって思えるんだろう」とポツリと言う。
何やったって後悔はするんだから、自分で決めて生きてることをいいって思うしかないんじゃないと無責任に返事する。

やれやれ。
世の中いろんな人がいて、みんなそれぞれないものねだりして、毎日何かしら後悔して生きてるもんだね。
そして、年をとったせいか深入りするつもりがないせいか、おとなしく無難に真面目に生きてる人より、クセが強くて人を困惑させたり怒らせたりしちゃうくらいにハッキリ物言う人が、やっぱり面白いね。

と、傍観者の私は省察し、屈折させてこんなの書いてる。

理想の職場

会社から東京ドームへは約10分、神宮だったら30分。
カープファンの係長、中日ファンの同僚もいて、ちょくちょく野球の話もできるし、高校野球勝戦に行くために有給をとっても怒られない、野球好きにとってありがたい職場だ。

6月は営業年度締めや、もうすぐ産休に入る主任の仕事の引き継ぎもあって、とても忙しかった。7月になったら高校野球も始まる、名古屋場所もある…それを楽しみに頑張ろう!
という6月の終わりかけ。

お取引先に、去年突然パタリロ似の新人くんが現れた。
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殿下と同じくお育ちの良いおぼっちゃんで、GW後にはテニス焼けをして現れ、「さすが殿下!」「白いポロシャツ似合いそう」と我々の間で評判だった彼。
彼がなんと、2軍の試合も含めて年間50試合も観戦するコアな日ハムファンであることが判明したのだ。
テニスの王子様かと思ってましたよ」と言ったら「いや、テニスも好きですけど20年来のハムファンです。札幌行く前からです」と胸を張って仰る殿下。更には岩本勉と記念撮影した写真やら、選手のサインで溢れかえったユニフォームの写真やらも見せてくれた。

「あの殿下、年間50試合も見に行くハムファンだったよ!」と中日ファンのタカハシさんに伝えた所、「えええ!年間143試合なのに50試合も行くの?3割出席?」と驚いていた。
…そ、そうね、3割5分くらいね…すごい打率…いや出席率…。

殿下に「私は西武ファンで、今度の東京ドームの日ハム戦見に行くんです」と伝えた所「お!!東映フライヤーズ戦ですね!僕も行くんです!」との事。全然知らなかったけれど、東京ドームでやる2試合はレジェンドシリーズで、東映フライヤーズの復刻ユニフォームなんだそうだ。

そんな訳でスコアボードもフライヤーズ。
ライオンズ5連敗してるし、あっちは高梨、こっちは岡本洋介。まあ負けるだろうな、大谷くんと大田くんと源田くんを楽しみに見よう。写真撮ってあとで殿下にも見せてやろう。

大谷くんと源田くん。

大田くん。

…などと思っていたら、ライオンズ勝った!!!
翌日現れた殿下は苦笑いで、「昨日良かったですね…。ウチの上原…あれ、去年のドライチなんですよ…あれでも」と、昨日ボコボコに打たれたピッチャーについて伏し目がちで仰るので、「で!でもイケメンで、ス、スタイルいいですよね、彼」…と謎フォローを入れた上で「今日、観戦なんですよね。楽しんできてくださいね!」と送り出した。

が、今年のハムはダークサイドに堕ちてしまったのか、その日もライオンズの勝ち。おまけに試合終了時刻の東京ドーム近辺は豪雨だったらしい。きっと身も心もびしょ濡れだっただろう、殿下…。

そんな試合の2日後に我が社で大きなイベントがあった。
球界のレジェンド、山本昌さんの講演会。

正直、7月一番の楽しみはこれだった。4月の申し込み開始日にはタカハシさんと気合を入れて朝イチで申込みを済ませ、カレンダーに予定を記入してウキウキ浮かれ、6月の忙しさの中も「7月に入ったら昌さんだから!」と励まし合い、講演会の日は絶対残業せずに済むように綿密に計画を立て「4日開通チェック、5日営業催促、6日昌さん!」と声出し確認。


当日は2列目センターゲット。
今まで、野球選手のトークショーやイベントに行ったことがなかったので、なんだかもう夢のように浮かれた。星野監督、立浪、ラジコン、と期待を裏切らないトーク運び。野球もすごいけど頭もすごく良くて、だからこそ長くやってこれたんだな、と心底感動した。

中日ファンじゃなくても野球ファンならみんなうらやましがると思う。
なので講演会前も後もタカハシさんと「そういや殿下に“昌さん来るんで”って自慢しないとね」と計画していたが、うっかりライオンズが3連勝してしまったせいか、あれからパタリと音沙汰がない。
昨日もハンカチ王子で負けてしまったし、今日も大谷くん久々の登板が2回持たずにKOで負けちゃったし、相当しょんぼりしてるだろう。ああ、でも早く殿下に自慢してやりたい。


先日、電車の中で偶然、前の職場の同僚Kちゃんに会った。前の職場は今の言い方で言えば完全な「ブラック企業」だった。今はわりと落ち着いたみたいだし行政の指導もあるので、有給ももらえて休みも週2日あって、残業代も出るらしいけれど、当時はそうじゃなかった。若さと使命感みたいなもので10年頑張った。
そんな話をKちゃんとして、「頑張ったよねえ、私達」と称え合った。「でもあのままでは続けられないから、ポストも給料もどうでもいいからともかく休みをください、ってお願いしたの。それで楽になった」とKちゃんは言っていた。
あの頃、本当に余裕がなくて、常に溺れかけみたいな状態でキリキリして鬼婆みたいに怒って仕事をしていた。もっといいやり方があったのかもしれないという後悔も今でもある。

きっとハリーに「喝!」出される…。

それを思うと、本当に今の職場は恵まれている。完全週休2日で有給もとれて、うまく仕事を組み立てれば残業もしなくていい、おまけに野球好きな人が周りに結構いて、球場も近い。講演会に山本昌さんも呼んでくれる。
そりゃあ毎日いろんなこともあるけれど、ここで働けて本当にラッキーだなとつくづく思う勤続8年目。

曲がり角ごとの驚きⅫ コアラの園


春先に三浦半島へ遊びに行ったら「エデンの園」という老人ホームの広告がバンバン貼ってあってちょっと驚いた。
エデンの園…か。エデンの園ってあの、パンツはいてないとこだけど…。

それはさておき、関東でコアラを見ることのできる動物園は3つある。多摩動物園埼玉県こども動物自然公園、そして横浜市立金沢動物園
多摩動物園はコアラはもう1頭しかいない。金沢動物園は昨年コアラの子供が死んでしまったり、4月にコアラがリンパ腫で亡くなったり、悲しいニュースが続いていたけれど、どうやら名古屋からコアラが来たらしい。


鎌倉へのハイキング中に通り過ぎたことしかなかった金沢動物園、これを機に行ってみようとでかけた。

京急金沢文庫駅からバスで10分くらい。海を見下ろす丘の上。


入り口がテーマパークみたいになっていてコアラが指揮するオーケストラもいるので、期待が高まる。

金沢動物園のコアラは2頭ということになっていて、まだ名古屋から来たチャーリーは記載されていない。そしてユウキは今日休みなのでユイだけ。

ランチタイム以外はずっとユーカリに埋もれて寝ている、ちょっとクールな女の子、ユイ。

…そうね…。100%そのとおりね…。クールね…。
埼玉のコアラが愛想が良かったせいか、なんだかちょっとしょんぼりしながら帰宅し、翌日は埼玉へ。
別に金沢動物園は何も悪くない。ただ、私がもう埼玉のコアラを知らなかった頃に戻れないだけ。知恵の木の実を食べてしまったお二人のように。

「あら、うちの子見に来たの?」と1回起きて出迎えてくれるドリー。

そしてまたぐーすか寝てしまう。育児って大変ですものね。

今日は全体的にみんな寝てるな、と思いながら外に出たら、すぐそこにコアラ!前回は気づかなかったが、どうやらコアラ舎のガラスケースの中は女子の園、外は男子の園になっているみたい。このイケメンはドリーの旦那でニーナの父、コタロウ。


あ、うん、なるほど、男子ですね。

こっちはピンクのお鼻のピノ氏。堂々とノーパン。
尚、ピノ氏の母エミは5月に鹿児島の平川動物公園にお嫁に行って、代わりに鹿児島からコロンという雄がお婿に来たらしい。
新しいコアラが仲間入りします! - 埼玉県
もう、この楽園でどんどん増えたらいいよ、コアラ。

ニーナを抱えて眠るドリーの丸い尻。

嫁と子供が気になるのか、お腹がすいているだけか、落ち着きなく歩き回るコタロウのスリムな尻。

男が笑うのは年に3回、と言わんばかりに常にコタロウは迫真顔。

一方女子の園では眠気優先。

だらしない。でも気持わかる。そして可愛い。

母子熟睡。

うん、関東でコアラを見るなら埼玉一択だな。なんて素晴らしいコアラの園なんだ、ここは。
ちょっと遠いとは言え、ここにくればコアラに会えると思えば頑張って生きていける気がする。意気揚々と年間パス買って帰ってきた。交通費?知らん!

傲慢とアイス

元気があればなんでもできる。
…そうですね、猪木さん。

節電とか電気使用量の集中を防ぐため、鉄道会社の混雑緩和対策…。おそらくお国と企業の苦肉の策の一環だと思うけど何年か前から朝活だのエクストリーム出社だのがもてはやされている。

朝活=デキる人、リア充みたいなイメージも着々と定着しつつある。こんな感じでいけばプレミアムフライデーもそのうち定着するのかしら。
かくいう私も年々出勤時間が早くなって、今や6時半の電車で通勤している。6時半を過ぎると駅前の駐輪場がいっぱいになってしまうし、早い時間の通勤に慣れると、もうギリギリの時間帯の満員電車には乗れなくなる。

始業は9時なのに、7時半には会社の最寄り駅についてしまうので、千鳥ヶ淵だの靖国神社だの散歩したりするが、「デキる人の朝活」、というよりは婆ちゃんの早朝散歩といった風情だ。靖国神社戦没者の遺品見て朝から涙ぐんだりして。

そんな早朝散歩がてら、1週間分のおやつを買っていこうとセブンイレブンに立ち寄ったら、何やらくじびきキャンペーンをやっており、当たったんですよ。

井村屋のあずきバーの引換券。
しかもお店の人が真顔で言うのです。「今引き換えますか?」
…いえ、今はいいです。…朝7時半にあずきバーは無理。あれ、すっごく硬いし。

セブンを出て、しみじみと考え込む。
別に朝からアイスを食べたっていい。エクストリーム出社とか流行ってるんだし、アイスを食べるだけの時間がないわけでもない。まして今は夏。早朝アイスを食べるにはうってつけだ。北の丸公園のベンチに座り、朝日を浴びながらアイスを食べるのって素敵だと思う。

ただ、問題は、朝からあの硬いあずきバーに挑む気力が私にない、ということなのだ。


なんということでしょう。
「婆ちゃんの早朝散歩」なんて言いつつ、私は心の中でいやらしく「早起きして朝から活動的、元気ハツラツな私」と自惚れていたんだ。それなのに自分で思うほどには元気じゃなかったのか。あずきバーを敬遠するくらい。なんたる傲慢、なんたる過信。
硬いあずきバーで殴られたような衝撃だ。

あの引換券をもらったのは月曜日。
火曜日も水曜日も朝、出勤がてら自らに問いかけた。
「今日は朝からあずきバー食べれる?」
答えはいつもノーだ。いつか朝からあずきバーを食べれるほどに気力の充実した日が来るのだろうか。それとももう一生そんな日は来ないのか。そんな風に、つい先を憂えて陰鬱になりもする。
あずきバー恐ろしい子…。


今日、帰りに自宅付近のセブンで引き換えてあずきバーをもらってきた。
硬いぞ硬いぞ、と覚悟して食べたらそれほど硬くもなかった。
だからってまた自分を過信して傲慢になって「朝からあずきバー、余裕でしょ」なんてトガったこと言えるもんか。
いろんな意味で大人のアイス。人を大人にするアイス、あずきバー

井村屋 井村屋 BOXあずきバー 65ml×6個×8箱

井村屋 井村屋 BOXあずきバー 65ml×6個×8箱

2015年のラグビーボール

ある日、何かが僕たちの心を捉える。なんでもいい、些細なことだ。バラの蕾、失くした帽子、子供の頃に気に入っていたセーター、古いジーン・ピットニーのレコード…、もはやどこにも行き場所のないささやかなものたちの羅列だ。二日か三日ばかり、その何かは僕達の心を彷徨い、そしてもとの場所に戻っていく。…暗闇。僕達の心には幾つもの井戸が掘られている。そしてその井戸の上を鳥がよぎる
              村上春樹1973年のピンボール

何気なくスポーツを見ている時、何か些細なことが私の心をとらえて、そのスポーツが好きになったり、その人が好きになったり、なんとなくずっと印象に残ったりする。

友達のかえる姉さんは子供の頃から家族揃ってラグビーファンで、お正月といえばラグビーをみるのが当たり前だったそうだ。
そんなかえる姉さんに大学選手権に誘われたので、これは勉強しておかなければとテレビでラグビーを見始めて、天理贔屓の心持ちで、2012年1月の国立競技場に出かけた。だからあの時天理のキャプテンだった立川くんには思い入れがある。
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その後も毎年、大学ラグビーや、トップリーグを一緒に見に行くようになって、2015年は帝京と筑波の決勝を見に味の素スタジアムへ行った。どうせ帝京が勝つんだろうと思いながら、二人して気持は筑波贔屓で「あの、福岡くんって子がすごいんでしょ?」とか言って。

うっかり帝京側の応援席の方に座ってしまい、帝京の旗やらTシャツやらもらってしまったので、静かに帝京が圧倒的に優勢な試合を見守っていたけれど、福岡くんがボールを持って走った途端にかえる姉さんが興奮して私の太ももをバシバシ叩いた。
「何あの子!!すっごい早いんだけど!チョロチョロ!って鼠みたいに走って!」
確かに、広い味スタのバックスタンドにいる私達の反対側、メインスタンドの影が落ちたグラウンドをものすごいスピードで走る小さな水色のユニフォームは鼠みたいに見えたものだ。
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鼠、なんて失礼な言い方で申し訳ないけれど、でもあれ以来、地下鉄の駅で鼠が走っているのを見かけても「そう言えばあの時の福岡くんの走りときたら」と思い出してしまう。

2015年秋のワールドカップ以降、「すごく混んでるだろうなあ」と尻込みしてなかなか観戦に行けなかったが、先日のリポビタンDチャレンジカップで久々に味スタに行った。

あの時、味スタを走っていたユニフォームと同じ水色の靴なのね、福岡くん。


この猛烈ダッシュの11番。
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カメラのスポーツモード表示ピクトみたいな躍動感だな。



最近まで知らなかったが福岡くん、医学部を目指すほどに頭にいい方なんですってね。
ええー、素敵、こりゃあ女にモテるねえ、とかえる姉さんと笑ったけれど、きっといくつになってもどんなに立派になっても私たちにとっては「味スタの鼠みたいに早い子」なんだろう。

そんな思い出の井戸の上を鳥がよぎる。きっと何度も。

1973年のピンボール (講談社文庫)

1973年のピンボール (講談社文庫)

曲がり角ごとの驚きⅪ ぼくらが旅に出る理由

高校時代の友人Tと、もうかれこれ20年位ずっと年に数回旅行に出かけている。
Tはやたらめったら忙しいと評判の職業であるSE故、毎日帰宅も日付が変わる頃らしい。その時間には既に就寝中の私の携帯に時折Tから不穏なメッセージが投げ込まれている。
「普通の生活がしたい」とか「緑が見たいぞ!」とか。

「緑がみたいぞ!」っていうメッセージに漂うそこはかとない狂気…。あいつは大丈夫なのかと不安になる朝。

そんなTと旅行にいくと、いつでもどこでも蕎麦ばかり食べることになる。
Tがストレスで胃をやられていることと、我々が出かける先が蕎麦屋しかないような場所ばかりであることが原因だ。

こんな。
にも関わらず、出発してまもなく立ち寄るサービスエリアでうっかりコロッケ蕎麦を食べてしまったりもするのだ。私にとって、コロッケ蕎麦はなぜか旅情をかきたてる食べ物。
そして、自分が車を運転できないので、サービスエリアに来ると非日常を感じて旅行気分が高まる。サービスエリアに限らず、空港や港もそうで、時折用もないのにふらふら行きたくなる。

ふらっと冷やかしに行った仙台港で見かけた、大きなアルミ鍋持参の女子。YOUは何ゆえ鍋持参。

トランジットの人々が巡礼のように歩くハマド国際空港。

横浜大さん橋。死ぬまでに一度は船旅がしてみたい。

スペイン アトーチャ駅。新幹線のホーム。

高速道路のぐるぐる。
色んな人が色んな所へ旅立っていく場所っていいものだ。切なくなったりぐったりしたりもするけれど。

Tは昨年暮れ頃から昇進試験やら年度末やらが重なって、GWの旅行もままならず、「食欲が減る一方です」「昇格試験が終わったら旅行に付き合ってください」と不気味な敬語で死亡フラグのようなメッセージをポツポツ送ってきていた。
あらー、大変ね、と、私は呑気に四国へ行ったり三崎港へ行ったり、電動自転車買ったり。
ある日、自転車でフラフラしていたら第三京浜PAに裏から入れることに気づいてびっくり。

嬉しい驚きのまま、コロッケ蕎麦を食べて旅行気分を味わった。

そうか、これからは自力でここへ来て、あのサービスエリア特有の、コーヒールンバの流れる自販機でコーヒー買って、旅立ち気分や渋滞のうんざり気分を味わうことができるのか。

ちょっと自立したような気でいたら、昇格試験に合格したTからメッセージが来た。
「昇格したら残業代が出ない。お金がもらえない深夜残業がつらすぎます、どこか旅行にいきませんか。ちょっとつかれました!
「つかれました!」って半ギレみたいな疲れ方されてもね…。おお、恐ろしいったら。

まあ、でも旅行に行きましょう。
蕎麦屋と星空しかないような山奥はあなたの車じゃないと行けないもの。
あなたも疲労の蓄積によるその狂気をちょっと開放したらいいよ。

ぼくらが旅に出る理由

ぼくらが旅に出る理由

  • アーティスト:小沢健二
  • EMIミュージック・ジャパン
Amazon

ゴリラデイズ

ここ最近、コアラ見たさによく動物園に行くので、職場でもちょいちょい動物の話をしてしまう。

多摩動物園の象がルールに厳しいらしい。象社会もいろいろあるんだな、とか。
そんな話をいつもニコニコ聞いてくれていた、同僚のタカハシさんが先日すごい事を言いだした。
「この前、甥っ子と姪っ子の運動会があったもんで、名古屋に帰省して、ついでに東山動物園に行ってきたんだけど、あそこのイケメンゴリラがヤバイのね」

東山動植物園オフィシャルゴリラ写真集 シャバーニ!

東山動植物園オフィシャルゴリラ写真集 シャバーニ!

ああ!あの写真集やカレンダーまでお出しになってるスターなゴリラ!
「シャバーニ、1頭だけものすごいデカいんだけど、何より、もう…ケツがね…。ケツがすごいのよ。プリっとしててさあ。さすがの私もあのケツにはやられたわ。写真撮ったんだけど、黒いしガラスが反射しちゃうし全然とれなくて」
わかる。ガラスの反射、悔しい。あとゴリラとかチンパンジー、黒すぎてうまく撮れない…。

これは多摩動物園で人口アリ塚キメるチンパンジー。
東山動物園の西ローランドゴリラ、シャバーニがイケメンであるというのは知っていたが、ケツもイケてるなんて初めて知った。
興味津々でネット検索して、ああ~ん、素敵~と身悶える。
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するとタカハシさんが「実は、シャバーニにやられてクリアファイル買ったのね。でも、家に置いておいてもアレだから、会社に持ってきていいかなあ」と恐る恐る言い出す。
いいよ、いいよ、持ってきなよ、ウェルカムだよ!

翌朝、あまりの迫力に息を呑んだ。
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これはヤバい。草食べてる顔がこんなにキメ顔なのずるい。
あまりのインパクトに家に帰ってからも恋の始まりのように折に触れてシャバーニのことを思い出していた。
次の朝、出社するなり、タカハシさんに「あの…シャバーニファイル見せてほしいんだけど…」と懇願したほどだ。
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ちなみにタカハシさんによると、シャバーニはイクメンらしく、子供に野菜を食べさせたりしており、そのたびに観客から「おおおおお」という歓声があがるのだそうだ。また、女子からの「シャバーニ!こっち見てーキャー!」という黄色い声もすごいらしい。
イケメンでイクメン。おまけにいいケツ。全身からほとばしるすごいオーラ。なんだろう、見てるだけですごく元気が湧いてくる。
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我が職場に、遅れて来たシャバーニブーム。
間もなく産休の同僚も「どうしよう…恋しちゃったかも」と画像検索を始め、入ったばかりの新人ちゃんも恥ずかしそうにタカハシさんに「ゴリラ…もう1回見せてもらってもいいですか」と申し出る日々。
「みんな東山動物園行ってみて!ユキヒョウのユキチもいるから」とタカハシさん。
お金大好きそうなそのネーミングセンスも素敵だ。行くよ、もう絶対名古屋に行くよ。イケメンゴリラもいるし、何よりコアラの聖地だし。

www.youtube.com
米動物園のゴリラのゾラ 飼育員さんからプールを贈られ喜びのダンス - ライブドアニュース

そんなゴリラデイズな今日、踊り狂うゴリラのニュースと動画を見かけた。
これ明日タカハシさんにも教えよう。それでまたシャバーニのファイル、見せてもらおう。そうしたらまた1週間頑張れる。