2015年のラグビーボール

ある日、何かが僕たちの心を捉える。なんでもいい、些細なことだ。バラの蕾、失くした帽子、子供の頃に気に入っていたセーター、古いジーン・ピットニーのレコード…、もはやどこにも行き場所のないささやかなものたちの羅列だ。二日か三日ばかり、その何かは僕達の心を彷徨い、そしてもとの場所に戻っていく。…暗闇。僕達の心には幾つもの井戸が掘られている。そしてその井戸の上を鳥がよぎる
              村上春樹1973年のピンボール

何気なくスポーツを見ている時、何か些細なことが私の心をとらえて、そのスポーツが好きになったり、その人が好きになったり、なんとなくずっと印象に残ったりする。

友達のかえる姉さんは子供の頃から家族揃ってラグビーファンで、お正月といえばラグビーをみるのが当たり前だったそうだ。
そんなかえる姉さんに大学選手権に誘われたので、これは勉強しておかなければとテレビでラグビーを見始めて、天理贔屓の心持ちで、2012年1月の国立競技場に出かけた。だからあの時天理のキャプテンだった立川くんには思い入れがある。
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その後も毎年、大学ラグビーや、トップリーグを一緒に見に行くようになって、2015年は帝京と筑波の決勝を見に味の素スタジアムへ行った。どうせ帝京が勝つんだろうと思いながら、二人して気持は筑波贔屓で「あの、福岡くんって子がすごいんでしょ?」とか言って。

うっかり帝京側の応援席の方に座ってしまい、帝京の旗やらTシャツやらもらってしまったので、静かに帝京が圧倒的に優勢な試合を見守っていたけれど、福岡くんがボールを持って走った途端にかえる姉さんが興奮して私の太ももをバシバシ叩いた。
「何あの子!!すっごい早いんだけど!チョロチョロ!って鼠みたいに走って!」
確かに、広い味スタのバックスタンドにいる私達の反対側、メインスタンドの影が落ちたグラウンドをものすごいスピードで走る小さな水色のユニフォームは鼠みたいに見えたものだ。
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鼠、なんて失礼な言い方で申し訳ないけれど、でもあれ以来、地下鉄の駅で鼠が走っているのを見かけても「そう言えばあの時の福岡くんの走りときたら」と思い出してしまう。

2015年秋のワールドカップ以降、「すごく混んでるだろうなあ」と尻込みしてなかなか観戦に行けなかったが、先日のリポビタンDチャレンジカップで久々に味スタに行った。

あの時、味スタを走っていたユニフォームと同じ水色の靴なのね、福岡くん。


この猛烈ダッシュの11番。
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カメラのスポーツモード表示ピクトみたいな躍動感だな。



最近まで知らなかったが福岡くん、医学部を目指すほどに頭にいい方なんですってね。
ええー、素敵、こりゃあ女にモテるねえ、とかえる姉さんと笑ったけれど、きっといくつになってもどんなに立派になっても私たちにとっては「味スタの鼠みたいに早い子」なんだろう。

そんな思い出の井戸の上を鳥がよぎる。きっと何度も。

1973年のピンボール (講談社文庫)

1973年のピンボール (講談社文庫)