猫とばあちゃん

先週母からLINEが来て、「ばあちゃんが危ない、みんななるべく早く病院に行ってやってほしい、年は越せないと思う」と言うので、日曜日に病院に行ってきた。

みんなが拍子抜けするほど祖母は元気でよくしゃべったけど、案の定、私のことも弟のことも覚えておらず「ばあちゃんもう誰だかわかんないけど、みんな来てくれてありがとね」「孫ったって何人もいるからね」「あらー、あんた血縁なの~」とけらけら笑っていた。
笑っていていつもの勢いでしゃべってくれていてよかった。
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子供の頃、山下公園で遊覧船に乗せてもらったときも、「今からまめを上海に売りに行くよ」と面白そうに笑っていたばあちゃん。
きっとそんなことはすっかりさっぱり忘れてしまっているだろう。
なにせ「2ヶ月前のことなんてもうばあちゃん無理よ、91だからね、昨日のことだって覚えちゃいない」と豪語していたくらいだ。

それでも大事にしていた猫のずっちゃんのことはきちんと覚えていた。
孫のことは忘れても、ずっちゃんのことは忘れない。
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うちの猫たちの写真を見せたところ
「あら!これはいい猫ね。ちゃんと手をそろえてしっぽで巻いて礼儀正しい!ばあちゃんにはわかる。これはいい猫よ」と大層褒めていただいた。
そして私には「あなたどこの子かわかんないけど」と言い、撫ですぎて毛がつるつるになった猫のぬいぐるみを抱きしめていた。
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いつか私にもいろいろ忘れてしまう日がくるけれど、それでも陽気に笑っていられるかしら。猫のことは覚えているかしら。
今日は猫とケンカして口もきいていないんだけど、そんな日のことも思い出すかしら。
いいことばっかり思い出すかしら。

もう91だし、大往生よね。万が一年が越せなかったとしても最後に元気なときに会えてよかったわよね。
そんな風に話して、まあみんなそれなりにちょっと覚悟して別れた。
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これはこの夏、銀座のギャラリーで見たくまくら珠美さんの「雪男曼荼羅」という猫の絵。

ばあちゃんは天国に行ったらきっと、子供の時から可愛がってきたたくさんの猫たちと再会してこんな感じになるだろうな、と思う。
真ん中にのしっと座って、ずっちゃんを抱いて、やたらめったらしゃべっているんだろう。
そう思うと、もうこの絵の白猫がばあちゃんにしか見えなくなってくる。

まるで猫みたいで、猫が大好きで、猫のことだけはちゃんと覚えているばあちゃん。
それでいいよね。それで結構幸せだよね。

曲がり角ごとの驚き・27 ~知らぬが仏~

先日、田代まさしがまたしても覚醒剤でつかまったニュースを聞いてやるせない気持ちになった。ああ、麻薬って本人がどれだけやめたいと思っても抜け出せないものなんだなあ、と本当に怖かった。
アメリカ版シャーロック・ホームズの「ELEMENTARY」というドラマの中でも断薬中のホームズが何度も何度も薬の誘惑と戦っていて、再度薬に手を出してしまったりもしている。恐ろしい…。
そんな麻薬の恐ろしさを、人生で最初に教えてくれたのが横浜税関だった。

高校生の頃、初めて横浜税関で、麻薬の恐ろしさを語るビデオや拳銃密輸の痕跡などを見て以来、「横浜に遊びに行くんだー」などという者には片っ端から「横浜税関の資料展示室を見るように」と伝えている。恐ろしくて、そして「本当にこんな事が現実に起きているんだ」と驚く。
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これは中国人がコンテナを二重壁にして、隙間に覚醒剤を詰め込んできた様子を再現したもの。
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こっちは海賊版EZ DO DANCERCISE。
すごいな、海賊版ができるなんて売れ筋商品の証だ。やるなTRF。そして摘発する側もすごい。よく気が付くもんだ。私なら気が付かない。

以前友人タキコにも横浜税関を勧めたところ、行ってきたタキコは焼き鳥屋でアツく語る。「アンタあれよ、不審者見つけたらちゃんと電話せんといかん。電話番号はシロイクロイだから」
酔っ払った勢いもあって、何度も何度もシロイクロイを繰り返すタキコ。

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461-961は密輸の通報先。
税関には「不審者は深夜に岸壁からあがってくる!見かけたら通報を!」とのポスターが貼ってあったらしい。
平和ボケした私とタキコは「でもさあ、深夜に岸壁からって、ただ単に溺れた釣り人かもしれないじゃん」とゲラゲラ笑っていたが、近くにたまたま税関勤務の若者がおり、「いや、まめさん、マジであがってくるんスよ」と真顔で言うので驚愕した。
マジで来るらしい。密入国やら密輸やらの人が。本気で。深夜に岸壁から。怖い。
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去年の8月は自衛隊松島基地航空祭に行ってブルーインパルスなどを見てきた。友人が自衛隊勤務の方と知り合いだったので、事務所に案内してもらい自衛隊の方のお話も聞いた。あちこちに赴任して、徹夜で仕事したりすることもあるらしい。とにかく今は中国との海域の問題が大変だということを仰っていた。
平和ボケの私が「ああ、なんかニュースで小競り合い、みたいなこと言ってますよね」と言うと、自衛隊の方は若干イラっとした顔で「小競り合いなんて生ぬるいもんじゃない、本当にヤバいんだ。詳しくは言えないけどヤバいんだ」と言う。
そうなのか…そうだったのか…。
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先日いもこさん(id:xx_green-heuchera_xx)と横浜で遊んだ際、税関には行かなかったが(お薦めはした)赤レンガ倉庫付近を散策している際に北朝鮮工作船展示の建物を見つけた。
「何あれー!行ってみよう!」
またしても平和ボケの私は嬉々として中に入ったのだけれども、その展示のものものしさに衝撃を受けた。恥ずかしながら全く知らなかったのだが、2001年に「九州南西海域工作船事件」という事件があって、海上保安庁の巡視船が北朝鮮の不審船を追跡し、不審船は自爆沈没したのだそうだ。
その不審船と遺留品を引き上げて展示してあるもので、横浜に来る前は東京の船の科学館で展示されていたらしい。
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銃撃の穴なんかも空いている。
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シャープのポケコンや古いガラケー金日成のバッヂ、ボロいゴムボートや潜水具、無線機、トランジスタラジオ、鉄兜、そして武器類。
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私やいもこさんから見れば、「こんな昭和みたいなものばっかり持って…」という感じだったが案内板には「武器などを見るにかなり先進的な装備力」と書かれていた。…そうなのね。
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それにしても、こんな暗い船底で、自爆も覚悟の上で、なにかしらの使命感を持って真っ暗な海へ出ていくっていうのはどういう気持なんだろうか、どういう人生なんだろうか。
暗い気持ちになりながら考える。でもわからない。何のため?

それを知らずにいられること、そしてそんな事件が起こっていることを知らずにいられること、平和ボケをしていられることはなんて幸福なことなんだろうか。
その影で、誰かが暗い使命を帯びて、誰かがそれを必死で阻止して、誰かがどこかで死んで、ニュースで少し語られる。
それを遠い国のことのようにぼんやりと聞き流したり、ピっとチャンネルを変えてしまったり。

知る喜びもあり、知らずにいられる幸せもある。知らなきゃいけないこともあり、それでも知りたくないこともある。
たくさんある。

きのこねこのこ

この11月で、我が家に猫がやって来てからちょうど1年。

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去年
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今年
まるでみっちり詰まったいなり寿司みたいにご立派になられて…。
猫の名前は「どんこ」と「ポー」
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どんこさん
友達から送られてきたこの写真を見て「椎茸かぶったような頭だな」と思ったのが名前の由来だ。友人も「どんこかー、可愛いねえ」と言ってくれたので即決だった。
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どんこ、どんこ椎茸と出会う。

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こちらはポー
ねずみ色だったし「しめじ」でいいかと思ったが、どんこ椎茸に対してしめじじゃ格が違いすぎる…。どんこと遜色ないきのこと言えば…と悩む。
友人からは「きのこである必要があるのか」と鋭い指摘が入ったが、いや、だって相方がどんこだから…。きのこ好きとしてはやはり…。
フクロタケのふくちゃん?松茸?

…でもこの子洋風の顔立ちだよね、目も青いし貴族だよねー、と育ての親である友人は親バカを炸裂させる。
そう…きのこ界の貴族、それならポルチーニポルチーニ茸じゃない?「ポーの一族」のポーツネル伯爵の意味も兼ねて「ポー」で!
そんな風に決まったのだけど、なかなか人には言えないから「うん、ポーの一族から」とごまかしている。
本当はお前はポルチーニ茸なのだぞ。
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去年の今頃は、まだ小さなきのこ兄弟が心配で心配で毎日猛ダッシュで帰宅していたが、最近はちょっとくらい遅くなっても大丈夫。
雪も猛暑も雷も台風も経験してきた。

この前の台風、あちこちで大きな被害があったが、個人的に一番ショックだったのはホクトのエリンギが全滅したニュースだった。

なんてこと…。
あの、ちびまるこちゃんの花輪くんみたいなちょっとキザな感じのホクトのエリンギがやられただなんて…。
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暗い気持ちになったけれど、ともかくホクトを応援しようと生協でホクトのきのこセットを2週連続購入した。
エリンギは入っていないかと思っていたが、ちゃんと入ってきた。お前、生きてたのか!!
エリンギ、舞茸、ぶなしめじ霜降りひらたけのセット。無茶しやがって…とホクトが心配になる。
しかもレシピブックまで入っている。

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こんなやつ
裏面には星占いつきだ。結構普通の星占いだった。ラッキーきのことか書いて欲しい。そんなこと言ってる場合じゃないけど。

さらに驚くのはこれだ。まさかホクトがTOKYO FMにラジオ番組を持っているとは思わなかった。
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試しに聞いてみたところ長塚圭史がいい声で「霜降りひらたけ」とか言い出すのでトキめく。
番組のコンセプトはこちら。

『自分にyes!と言えるのは、自分だけです』
今週あなたは、自分を褒めてあげましたか?
古今東西の先人が「明日へのyes!」を勝ち取った命の闘いを知る事で、週末のひとときをプレミアムな時間に変えてください。
あなたの「yes!」のために。

yes!は高須クリニックだけじゃないのだ。
エリンギやられたホクトこそ「明日へのyes!」を勝ち取るために頑張ってほしい。

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しっぽ組もうぜ!
私、我が家のプレミアムキノコ、どんことポルチーニと一緒に心から応援しているから。

彗星

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小学生の頃、ハレー彗星がやって来るというので世間は大騒ぎだった。
ドラえもんハレー彗星の回があったのもあの頃だったんじゃないかと思う。
小学何年生とかコロコロコミックとか、そんなので読んだような気がする。
75年か76年周期でやって来るというあの彗星が次に現れるのは2061年らしい。
その頃私は85歳だな。ギリ生きてるかしら。死んでるかしら。

そうして久しぶりにやって来る彗星みたいに、小沢くんの新曲がやって来た。

小沢健二『彗星』MV Ozawa Kenji “Like a Comet”

高校生の頃、ラジオで繰り返し繰り返し流れた「今夜はブギー・バック」ですとーんと恋に落ちてから、ずっとずっと小沢くんが好きだった。
それでも、ひふみよの後くらいから「なんだか小沢くんも大人になっちゃったんだな」と思ったり、「私も大人になったんだな」とか「もういいかな」とか思った時期もあったんだけれども、久々に小沢くん!!な小沢くんの曲で、イントロから「ああ、小沢くんが帰ってきた」と思った。

そして時は2020
全力疾走してきたよね
1995年
冬は長くて寒くて
心凍えそうだったよね

そんな風に始まるから、高校の教室やラジオで「今夜はブギー・バック」を聞いていた頃のことを在々と思い出して、いろいろあったなあ、と感慨に耽る。
いろいろあって、大人になって、でも結局彗星のように戻ってきたり、変わらなかったり、やっぱり小沢くんが好きだ。

先週の金曜日はミュージックステーションに小沢くんが出るというので、チコちゃん見てからそわそわ待っていた。
Mステ待ち、なんて何年ぶり、いや何十年ぶりかしら。すっかり気分は高校生で、ジャニオタの同僚や小沢好きな友人に「Mステ見てる?」なんてLINEしたりする。
あの頃、LINEなんてなかったけど、電話したりFAXを使ったりキュンキュンしながら友達とユニコーンTMネットワーク岡村靖幸や小沢くんのこと、話してたなあ。

So kakkoii 宇宙

So kakkoii 宇宙

そして今日は小沢くんの新しいアルバムが届いた。
朝からずっと「今日届く」と心待ちにしていた。家に帰ってコートも脱がずにまず封筒をあけた。

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ちょっとバラバラになっちゃいそうな装丁だったのでジップロックに保管。
いやはや、CDアルバム1枚にこんなにトキめくなんてそれこそ高校生の頃みたい。

ずっと好きだったものは、その時間の分だけもっと好きになるな。
ずっと待っていたものは、その時間の分だけもっと嬉しくなるな。

彗星みたいにまた巡ってきた、あの頃のときめきだとか、好きな気持だとか、そんなことがものすごく幸せで嬉しい。
So Kakkoii
So Happy

どうもありがとう、小沢くん。

あの頃は


和田アキ子 ♪古い日記

小学校高学年の頃の担任の先生がなにかにつけて「あの頃は~ハッ!」と歌っていた。和田アキ子の歌らしいということは噂で知っていたが、曲名を知ったのは今日だ。曲の内容はいまだに知らない。「あの頃は~」しか知らないのだ。

それはさておき、あの頃は~…。
あの頃は、私は周りの子より大食いだったし早食いだった。
中学高校と大学社会人、女子たちはいかに少食に見せるか、ダイエットをするか、お弁当箱を小さくするかに躍起になっていたけれど、そんなこと露とも思わなかった。
誰しもだいたいそうであるように中学高校が食欲のピークで、食パン1斤平気で食べられたし、緑のたぬきをおやつにペロっと2つ食べて母に怒られた。社会人になってからも、社食のご飯は大概の女子が小ライスを選ぶところをいつも普通ライスだったので、食堂のおばちゃんに顔を覚えられていた。
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そんな訳でずっと自分は大食いだと思ってきたが、弟の弁当箱のサイズを見たとき、若い男子が居酒屋でものすごい量を注文するとき、法事のあとの精進落しで弟のお膳に親戚たちから分け与えられたご飯やおかずが山盛りになり、それらが綺麗に片付けられていくのを見たときなどに「あれ、私は全然大食いじゃないな」と衝撃を受けたものだった。
そして年齢とともにだんだん食べられなくなりだしたとき、ああ、もう私に老後がやってきたのだな、とさえ思った。

水曜日は、はてなのお友達くみちょうさん(id:Strawberry-parfait)とマミコさんに神保町の素敵なお店に連れて行ってもらった。
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ラグビーワールドカップ南アフリカが優勝したから南アフリカのワインがいいですよ」とか勝手なことを言って、南アフリカのワインを頼んでもらった。最近お酒もあまり飲めないので私は味見だけ。
鳥ハツを根菜と煮込んだやつとか、クミンシードの練り込まれたパンとか、パプリカパウダーがしこたま振られていて、アボガドディップで食べるフライドポテトとか、どれもとっても美味しかったが、すぐにお腹いっぱいになってしまい、くみちょうさんとマミコさんに「少食なの?」などと尋ねられる。
…いや、全然そんな予定ではなかったのですが、図らずも少食に。。。

繰り広げられるくみちょうさんの大食いエピソードなどものすごかった。
私は人生において今まで一度も、食べすぎで腹痛をおこして夜中に病院に駆け込んだことなどない。この人ホントに本気でフードファイト出れるんじゃないかな…とさえ思った。
はー、もう私はちょびっとしか食べれない、下手すればシウマイ弁当さえご飯を残してしまう可能性を抱えたおばあさんだよ…。
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土曜日はこれまたはてなのお友達いもこさん(id:xx_green-heuchera_xx)と崎陽軒のランチバイキングへ。
前日から、シウマイ弁当食べたいなーと思っていたけど「明日は崎陽軒だから」とガマンしていた。当日、体調もバッチリだ。横浜駅へ向かう道中で既におなかがすいていた。
おかげさまで、私、久々にたくさん食べることができた。いもこさんの2倍はゆうに食べたと思う。
久々に言われた。「まだ食べられるの?すごいね」
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シウマイも20個くらい食べた。デザートももちろんたくさん食べた。
ああ、私まだこんなに食べられるんだ、まだいける、まだ全然大丈夫。謎の希望が胸に満ち溢れる。

以前、谷川俊太郎の講演会に行ったとき、谷川俊太郎が言っていた。
「僕くらいの老人になると、朝目が覚めて、体中どこも痛くない日がそんなにない。どこも痛くないというだけで幸せです」
そうなのか…としみじみ聞いていたが、今その気持をなんとなく理解する。たくさん食べられる日があるというだけで幸せです。
生きる希望が湧いてくる。まだ頑張れるな、と思う。

まあ、その後、たくさん歩きまわってもお腹もすかなかったし、夕ご飯も食べなかったけども。
あの頃は、あの頃なら、きっとまだパフェなんかも食べれたのかもしれない。
胃腸の強靭さも遥か遠くになりにけり。

イノセント・ワールド

ついに、ついに終わってしまったラグビーワールドカップ
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11/1、3位決定戦の日は有給をとった。臨港パークのファンゾーンへ向かう途中、ランドマークプラザで「決勝まであと1日」のサインボードを見て、しみじみしてしまい写真を撮った。ラグビーボールをポンポン放り投げながら歩く、ウェールズファンのお兄さんたちも「あと1日だぜ?」と言って写真を撮っていた。

決勝の日は気持ちよく晴れた。
いつもは市営地下鉄の新横浜駅から一番スタジアムに近い出口を出てしまっていたのだけれど、JR新横浜駅が決勝に向けて気合を入れているというので、この日は新幹線口の方へ。
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新幹線口は既に大声で歌う大男たちに占拠されていた。
イングランドの白いジャージの方がちょっと多い。
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日本人のハチマキ率はほぼゼロなのに、外国人たちは「それはレプリカジャージの一環なの?」と思うくらいみんなハチマキを締めていた。「日本」だの「必勝」だの「闘魂」だの「合格」だの。
スタジアムへ向かう道筋のパブは全て外国人で埋まっていて中華料理屋まで乗っ取られている。どの店先でもビール片手のイングランド人たちがSwing Low, Sweet Chariotを歌っている。
中にはコンビニで瓶ビールを仕入れてくるツワモノもいた。アサヒ中瓶をさ、そんな普通に瓶ハイネケンみたいに4本も抱えて持ってきて、直で飲む?まあ500ccだからロング缶みたいなものかもしれないけどさ…。
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この派手なスーツ軍団はフランス人で、帰り道は大声でラ・マルセイエーズを歌いながら歩いていた。
今日で最後だから、スタジアム前のいろんなイベントも見て回って、フェイスペイントをしてもらったり読売新聞の号外フレームで写真をとってもらったり。
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このお祭りも今日で終わっちゃうんだね。夏休みが終わるときみたいに切ないよ、とかえる姉さんが言う。本当に同じ気持ち。
きっとみんな同じような気持ちなんだろう。こうやって、眼下の人の波をずっと見つめている人たちがたくさんいた。
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夕焼けが綺麗だからまた切なくなるし、三日月が綺麗でも切なくなる。

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FINALの華やかな入場ゲートにだって。

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ハーフタイムのゲストはリーチ・マイケル、ダン・カーター、リッチー・マコウ。

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リッチー・マコウは最後にリーチの運転するランドローバーでウェブエリスカップも運んできた。

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南アフリカ、本当に優勝おめでとう。
前半のイングランドの激しい攻撃をギリギリのところで防ぎきったディフェンス力、すごかった。コルビのトライ、かっこよかった。スクラムがすごく強くて「え、日本て相当頑張ってたんじゃない!?」なんて再確認した。

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帰ったら本当に終わっちゃうから、帰りたくないなあ、と思いながらいつまでもグラウンドを見つめ続けていた。

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そしてまた、人の波を見下ろしながら、かえる姉さんと「みんな帰らないでずっと日本にいて、まだ試合やってくれたらいいのにね」なんて話をする。
今日村上晃一さんのコラムを読んだのだけれど、冒頭の「よく泣いた。よく笑った。嬉しくてガッツポーズした。思わず頭を抱えた。みんなが素直に感情を表現したラグビーワールドカップ2019だった。」という文章に「本当にそうだったなあ」としみじみ共感した。

素直だったし、イノセントだった。どうしてあんなに無邪気に楽しかったんだろうか、となんだか不思議な気持ちになる。
日本が負けた試合の後だって、全然がっかりなんかしなかった。
「日本はよく頑張ってたね」「南アフリカすごかったね」「来週はニュージーランドだね」とワクワクしながら帰った。ただただ楽しかった。
普段なら斜に構えたりもするけど。

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あれはどうしてだったんだろう。一生に一度だから?
野球を見るときとも相撲を見るときともちょっと違う。箱根駅伝高校野球に胸を打たれるような、どこか悲壮感のある感動ともまた違う。
夢みたいだったし、ただ子供みたいに何もかも楽しかった。

終わる前に心配していた、がらんとした気持ちじゃなくて、今はなんだか過ぎ去った青春を惜しむような気持ちでいる。
ただ、ひとつわかったのは「大人の階段を登ってもまた降りることができて、そして無邪気な世界を楽しむこともできる」っていうこと。

またどこかで会えるといいな イノセント・ワールド

innocent world

innocent world

日はまた昇る

七月六日、日曜日の正午、フィエスタが爆発した。そう表現する以外、形容のしようがない。
(中略)
フィエスタはいよいよ本番だった。それは七日間、昼も夜もぶっ通しで続くのだ。路上のダンスもつづき、酒もつづき、喧騒もやむことがない。その間に起こることは、フィエスタだからこそ起こることばかり。ついには何もかも現実とは思えなくなり、辻褄の合うことなど何もないように思えてきてしまう。だいたい、フィエスタの最中に辻褄合わせのことを考えたりするなど、場違いなのだ。
    アーネスト・ヘミングウェイ日はまた昇る

日はまた昇る (新潮文庫)

日はまた昇る (新潮文庫)

今回のラグビーワールドカップが私にとってこんな感じだ。9/20に爆発したのだ。
それからはずーーーーーっとラグビーの日々だ。
正直日本がこんなに頑張るとは思っていなかった。始まる前は日本よりも海外チームのプレーを楽しみにしていた。アイルランドには負けると思っていたし、スコットランドにだって危ないと思っていた。決勝トーナメント進出なんて夢みたいだった。
準々決勝の南ア戦はリセールもチャレンジしたけれど、やっぱりチケットはとれなくて、横浜のファンゾーンで観戦。19:45キックオフなのに、14時着で、もうファンゾーンも満員だった。ギリギリ座るところを見つけられてよかった。
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延々と試合開始を待つ間、かえる姉さんと二人、「だんだんワールドカップが終わりに近づいてしまうことが寂しい」なんて話をした。
試合のない平日、録画したまま見ていなかった開会式を見ると「ああ、あの日にもう一度戻りたい、もう一度初めからワールドカップを楽しみたい」と思ってしまう。
「そうねー、もっと戻れるなら1年半前、チケット買うところに戻って、もうお金に糸目をつけずに準々決勝も準決勝も全部買っておきたかったねー」なんてかえる姉さんも笑う。
夏休みが終わりに近づいた夕方みたいな切ない気持ちと、ここからがものすごく楽しいんだ!っていうワクワクする気持ち。

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予選NZ戦前、ウォーミングアップ中のデクラーク
試合開始が遅かったので、翌日ヘロヘロで行った会社で、同僚たちに「日本負けちゃったね、残念だったね」と言われたけれど、残念という気持ちはあまりなくて「本当によくやった、お疲れ様」という気持ちだった。
これで残り試合はいろいろ心配したり息が止まったりしないで、ちょっと安心して純粋に楽しめる…という気持ちもあった。

昨日はまた横浜のファンゾーンでイングランド×ニュージーランドを見た。日本が負けたから結構空いてるだろうなと思いきや、割と満席でびっくり。
オールブラックスファンが多くて、なぜか後ろに座っていたアイルランド人軍団もオールブラックスの応援だった。オールブラックスに負けたから、優勝してほしかったんだろうか。
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ハカを見守る陣形も、オーウェン・ファレルもメチャメチャカッコよかったイングランド。すごくレベルの高い、いい試合だった。
よく晴れて、みなとみらいの夜景がキラキラと海に光るのを眺めての帰り道、「ねえ、4年に一度じゃ長くない?2年に1回やってほしいんだけど…」とかえる姉さんが言う。ホントね。
今日はさすがにファンゾーンには行かず、お家観戦。
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寒くなってきてイチャイチャ度の増した猫を横目に洗濯したり掃除したり、明日のお弁当の準備したり。そうして18時のキックオフに備える。聞けば、かえる姉さんも同じようにバタバタしてたそうだ。だよねー。
かえる姉さんの会社にはウェールズの熱狂的なファンがいるらしく、今日もリセールでチケットを買って見に行っているらしい。
ハーフタイムにかえる姉さんに「ウェールズの魅力がちょっと謎だけど、気合入ってるね」とLINEしたら「うん、ウェールズ謎だよね…」との返事だったので安心した。

さあ、これでいよいよ決勝の組み合わせが決まった。イングランド×南アフリカ。チケットは買ってある。デクラークとファレルを目に焼き付けて来よう。
その前に3位決定戦の日は有給をとってファンゾーンでニュージーランド×ウェールズ戦を見るつもり。
楽しみな気持ちが半分…いや3割かな…。これで終わってしまうんだ…という気持ちの方が強い。
一生に一度のワールドカップがもうすぐ終わってしまうんだ…。

祭りが終わる、がらんとした気持ちになるのが怖くて、「日はまた昇る」の最後を読み返して予習したりしている。
日はまた昇り、また入る。きっとこの祭りが終わっても、また楽しいことがある。
「面白いじゃないか。そう想像するだけで」
そんな風に強がるんだけども。