この国のかたち

こうの史代の漫画、「この世界の片隅に」の中に、こんな1コマが出てくる。
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そして頁の隅にはご丁寧にこんな注釈がついている。

純綿:混ざりもののないもめんのこと。昭和十三年以降、糸や綿織物は「スフ(ステープルファイバー。粗悪な化学繊維)との混用が義務づけられ、純綿製品は貴重品となりました。

この単語を知っていたのは、戦中を軍国少女として生きた祖母が下着やら見るたびに「あら~、純綿?」などと嬉しそうな顔をしては、母に「純綿て!!綿100とか言えないの?」と呆れられていたのを見ていたせいだ。そうか、綿100%のことを純綿というのか、と子供心に思った。

さてさて、選挙の時期ではあるけれど、夏も来るけれど、別に反戦とか訴えたいわけじゃないです。おパンツの話をしようと思っているだけなのです、おパンツ。
中学生の頃、弟たちがまだ小さかったもので、母と一緒に「早くおパンツはきなさい!!」などと弟を追い回していた私は、学校でもうっかりその単語を口にしてしまい、「え、パンツに”お”つける!?」「おパンツって!!」と友人たちに笑われたものですが、大人になってみると、子育て中のお母さん方は大体「おパンツ」と言うので心の底からホっとしたものです。

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最近の子供用おパンツはオシャレだな…。
私も一応女子の端くれとして、20代、30代には「パンツには1軍、2軍、そして育成枠(寝る時用)があるよな」という矜持をもって生きてきた。外出時には1軍下着。もちろん上下セットで、レースとかついちゃったりするようなやつだ。しかし40代になるとだんだん、「もうレースとかいいかな、楽なのが一番だな」という気持ちになってきて、1軍と2軍は統合され、「外用」「寝る時用」といった区分になった。
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猫はいつだってノーパン
寝る時用はやっぱり綿がいい。
つるつるおパンツじゃ眠れない。夢見る少女じゃいられない。ダンスはうまく踊れない。
純綿でボクサータイプがいい。オフェンス力よりディフェンス力が大事。
そんな訳で、寝る時用おパンツを買い足しにヨーカドーに行ってきた。以前にヨーカドーで購入したプライベートブランドのボクサーショーツが良かったので。
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お相撲さんの廻しは絹。
ところがところがどうしたことでしょう…!
ごくごく普通のシンプルな純綿のおパンツは、軒並みLLから3Lしかないではないか!
昔、「海外に住んでいる日本人女性が何で苦労するかっていうと、パンツが買えないこと。向こうのパンツって大きすぎるから」という話をよく聞いたものだが、ここ数年で日本人女性の尻のデカさがそんなに変わったというのだろうか。

おかしい…。ここはビッグサイズの売り場なのか、普通サイズのおパンツはどこだ!…と探すと、通路の裏側にMサイズなどもあったが、どれもデザインが若い人向けで、なおかつ綿が含まれていなかったりする。レーヨンとポリエステル製だ。
中には「綿混」としか書かれていないものもある。
なんだよ、綿混って。一体どれくらい綿が含まれているんだよ!…と思うがその比率はどこにも書かれていない。この情報統制…戦時中か!!綿がそんなにも貴重な時代なのか、今は!…と愕然とする。
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今に純綿のおパンツなんて手に入らなくなって、普通サイズのおパンツもなくなってどデカいのばかりになるんじゃないか。
私の知らぬ間にこの国はいったい、この国の女の尻は一体、どうなってしまったのか…。

ヨーカドーの片隅で、漠然とした不安に襲われる週末。
純綿にあんなに喜んでいた祖母の気持ちが、今ならすごくよくわかる。