ばあちゃんのノート


星占いによると本日の蟹座は「すごく大事な事を教えてもらったり、教えてあげたりできるような日。とっておきの話。」との事。


12月に、もう年は越せないかもしれないと言われていたばあちゃんはなんだかんだ元気で年を越し、そしていよいよそろそろだと言う。
それで今日はばあちゃんの病院へ行ってきた。
相変わらず私のことは忘れていて、弟のことは覚えている。「ばあちゃん男のことはちゃんと覚えてる。いい女だから」と口も達者。
f:id:mame90:20200219211928j:plain

猫の写真を見せると「あら、こんな若くてハンサムな男二人と暮らしてるの」なんて言う。
でもやっぱり随分むくんだり小さくなったり、起きてる時間が短くなったり、12月よりも元気はない。

病室には叔母か誰かが持ってきたのか、ばあちゃんのアルバムやノートがあったのだが、そのノートたるやすごい。
少なくとも25年前くらいから書き溜めてあるようで、気に入った短歌、俳句や文章、そしてきっとばあちゃんが「なるほど!」と感心して書き留めたのであろう様々な知識が書かれている。
「青丹よし 青=緑 丹=赤 春の奈良は緑と赤が美しい」
「蒲団 昔、綿を入れたふとんができる前はガマの穂を詰めていたから」
「千両箱の重さ=15kg」
なんと勉強になることか。
f:id:mame90:20180216124304j:plain

あんまり面白いので私達は病室で、ノートを見ながらあれこれクイズを出し合う。
「日本の癌患者第1号は誰?」 「答えは岩倉具視
「太平洋戦争の開戦勅書を書いたのは誰」 「徳富蘇峰
「ルビの語源は」 「イギリスで活字の大きさを宝石の名前で呼んでいたことによる」

そんな面白知識のあいだに、山頭火の句や、若山牧水石川啄木の歌が書き写されており、また「日本尊厳死協会」の連絡先なども書かれている。
米兵と結婚した叔母がアメリカに行くことになった時の寂しい気持ちの日記も、実姉が亡くなった後にばあちゃんが作った歌も。
人生や老い、死への覚悟を意識させるような言葉たちも。
f:id:mame90:20180324084215j:plain

「ホント面白いな、このノート。何度でも読みたいもんな」と弟は言い、「この人博学なのよね」と母が言う。
ばあちゃんはいびきをかいて寝ている。
そして私は「ばあちゃんみたいなノートを作ろう」と決意する。
今日の星占い、本当によく当たっていた。
「すごく大事な事を教えてもらったり、教えてあげたりできるような日。とっておきの話。」
本当にそのとおりだった。
f:id:mame90:20180328072456j:plain

今年は開花が早いという桜。あと2週間くらいで咲くらしい。
ばあちゃんは今年の桜が見れるだろうか。
ボケても病気になっても笑って冗談を言って、面白いノートを残してくれて、なんとまあ見事な生き様だ。
一番大事な事はきっとそのこと。