風に吹かれて

若さというのは傲慢なもので、母から「子供の頃は木の冷蔵庫を使っていた。冷却用の氷を買いによくおつかいに行かされた。流し台は石だった」という思い出話を聞かされた時には「木!石!!…なに?この人石器時代の人なの?」と思ったものだ。
しかし、平成も終わろうという今、自分の来し方を振り返って「あの頃は携帯電話なんてなかった」と言えば、今の若い人には「は?じゃあどうやって連絡とってたの?法螺貝?狼煙?」とでも言われるであろう。
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春分の日はとてもよく晴れた気持ちのいい日だった。
あの日はCSの日本映画専門チャンネルで朝10:40からずっと「愛という名のもとに」の一挙放送をやっていた。
そう、そしてあの日は風に吹かれて過ぎていった。
見てしまったのだ。延々と。12話。ざっと9時間。

愛という名のもとに DVD-BOX

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1992年のドラマで、あの頃私は高校生。正直ほとんどリアルタイムでは見ていなかったので、きちんと見るのはこれが初めてだった。
まあ驚いた。唐沢寿明の若さにも、いきなり「風に吹かれて」をみんなで暗唱しだすことにも、卒論が手書きなことにも。
ワープロくらいあったよね?あの時代だって。そんなに…そんなに大昔?
もちろん携帯電話なんてない。唯一それっぽいのは代議士の息子である唐沢寿明が乗る車に搭載された車載電話だ。
みんな家の電話しかないのにすぐに連絡がつく。どうしてみんなそんなに家にいるの?いられるの?
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1986年に放送された倉本聰の「ライスカレー」を久々に見たときにも「なんでみんな人の職場に勝手に電話したり、仕事中に人の職場にふらっとやってきたりするの?」と驚いた。
だが、それは1992年の「愛という名のもとに」でも同じで、職場に私用電話がかかってくる。そしてそれは平気で取り次がれるし、挙句電話の内容によってはそのまま職場を飛び出してしまう。
…そんなことがまだ許されていたのか…。バブルも崩壊した時代に。
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何より驚くのはたばこで、今だったら苦情がくるほどにバンバンたばこを吸う。人の家に行ってさえ、すぐに煙草に火をつける。当たり前のように。
そして江口洋介自動販売機で煙草を買うシーンも出てくる。ああ、懐かしのあの!誰でも買えた自動販売機!
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早稲田と青学のミックス色ジャージの大学、大学最後のレガッタで優勝した面々の卒業して3年後の物語。
職業は左の江口洋介から順に、無職、代議士の秘書、教師、デパートの店員、区役所の窓口、モデル、証券会社の営業マンだ。
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野島伸司セント・エルモス・ファイアーにインスパイアされて書いた脚本とのことで、モデル役は髪型もデミ・ムーア意識。不倫の愛に苦しんで1話目から自殺未遂。不倫相手が森本レオで、その狡さがもうやたら生々しい。森本レオ、リアルでもあんなだったんだろうか、と思ってしまう。
ふぞろいな秘密

ふぞろいな秘密

嫁入り前の娘は実家暮らしが当たり前で、一夜の過ちがあれば「責任だ」「結婚だ」と大事になる時代。
そして答えは風の中、といった感じでドラマも終わる。

どれだけ歩けば人として認めてもらえるのだろう?
いくつの海を越えたら白い鳩は砂地で安らげるのか?
友よ、 その答えは風に吹かれている。
答えは風に吹かれている

神宮外苑イチョウ並木の下、これをみんなで暗唱して。
死んでしまった仲間も一緒に。

ああ、そんな時代であったか…。平成4年とは。
あの頃私は高校の教室で世界史の先生から「人生の答えを他人に求めてはいけない、求めると変な宗教に走り出す」などと教わっていたっけね。
そう、答えは風に吹かれているのだから。

風に吹かれて1日が終わり、風に吹かれて平成も終わる。
すごい速さで物事が変わっても、時代がいくつも変わっても、答えはいつも風に吹かれて。


Bob Dylan - Blowin' in the Wind (Audio)