曲がり角ごとの驚き・27 ~知らぬが仏~

先日、田代まさしがまたしても覚醒剤でつかまったニュースを聞いてやるせない気持ちになった。ああ、麻薬って本人がどれだけやめたいと思っても抜け出せないものなんだなあ、と本当に怖かった。
アメリカ版シャーロック・ホームズの「ELEMENTARY」というドラマの中でも断薬中のホームズが何度も何度も薬の誘惑と戦っていて、再度薬に手を出してしまったりもしている。恐ろしい…。
そんな麻薬の恐ろしさを、人生で最初に教えてくれたのが横浜税関だった。

高校生の頃、初めて横浜税関で、麻薬の恐ろしさを語るビデオや拳銃密輸の痕跡などを見て以来、「横浜に遊びに行くんだー」などという者には片っ端から「横浜税関の資料展示室を見るように」と伝えている。恐ろしくて、そして「本当にこんな事が現実に起きているんだ」と驚く。
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これは中国人がコンテナを二重壁にして、隙間に覚醒剤を詰め込んできた様子を再現したもの。
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こっちは海賊版EZ DO DANCERCISE。
すごいな、海賊版ができるなんて売れ筋商品の証だ。やるなTRF。そして摘発する側もすごい。よく気が付くもんだ。私なら気が付かない。

以前友人タキコにも横浜税関を勧めたところ、行ってきたタキコは焼き鳥屋でアツく語る。「アンタあれよ、不審者見つけたらちゃんと電話せんといかん。電話番号はシロイクロイだから」
酔っ払った勢いもあって、何度も何度もシロイクロイを繰り返すタキコ。

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461-961は密輸の通報先。
税関には「不審者は深夜に岸壁からあがってくる!見かけたら通報を!」とのポスターが貼ってあったらしい。
平和ボケした私とタキコは「でもさあ、深夜に岸壁からって、ただ単に溺れた釣り人かもしれないじゃん」とゲラゲラ笑っていたが、近くにたまたま税関勤務の若者がおり、「いや、まめさん、マジであがってくるんスよ」と真顔で言うので驚愕した。
マジで来るらしい。密入国やら密輸やらの人が。本気で。深夜に岸壁から。怖い。
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去年の8月は自衛隊松島基地航空祭に行ってブルーインパルスなどを見てきた。友人が自衛隊勤務の方と知り合いだったので、事務所に案内してもらい自衛隊の方のお話も聞いた。あちこちに赴任して、徹夜で仕事したりすることもあるらしい。とにかく今は中国との海域の問題が大変だということを仰っていた。
平和ボケの私が「ああ、なんかニュースで小競り合い、みたいなこと言ってますよね」と言うと、自衛隊の方は若干イラっとした顔で「小競り合いなんて生ぬるいもんじゃない、本当にヤバいんだ。詳しくは言えないけどヤバいんだ」と言う。
そうなのか…そうだったのか…。
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先日いもこさん(id:xx_green-heuchera_xx)と横浜で遊んだ際、税関には行かなかったが(お薦めはした)赤レンガ倉庫付近を散策している際に北朝鮮工作船展示の建物を見つけた。
「何あれー!行ってみよう!」
またしても平和ボケの私は嬉々として中に入ったのだけれども、その展示のものものしさに衝撃を受けた。恥ずかしながら全く知らなかったのだが、2001年に「九州南西海域工作船事件」という事件があって、海上保安庁の巡視船が北朝鮮の不審船を追跡し、不審船は自爆沈没したのだそうだ。
その不審船と遺留品を引き上げて展示してあるもので、横浜に来る前は東京の船の科学館で展示されていたらしい。
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銃撃の穴なんかも空いている。
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シャープのポケコンや古いガラケー金日成のバッヂ、ボロいゴムボートや潜水具、無線機、トランジスタラジオ、鉄兜、そして武器類。
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私やいもこさんから見れば、「こんな昭和みたいなものばっかり持って…」という感じだったが案内板には「武器などを見るにかなり先進的な装備力」と書かれていた。…そうなのね。
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それにしても、こんな暗い船底で、自爆も覚悟の上で、なにかしらの使命感を持って真っ暗な海へ出ていくっていうのはどういう気持なんだろうか、どういう人生なんだろうか。
暗い気持ちになりながら考える。でもわからない。何のため?

それを知らずにいられること、そしてそんな事件が起こっていることを知らずにいられること、平和ボケをしていられることはなんて幸福なことなんだろうか。
その影で、誰かが暗い使命を帯びて、誰かがそれを必死で阻止して、誰かがどこかで死んで、ニュースで少し語られる。
それを遠い国のことのようにぼんやりと聞き流したり、ピっとチャンネルを変えてしまったり。

知る喜びもあり、知らずにいられる幸せもある。知らなきゃいけないこともあり、それでも知りたくないこともある。
たくさんある。