紫のバラのタコ


先日行った小江戸川越。何故だかうなぎも有名らしい。
カメレオンがどーんと鎮座する鰻屋。
今年はうなぎが値下がりするんですってね。
うなぎの価格がうなぎ登りだった数年前、母が得意げな顔で「うなぎって生態が全然わかってないから養殖が難しいんだって。海に出てった後、どこでどうしてるか全然わからないんだって」というので、この時代にまだ解明されていないことがあったのか、と驚いた。
しかも、宇宙の成り立ちとかじゃなくて、うなぎが!

まあ、ダイオウイカも謎らしいけど。

そしてタコも謎らしい。

タコの教科書

タコの教科書

以前も書いたけれど、スペイン在住のアメリカ人ジャーナリストが書いたこの「タコの教科書」という本が非常に面白い。
「タコをよく食べる国としてはやはり日本を挙げないわけにはいかないだろう」と述べる著者は、しかし日本へのライバル心メラメラである。それはタコをめぐる憎愛と呼べるほどだ。
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タコの養殖の難しさを述べる項には
「スペインは積極的にタコの養殖技術を公開しているのに、日本人は秘密にしている。スペイン人やメキシコ人の間では、日本人は本当は既に養殖に成功してるんじゃないかという噂がある。自分たちだけが養殖に成功すれば山ほど金を稼げるもんな」
というようなことが書いてある。
これだけでも、お前どれだけタコが大好きだよ、と驚きだが、タコの世界はさらなる驚きに満ちている。

この本によれば、タコの養殖を成功させたと明言できる国、それはメキシコだとのことだ。著者は幸運にも、卵から養殖されたタコが網にとらえられ、出荷される瞬間を見ることができたらしい。
そうか、それはそんなに幸運なのか…。
そして養殖プログラムを率いた50歳の海洋生物学者ロサスは胸を張って言うのだ。

これまでは、タコは忘れたころにぽつんぽつんと育ってくると育ってくるという感じでしかなかった。でも今後は計画通りに育てれば何万匹でも大丈夫だ。実に感激だよ。

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それなのに。嗚呼それなのに、それなのに。
タコ養殖、加工工場、レストランを併設する複合施設の建設にあたり、タコ養殖推進派と他の観光業者との間に悶着が発生。ようやく決着が着き、事業が現実味を帯びてきた矢先、1万3000匹のタコを育成中の建物が全焼。
「火をつけたのは、タコの養殖が成功するのを見たくない誰かであろうというのがおおかたの見方だ」との事。
…放火なのか。タコの養殖に反対するあまりの。タコとはそこまで人を激情に走らせるものか。
尚、このメキシコで養殖されているタコの名前はオクトパス・マヤ
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マヤ、おそろしい子…。
本の中で著者は折に触れて、このオクトパス・マヤがマダコに劣らぬ味わいであるにも関わらず、評価が低いことを嘆いており、「世界市場の多くはマダコに慣れているという理由でしかなくても、あくまでもマダコを要求する」と不満げだ。
著者のアツいマヤ推し。まるで紫のバラの人。
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あまりの情熱に気圧されて、心の片隅にずっとタコ養殖のことが残っていたので、今日こんなニュースを見て「おお!ついに!!」と図らずも感動してしまった。
ほら見ろ、紫のバラの人。ついに日本がやったぜ。お金のために今まで成功を隠してたんじゃないぜ!
そうか、日本水産がついにやったか。ついに…。
…別にタコ業界に詳しいわけでもないのだが、こんなにも胸をアツくさせるのは、ひとえにタコ業界の方々の情熱のせいだ。
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なんてことだ、この私がタコ養殖に感動だって?タコの種類も違いもわからない、まして触ることなどできない、この私が!

…タコって人を紫のバラの人にさせるものなのかしらね。