仁義なき戦い

友人ヤマダは学生時代明治大学に通っていて、時折講義の途中にヘルメットを被った学生運動の人が教室にやってきてあれこれ主張を叫び出すのだと言っていた。
もう20年近く前だが、その当時でさえ「え!!学生運動の人ってまだいるの?」と驚いた。ヤマダはしみじみと「何と戦ってんだろうな、アイツら」と言っていた。

ホント、何と戦っているんでしょう…。
友人はどういうわけだか一回り以上年上の学生運動あがりの男性とお付き合いを始めてしまった。これがまた面倒くさい人で、政治や世間やあれこれに不満は尽きないが、最近では自転車の運転マナーにうるさく、自作のビラを配りながら辻辻で説教をするのだ。私も説教をされた。
何なの?戦うことが生きることなの?何でそんなに戦いたいの?

…ウザいです…サンタマリア…。
不毛な戦いと言えば、課長が先月からずっと咳き込んでいたのだけれど、なかなか病院に行かなかった。「ただの風邪だから」「薬飲んでるから」「俺は病院なんて滅多にかからないから」と強がって。
男の人って時々そういう不思議な戦いをしていることがある。「風邪は気合で治す!」とか「薬なんて飲まない!」とか「エアコンは使わない!」とか。「花粉症って認めたら負けだから」とか言いながら鼻水をズルズルすすっていたり。
なんでもいいから鼻かみなさいよ!

しかし、そんな事を言いながら、私もまた不毛な戦いをしていたのだ。これはきっと女性に多いと思うけれど「そんな贅沢するなんて!」という悲しい意地。
食洗機なんて贅沢、フードプロセッサーなんて贅沢、湯沸かしケトルなんて、ホットカーペットなんて。「全自動洗濯機なんて贅沢だ」と最近までずっと二槽式洗濯機で頑張っていた友人もいる

去年買って一番良かったものは電動アシスト自転車。2桁万円。山坂の多い街なのに無理する必要なんてないや、行動範囲も広がるからいいや、と勢いで買ったら「どうしてもっと早く買わなかったの?」と思った。
いやあ、こんなに快適で、しかも年間のバス代を考えたら1年位で元がとれるんだから、戦う必要なんてなかった。何と戦ってたのよ、私。

去年友人が「うちもついに家の電気をLEDにしちゃったわ、リモコンで調光もできるし便利なのー」と言い出した時、「わざわざそんなのにする必要ないし。まだうちの電気使えるのに贅沢だし」と嫉妬混じりに思っていた。
が、先日雪の日に、帰宅後ウキウキ浮かれて長靴履いて雪をかきわけて遊んでいたら、うっかり39度の熱を出してしまった。インフルじゃなかったのがせめてもの救い。

高熱に震え、少し眠っては起きて水を飲んだり体温を測ったりするときに、逐一起き上がって壁のスイッチで電気をつけなければならないのが本当にしんどくて、「ああ、こんな時こそリモコンで操作できる電気が必要なんだ」と痛感した。
それで熱が下がるなりすぐに、LEDシーリングライトを探す。

驚いたことに、今LEDのシーリングライトって5000円もしないんですよ!!!調色ができるやつだともうちょっと高いけど。
なーんだ、こんなお値段で買えるのか…もっとずっとお高いのだと思っていた。
考えてみれば我が家の電気は私が高校生の頃からもう四半世紀ほど使用していた、紐がついてるナショナルのやつだ。ナショナル!
…いいよね、そろそろ買い替えても。いいよね、もうリモコンで操作しても。いいよね、いつまでも戦わなくても。
それでニトリ通販で即購入した。

そんな話を相撲友達にしたら、友達がふふっと笑って言った。
「私もね、今の会社に入って初めてのボーナスで食洗機買ったの。一人暮らしで食洗機なんて贅沢だってみんなに言われるんだけど、私はずっとアトピーで辛かったから、洗い物から開放されるってだけで本当に嬉しくてね」
その嬉しそうな顔を見たら、ああ、そっか、それは良かったね、いい買い物したね、と胸がきゅっとした。

ねえ、私達もう、そんなに無理してあれこれ戦わなくていいよね。楽に生きていいよね。
生きることって別に戦うことじゃないわよね。
便利さを享受することは何も悪いことじゃないよね。

さ、リモコンで電気消して寝よう。これからは病に臥しても寝たまま電気がつけられるんだ!