曲がり角ごとの驚き・21 コクとは何か


12月頭に久々に山に行ってきた。久々なのでお気楽に行ける丹沢。

甲子園風に言うなら3年ぶり2度目のコース。地味にキツいの忘れてた。

でもまあ、今年は見れないかなあと思っていた紅葉も見れて。

全長17kmのコース、最後は若干へばりながら舗装路へ出てバス停へと向かう。
バス停へ近づくとだんだん家々も増えてきて、あちこちに無人の野菜売り場がある。
こういうの、いつもとても魅惑的なのだけれど、山歩きで疲れた身では大根背負って帰れない。今野菜売り場に並ぶのはみかんばかりだけど、みかんもちょっとね、うちにまだあるし。
この辺みかんが採れるのかしら、みかん畑は見当たらないけど…。

などと思いながら歩いていたら、バス停横の売店のおじいさんが「みかん食べていきなよ!!」と声をかけてくる。
あー、それじゃあ、と頂いた所、とても甘い。
「おいしいですね!」と言うと、おじいさんは「あったりまえだよ!おいしいから薦めてんだ!おいしくなかったら売らねえよ!」と威勢よく仰る。
はあ、なるほど。この辺て、みかんがとれるんですね、と言うとおじいさんは・・・、今にして思えばだけれど、一瞬ふっと黙った。そして言うのだ。
この辺じゃ採れねえよ!これは三ヶ日!!」
三ヶ日・・・ってどこでしたっけ?と聞くと「静岡だ!ここのみかんが一番うまいね!甘いだけじゃなく、コクがある。甘いだけのみかんなんて、世の中に山ほどあるけどよ!やっぱりコクがなくっちゃよ!
はあ、そうですね。コクね、ええ、ええ。勢いに押されてみかん背負って帰ることに。みかん、うちにあるのに・・・。

そうして、みかん背負って乗り込んだバスが動き出した後、我が目に飛び込んできたのは大きな「歓迎 みかんの里」という看板だ。みかん園やらみかん狩りの看板もある。
待って!ねえ、待って!!
さっき、あのおじいさん、「この辺じゃみかんは採れない」って言ってたんだけど!?

・・・。
買ったみかんを見つめて、しみじみ考える。おじいさんにとって、ここのみかんは「甘いだけでコクがない」のだろうか。「おいしくなかったら売らねえよ!」という言葉に嘘偽りなく、自分が美味しいと思った三ケ日のみかんを売り、地元のみかんは売らないのか、例え地元を敵に回しても・・・?
バス停横なんて一番いい立地に店を構えておいて、地元のみかんを売らないばかりか「この辺じゃみかんは採れない」とまで言うからにはご近所と相当な軋轢もあるのでは・・・。

そうまでしても、それでもコクは譲れないのか・・・。そもそもコクってなんだよ・・・。
おじいさんをそこまで駆り立てるコク、それは旨味のハーモニー、らしい。
なるほど、コク、ねえ。これがコクってやつね・・・と、おじいさん推奨の三ケ日みかんを噛みしめるが、本当はコクなんてよくわからない。
ただ、甘くて瑞々しいみかんの中に、おじいさんの断固としたこだわりと決意を感じて、「三ケ日すげえ!」とか思うだけ・・・。