猫とばあちゃん

先週母からLINEが来て、「ばあちゃんが危ない、みんななるべく早く病院に行ってやってほしい、年は越せないと思う」と言うので、日曜日に病院に行ってきた。

みんなが拍子抜けするほど祖母は元気でよくしゃべったけど、案の定、私のことも弟のことも覚えておらず「ばあちゃんもう誰だかわかんないけど、みんな来てくれてありがとね」「孫ったって何人もいるからね」「あらー、あんた血縁なの~」とけらけら笑っていた。
笑っていていつもの勢いでしゃべってくれていてよかった。
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子供の頃、山下公園で遊覧船に乗せてもらったときも、「今からまめを上海に売りに行くよ」と面白そうに笑っていたばあちゃん。
きっとそんなことはすっかりさっぱり忘れてしまっているだろう。
なにせ「2ヶ月前のことなんてもうばあちゃん無理よ、91だからね、昨日のことだって覚えちゃいない」と豪語していたくらいだ。

それでも大事にしていた猫のずっちゃんのことはきちんと覚えていた。
孫のことは忘れても、ずっちゃんのことは忘れない。
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うちの猫たちの写真を見せたところ
「あら!これはいい猫ね。ちゃんと手をそろえてしっぽで巻いて礼儀正しい!ばあちゃんにはわかる。これはいい猫よ」と大層褒めていただいた。
そして私には「あなたどこの子かわかんないけど」と言い、撫ですぎて毛がつるつるになった猫のぬいぐるみを抱きしめていた。
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いつか私にもいろいろ忘れてしまう日がくるけれど、それでも陽気に笑っていられるかしら。猫のことは覚えているかしら。
今日は猫とケンカして口もきいていないんだけど、そんな日のことも思い出すかしら。
いいことばっかり思い出すかしら。

もう91だし、大往生よね。万が一年が越せなかったとしても最後に元気なときに会えてよかったわよね。
そんな風に話して、まあみんなそれなりにちょっと覚悟して別れた。
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これはこの夏、銀座のギャラリーで見たくまくら珠美さんの「雪男曼荼羅」という猫の絵。

ばあちゃんは天国に行ったらきっと、子供の時から可愛がってきたたくさんの猫たちと再会してこんな感じになるだろうな、と思う。
真ん中にのしっと座って、ずっちゃんを抱いて、やたらめったらしゃべっているんだろう。
そう思うと、もうこの絵の白猫がばあちゃんにしか見えなくなってくる。

まるで猫みたいで、猫が大好きで、猫のことだけはちゃんと覚えているばあちゃん。
それでいいよね。それで結構幸せだよね。