君拾帖

■くんしゅうちょう■  すきなことだけてきとうに

クリスマス貝

年をとるとだんだんイベントごとに疎くなるのか、ハロウィンが盛り上がっていたのにも気づかなかったし、ボジョレーも知らぬ間に解禁となり、「今年のボジョレーは濃くて旨いよ」と言われ、買おうかなと思ったときには見当たらず。
おかげでクリスマスも「なんか今年はあまり世の中盛り上がってないわね、全然クリスマス感ないわー」なんて思っていた。
盛り上がっていないのはきっと私だけだったんだろう。

23日はしこたま大掃除をした。手ががさがさになるほど必死に。「海が見たい・・・」なんてアンニュイに呟いてしまうほど懸命に。

そんな訳で24日は真鶴へ。
ここ数週間ばかりどうも真鶴が気になっていた。子供の頃、磯遊びで転んで怪我をして「怪我からフジツボの卵が入って膝にフジツボが生えたらどうしよう」と数日怯えて過ごして以来、二度と訪れることのなかったあの地が、今なぜこんなにも気にかかるのか。
いや、でも真鶴、それなりに遠いし、海を見るならみなとみらいや鎌倉でいいか、とも思った。
しかし時はクリスマス・イブ。そんな日のみなとみらいや鎌倉は、キラキラ女子と男子でいっぱいなんだろう、やっぱり真鶴だ。
イブとか知るかよ。真鶴散歩して刺身定食とビール飲んで、ぐーすか寝ながら昼過ぎに帰る、これだ!完璧だ!

漁師町っていいもんだ。愛想の悪い猫もいる。ゴミ捨て場のネットはもちろん漁網。必ず貴船神社がある。
そんなあれこれを眺めながら半島の突端へ向かう。そして出会う。

遠藤貝類博物館。遠藤貝類博物館!!
なんてものがこの突端に!私を呼んでいたのはこれだったのか。このためにこそ、私は今日この真鶴の地へ来たのではないかしら。

入り口の前にも、地元の人から寄付されたタカアシガニやら何やら置いてあるが、驚いたのはこれだ。

伊勢海老の抜け殻。「すごい…、完全な抜け殻なんて初めて!」
王蟲の抜け殻を見つけたナウシカみたいに言いたくなる。

幼少より魚貝に囲まれて育った、地元出身の遠藤晴雄さんはずっと自宅を私設博物館にして、自分の貝コレクションを公開していたんだけれど、それを真鶴市が譲り受けたのですってよ。

真鶴町立遠藤貝類博物館

すごい。「幼少の頃より魚貝に囲まれて育ち」なんて言われる人、そうそういない。さかなくんだって別に魚貝に囲まれて育ってないだろう。すごい。
そして、海に生きる貝だけでなく、陸に生きる貝、カタツムリも出て来る。そうか、カタツムリって貝だよな。貝殻ついてるもんな。展示の脇に書かれた貝の豆知識がいろいろと面白くて、カタツムリが雨上がりにコンクリートの上に出てくるのはカルシウム摂取のためなんだそうだ。カルシウム摂らないと殻が維持できないから。
なるほど…!!とものすごく感心した。

嬉しかったのは法螺貝。自由に吹いていいらしい。ちなみに上手く音が出れば非常に大きな音がするが、吹くのには才能が必要らしい。…いろいろ試したけれど鳴らなかった。

ホラガイが鳴らなくて、切なめクリスマス。
この館で一番うやうやしく展示されているのはオキナエビスガイで、これは絶滅したかと思われていた古代の貝なんですって。世界で最初に発見されたのは、古代の貝殻をヤドカリが使っていたものらしい。リノベーション…。

そして世界で3番目に見つかったのは江ノ島の土産物屋に置いてあったものだって。江ノ島の土産物屋、すごい…。
この貝はマニア垂涎の貝らしく、遠藤さんは世界の30種類のオキナエビスガイのうち、27種類集めて展示してるらしい。あと3種類はどこにあるんだ。そしてどんな価格で取引されるものなんだ…。

また、人間の生活と貝との関わりについても展示されているのだけれど、その中でこれ。貝ボタンをとったあとのサザエ。
カーディガンとかについているあのステキな貝ボタン。あれ、サザエだったのか…。もっと平らな貝からとっているのかと思ってたらこんなにも器用に…。

こじんまりしているけれど、遠藤さんの情熱がすごく感じられて、とても面白い。帰りに自分にクリスマスプレゼントを買う。 

遠藤さんの描いた貝の絵葉書図譜。その名も「海の貴婦人」

毎年遠藤さんが送った年賀状の貝の絵が収められている。「海の貴婦人」というタイトルもたまらない、古いフォントもたまらない、そして何より、添えられた説明の、味のある文章がたまらない。
ああ、ここに来れて良かった。なんて素敵なクリスマス貝。