チーかまと小心者

以前飲み屋で知り合った女の子で「酔うと必ずインスタント焼きそばを買ってしまう」という女の子がいた。
彼女は言う。
「この前もすごい飲んじゃった日があって、朝起きたら枕元に焼きそばがたくさん転がってたんですよー、でも買った記憶が全然なくてー」
えええ、ウケるー、と精一杯感じよく笑いながら、心の中には嫉妬の炎が渦巻いていた。
なんだよ、その「掴みエピソード」。しかも酔って記憶なくせるオープンマインド。

小心者且つええカッコしいの私にはとても記憶をなくすまで酔っ払うことができない。
悔し紛れに言う。「私はチーかま買っちゃうー、記憶はあるけどー」
…痛々しい…。でもチーかま好きなのは本当です。

チーかま大使になりたいとさえ思った。
しかし私のチーかま愛なんて本当の愛じゃないのかなとも思う。

今日、会社で課長が「腹の具合が悪いんだよ、なんか薬とかもってないか」と言い出した。私と同僚女子は一生懸命机の中から痛み止めやらビオフェルミンやらを探し出すが、係長は違う。
満面の笑みで引き出しからチーかまを取りだして課長に差し出すのだ。
「課長!チーかま食べたら元気になりますよ!おいしいですよ!」

チーかま食べたら元気に!!係長の机にはチーかま常備なのですか…。恐ろしい子…。

しかも係長は、チーかま持参の咎でエチオピアの空港で止められたことのある強者だ。
なんでも空港の金属探知機にチーかまの金具がひっかかったらしい。
「これはなんだ」と厳しく問うエチオピア人。
「チーかまという食べ物だ」と堂々と主張する係長。
「はあ?食べ物?それならここで今すぐ食ってみろ!」と仰るエチオピア人を前に、歯で金具を食いちぎり、雄々しくチーかまを食す係長@エチオピアの空港。

…負けた。完全に負けました。私がチーかま大使になりたいだなんて100万年早かった…。

私なんてポケットに入れてたアフターコーヒーミントが空港で引っかかっただけで、「違います…これ、ドラッグとかじゃないんです。ミントです。NOOOOOOOO!」とガタガタ震えるほどの小心者ですよ。
国技館にはチーかまを持ち込めても、エチオピアまでチーかまを持参するほどの深いチーかま愛もなければ、その場でむしゃむしゃ貪り食べて「お前も食べてみろ」とエチオピア人に差し出すほどの豪胆さもありませんよ…。

係長のチーかま愛に触発されて私も久々にチーかま買うか、と帰りにコンビニに寄ってはみたが、おさかなソーセージしかなかった。
お前のような小心者かつチーかま愛の薄い者に食わすチーかまはないってことか。
それで仕方なく、記憶をなくさない程度のビールをのんで、ツナ缶味のおさかなソーセージをもぐもぐと食べた、私はしがないチーかまLOSER。