アサリベイベ

タカラガイいいよな。

ところで中国語の「宝贝」
これは「バオベイ」と読む。赤ちゃんや恋人のことを表す言葉だ。つまりベイビーに漢字があてられたものだぜ、ベイベ。
f:id:mame90:20200411091537j:plain

昔、会社で宍道湖しじみを頂いたことがある。大きくて立派だった。しじみってこんなにデカいのか!と同僚たちと驚いた。
そして会社の人はご丁寧にしじみを紙コップに入れてみんなに持たせてくれたのである。ありがたいことだが、当時の私はまだ若く、しじみを持て余して実家に持っていった。
母はぷりぷりしながら言った。
「アンタはそうやって猫とかしじみとか世話の焼けるものばかり押し付けてさ!」

しじみの世話はしなくて良い…と思ったものだが、今になってあの時の母の言葉を思い出すことがたまにある。
それはアサリの砂抜きをするとき。

まあ、恥ずかしながら、アサリなんて食材に手を出せるようになったのはここ数年のことですよ。それまでは頭の片隅にもなかった。家で食べるつもりは毛頭なかった。
最初に買った時はまず砂抜きの方法を調べ、「海水と同じ濃度の塩分というが海とはこんなにしょっぱいのか!」と驚きもしたし、「アサリとは買ってきてすぐに食べられる食材ではないのか!」ということに驚きもした。
ネットで調べると様々な砂抜き方法が出てくる。やれお湯につけろ、とかどうとか。でも私はいちばんオーソドックスな方法をとっている。

海水と同じ濃度の塩水に一晩つける。
潮吹きをすることがあるらしいので蓋もする。暗いところを好むらしいので新聞紙をかぶせたりと甲斐甲斐しく世話をする。そして時々チラと様子を見る。
「どうだい、アサリたち。リラックスして砂を吐いているかい?」
のびのびしていると少し安心するし、蓋をあけて光が入ったことで、アサリがびくっと縮こまれば「お、すまんな」と慌てて蓋をしめたりする。

そうして思うのだ。「アサリって結構世話の焼けるヤツだな」
そしてそれがまた密かに嬉しくもあるのだ。アサリの世話が。

世界中がコロナコロナと大騒ぎの中、アメリカではひよこが爆買いされているらしい。自給自足と癒やしが目的だそうだ。
確かに家に籠もらなければ行けない今、ペットは非常に心強い味方だ。
だが、ひよこはすぐに大きくなって凶暴でけたたましくなるかもしれないし鳥インフルの恐れもあるじゃないか。
私はアメリカ人に心の底からアサリを薦めたい。
迷えるアメリカ人たちよ、今すぐアサリを買うのです。
そして一晩なり二晩なり砂抜きをしてごらん。
アサリを伸び伸びとリラックスさせてやるのです。今最も旬の食材だぜ?
f:id:mame90:20200411094014j:plain:w350

ベイビーたち、どうだい?リラックスできたかい?

そう優しく問いかけた後、君は一転して鬼になることが可能なのだ。半分は煮立て、半分は冷凍だ。クラムチャウダーもいいだろう。酒蒸し、スンドゥブチゲも意のままだ。
君が世話をして砂を吐かせたアサリたちは鍋の中できっといい出汁を出してくれるはずだ。
アサリたちは「おのれ、謀ったな!」と思っているだろうか。
アサリを煮ながら悪代官ごっこをすることもまた可能であろう。

もしあなたが今、自粛生活に疲れて果てているのなら、私はアサリベイベーの世話を強く薦める次第です。