目の黒いうちは

この前、同僚のタカハシさんが営業からの電話で「ちょっと待てよ!」と言われたらしく、「キムタクかよ!」と職場で盛り上がった。
どんな映画やドラマを見ていても、誰が言っても、「待てよ」と言われればキムタクを思い出してしまう。


別に意識高いアピールじゃないけど映画やドラマの吹替版が嫌いだ。
何がイヤってあの喋り方だ。吹替というのは必ずああいう喋り方をしないといけないと決まっているのか。
「おっと、こりゃ失礼?」「おいおい!今日はフライデーナイトだぜ?」


ビバリーヒルズ高校白書は別にそれでも良かった。でも、あまりに強烈すぎて、あれから吹き替え版の全てがビバリーヒルズにしか聞こえなくなった。
吹替ができる声優が限られているというのももちろんあるんだろうが、若い声優さんたちでさえあのメソッドを踏襲しているような気がする。そもそもアニメの喋り方も特徴が決まっているからか。
同じ声優がやっているからか、NHKを見てもアイカーリーとゲームシェイカーズの違いがまるでわからない。
ダウントン・アビーすらビバリーヒルズに聞こえてしまう。

そんな私にAmazonさんからオーディブルの無料体験の連絡がきた。

要は朗読されたオーディオブックを聴くというサービスだ。
最近目の疲れもあって、本を読む機会が減ってきた。PCやスマホによる老眼の若年化も進んでいるというし、こういうサービスもこれからどんどん増えるのだろうな。
ものは試しで30日間無料体験に登録してみた。
が、無料で聞けるプログラムはどれもつまらなそう。有料のものを1冊ダウンロードできるコインがついてくるので、とりあえず夏目漱石の「草枕」をダウンロードしてみた。

草枕

草枕

佐々木健という声優さんが読んでくれる。聞き始めて思ったけど、草枕自体がそもそもおっさんが山道を行きながら徒然に考えていることを文章にしたものなので、おっさんにぶつぶつ言われるのはジャストフィットだ。
なるほど、すごい!まあ、よく喋るおっさんだよ、と思いながら聴く。
ハムレットのように独り言をぶつぶつ言う男の物語もこういうメディアに向いているのではないか、と考えたりする。

が、草枕1冊聴くのに8時間ばかりかかるので、途中で飽きもするし、先が気になって自分で本を引っ張り出してきて読んでしまったりもする。
他の本をダウンロードしようと思ったが、まあどれもこれもいいお値段だ。
草枕だって3000円。太宰治の「斜陽」が2100円。他人様に読んでもらおうとすると、これも致し方ないことか。同じタイトルでも朗読する人によって値段が異なったりもする。
そんな中、大山のぶ代が読む「放浪記」の8分だけの抜粋が140円だったので買ってみた。

ドラえもん」というイメージがついている人が読むオーディオブックはどんな風に聞こえるのだろうか、という実験でもあったが、やはりドラえもんであった。
久々に聞くのぶ代の声に「ドラえも~ん!」と甘えたくなるほど安心したが、なにぶん読んでいるのは放浪記なので、不幸で貧乏でみじめな「あたし」だ。
ドラえもん、あたしって言うのか・・・。そう思ってしまう。

いやいや、これじゃとても無理だな。無理だわ。便利なサービスだとは思う。
でも月額会費が1500円で、なおかつオーディオブックの代金がかかる。そのオーディオブックがやたら高い上に、朗読者のイメージが強すぎると雑念が入って集中できない。

「本は、聴こう」とオーディブルは言うが、私はやっぱり本は読むよ。目の黒いうちはな。
映画だって字幕で見るよ。目の黒いうちはな。
白内障で目が白くなったりしたらお世話になります。その時はよろしく。