時の流れに身をまかせ

隣の席のハルちゃんのお母さんは熱烈なキムタクファンなのだそうだが、最近はキムタクが劣化した、劣化した、と大騒ぎらしい。
いやあ、あの人だってもうあんな大きな娘さんのいるいい年だし、いつまでもセナじゃないでしょう…。

芸能人もすぐに劣化した劣化したなんて言われるから大変だな、と思う。
そういえばこの前、テレビで久々に森進一を見たらずいぶんと老け込んで美川憲一みたいな顔になっていたのでびっくりした。え!これが森進一?と。
襟裳岬を歌っていたが、肺がんもやったし、さすがに声量も落ちている。でも、それを補うだけのテクニックや貫禄、経験値があるし、それでいいんじゃないかしら、と思う。
人は、わけのわからないことで悩んでいるうちに老いぼれてしまうんだから。

森進一-襟裳岬
西城秀樹が亡くなったあと、一番驚いたのは御三家として出てきた郷ひろみのあまりに不自然な整形具合だった。え!!ヒロミ、さすがにそれはちょっとやりすぎでは…と思った。
郷ひろみも今年で64歳とのことなので、あれはもう9年前か…。ヒロミGO55歳のライブ、その名も「HIROMI GO CONCERT TOUR 2010“55!伝説”」に行ったことがある。ずーーーーっと昔からヒロミのファンだったのだろうおばさま方が多く、ペンライトではなくハンカチを振ったりしているのが新鮮だった。そして、55歳なのにあんなにもハツラツと踊れるヒロミの姿に、友人たちと「郷ひろみの凄いところって、ずーーーーーっと変わらず”郷ひろみ”の役をやってくれているところだよね」としみじみ感動しながら帰宅した。
そうやって、きちんと「郷ひろみの役」をこなそうとしてくれているから、あんなにも整形しないといけないんだろうか。芸能人て本当に大変だな。
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機械の体が欲しいとか、不老不死になりたい、なんて物語も多いけれど、不老不死って本当にいいものかしら。40代なのに20代に見える、って本当にいいことかしら、とちょっと考えてしまう。
私は昔から童顔で、28くらいまでは10代と間違われて居酒屋ですら年齢確認をされた。それがある日聞かれなくなったとき、なんだかものすごくショックを受けた。30歳になった時はものすごくヘコんで、今30と1分、30と2分…などとカウントしていた。
それから1年くらいたってやっと気づいた。30代って楽だな…!40代になったらもっと楽。人のことなんてどうでも良くなるし。

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世の中に寝るより楽はなかりけり
もちろん体は如実に衰えてくる。でもそれもまた楽しい。「ああ、大人の階段登ってるな」という気持ちになる。
去年は老眼鏡を作った。度数はまだ0.5だけれども。
濃く見える!これが老眼鏡!とトキめいたが、会社で「これ老眼鏡なの」と言うと笑われる。いいさ、笑わば笑え。
各種不調に「ああ、更年期かなあ」などと言うと目を吊り上げて怒る友人もいる。「まだ早いから!!私たちまだそんな年齢じゃない!まだ女捨てないで!」
女捨てるも何もない。年齢とともに店じまいの準備が始まるのは当然のことじゃないか。
私は時の流れに抗って、いつまでも若くいようとするよりも、時の流れに身を任せ、静かに綺麗に枯れていきたい。先日、田辺聖子が亡くなった。
ニュースを見て驚いて息を呑んだし、「最後まで幸せでニコニコしてくれていたらいいな」と思った。そして久々に田辺聖子を読み返した。
この「週末の鬱金香」は短編集で、いろんな年代の女の話が収められている。田辺聖子お得意の20代後半から30代のハイミスもあれば、58歳、60歳、64歳なんて女性の話もある。そういう年代を大阪弁では「トシの緊(し)まった」と表現するんだなあと感心する。

みんないろんなことを経験して、少しずつふてぶてしくなりながら、一人で老いていく覚悟も固め、腹を据えて生活している。
男の人に胸ときめかせたりもして。
「人間がまともになるのは六十すぎてからや、思いますな」なんて会話もして。

ああ、いいなあ、と思う。
昔から年上の人たちの大人発言や大人スタイルに憧れてきたけれど、40になっても60過ぎの人の発言に憧れたりする。まだまだ憧れの先がある。きっと60になったらもっと楽に、もっと楽しく、素直に自由になれるんじゃないかしら、と思うと元気がでるし、年をとることが楽しみになる。

まだ穂の開かない若い緑のススキも綺麗。秋風に揺れるススキも綺麗。綿毛を膨らませたススキも綺麗、そして枯れたススキも綺麗。
私もそうやって、時の流れに身を任せ、すっくり立って風に吹かれて枯れていこう。