何を見ても何かを思い出す

「とにかく、素晴らしいストーリーだ。ずいぶん昔に読んだ小説を思い出したよ」
「きっと、何を読んだり見たりしても、何かを思い出すんじゃない、パパは」

蝶々と戦車・何を見ても何かを思いだす: ヘミングウェイ全短編〈3〉 (新潮文庫)

蝶々と戦車・何を見ても何かを思いだす: ヘミングウェイ全短編〈3〉 (新潮文庫)

ゴールデンウィーク
予定通りなら今頃はマルタ島にいるはずであった。猫が来る前の予定通りなら。
せっかくの10連休だから、ヨーロッパへ行こうと思っていた。街中よりもリゾートっぽいところ。治安もいいというマルタ島で岩合さんの猫歩きみたいに、猫を追いかけてぶらぶら街を歩いて、木陰でヘミングウェイなんか読んで、のんびり過ごそうと思っていた。
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大体、理想的な旅行ってそういうものだ。ここよりも暖かい場所で、太陽の下をのんびり歩く。行きたい場所もあるけど何の予定もない日もある。木陰や海辺で本を読んで、昼寝をしたり、カフェでビールを飲んだり、猫をなでたり。
そんな風にすごすはずだったが、家にいる。

そして、図らずもそんな風に過ごしている。
なんの予定もなく、のんびりと。猫をベランダに放して日向ぼっこをしながら本を読んで、お茶を飲んで。
すこし肌寒くても曇っても、猫はいつでも日向の石畳の匂い。存在が既にヨーロッパ。
そして、極めつけに、スーパー銭湯という名のエデンの園が、私にはあるのだ。

それは南国のような温かさと湿度にあふれる場所。休憩ラウンジで人々の喧騒を遠くに聞きながらヘミングウェイを読めばそこはもうリゾート。
スパリゾートハワイアンはこの時期混みあっているかもしれないが、地元の地味なスーパー銭湯はかえって空いている。
…そうか、何ものんびりと本をを読むために何時間も飛行機に乗る必要はなかったのか。歩いて行ける場所に楽園はあったのだ。
読書につかれたなら風呂に入ればいい、昼寝をするのもいい。恐ろしいほどいくらでも眠ることができる。ビールを飲みたくなれば、お食事処に行けばいい、エステがご希望ならもちろんある。
…完璧ではないか…!!

旅行をとりやめたのは、猫を預ける費用、現地でかかる費用、そして何をしていても、マルタで猫に出会っても、家の猫を思い出してしまうであろう、ということが決め手だった。
今、家にいて、この選択は間違いではなかった、としみじみ実感している。

結局のところ、私はのんびりと好きに自由にすごせる時間が欲しかっただけなのだ。
のんびりしていないとなかなか読み始めることのできない「海流の中の島々」を読もう、と思えるだけの余裕が欲しかっただけなのだ。
どこにいても何を見ても、結局はのんびりする時間があれば良いだけなのだ。気持ちがのんびりしているだけで、旅先の風景もいつもの風景も、忙しない日々に見るより美しく映る。
通勤途中に読む本よりも、海辺や陽だまりの公園で読む本は違った印象を持つ。2日間しかない週末にぼーっと食べる朝食よりも10日ある休みの朝に食べる朝食の方が鮮やかに思える。雨を眺める午後さえいいものだ。
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そんなわけで、マルタ島に行くよりもスケールは小さいかもしれないが家で楽しくリゾート気分を満喫している。
馴染みの猫をなでて、なんだかもうどこにも行かなくていいような気分にさえなりながら。
この気候のいい5月に10日間も連休をくれるなんて、天皇陛下、どうもありがとう。

Yの悲劇

https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/92637/2637814/index.html
先日、NHKガンダム誕生秘話のドキュメンタリーを見たら、ファーストガンダムが見たくなってしまい、ここ最近の私は毎朝電車の中でガンダムを見ながら出勤している。きっと周りの人には心の中で「ガンダムさん」などと呼ばれているだろう。いいですよ、別に。

久々にファーストガンダムを見ると色々設定も気になるし、何より「当時の世の中の風潮」に驚く。
ブライトさんはアムロを殴りつけた後、高らかに言う。
「殴られずに一人前になった者などいない!」
フラウボゥもセイラさんも平気で「それでも男なのか」と問いかけるし、アムロは「そうか、僕は男なんだな」と無理矢理自分を納得させて戦場に出なければならない。
おまけにガンダムしか頼れない状況ばかりなので、必然的にオーバーワークで、休ませてももらえない。
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…これ、今の時代、完全にアウトなやつじゃんか…。暴力肯定、過重労働の強制、ジェンダーバイアス。…そういうの全部当たり前の時代だったよなあ、そういえば。
男だから、女だから、そういう価値観の押しつけはやっぱりおかしいと思うし、反発もしてきた。
だが、それでも「男って…」と思うこともよくある。主に、弟や猫の行動を見てるとき。

年の離れた弟二人は子供の頃、よく奇妙な遊びをしていた。急流に流されて離れ離れになる親子の設定で、一人はスケボーに腹ばいになって「お母さーん!お母さーん!」と叫びながら遠ざかっていく。もう一人は襖の敷居から手を必死に伸ばして「こどもー!こどもー!」と叫ぶ。
飽きもせず繰り返されるその悲劇を、私と母は「あいつらは何をしているのか」と真顔で見つめてきた。

そして今、うちの男子猫二人が同じような遊びをする。
風呂の扉の内側から一匹がドコドコと扉を叩く。それに応えてもう一匹が外からドコドコ叩く。はて、アフリカンミュージック?…と思いながら風呂場に向かうと、猫が二匹、そのようにして嘆きの壁ごっこをしていた。その他にもケージの内と外、カーテンの内と外、ベッドの上と下など、二手に分かれてそれぞれの役割をこなして遊んでいる。
また、風呂のシャワーを出すと、華厳の滝のように見上げながら「俺はこんなに近くに寄れるぜ?」「俺なんてもっと!水とか怖くねえし!」というチキンレースを始めたりもする。
男という生き物は、種を問わず同じことをするのだな…と、感慨深く見つめる。
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吉田秋生海街Diary」3巻より。
うちの男子たちのY染色体にはきっと「生き別れごっこ」と書き込まれている。


さて、育ち盛りの男二人は人間でも猫でも暴れん坊なものなので、帰宅すると毎日何かしらの事件が起きている。
米袋が凌辱されていたり、トースターが引き倒されて床に落ちていたり、豆乳パックが食い破られていたり、土鍋が割られたり、猫おもちゃがバラバラ殺人の刑に処されていたり。
それらを猫飼い先輩の友人に報告するとこう言われる。
「やっぱ男子はちがうねえ。うちは女の子だから」「うちはそんなことしないよ?男子は活発だねえ」「性差があるんだねえ」

…そうなの…男だからなの?
そっかー…と納得することも、「ああ、ああ、そうですか!女子はいいですね!おとなしくて!」と思ってしまうこともある。
これはアレだ、完全に人間の子育てと同じだ。「男の子のお母さんあるある」だ。男児を持つ同僚も前に同じようなこと言っていたもの…。
そんな訳で最近、別に子持ちでもないのに「男子の母あるある」みたいな記事が好き。

男だから、女だから、どうだこうだっていう時代じゃないけど、やっぱり行動の違いはある。

うちの男子は向こう見ずな暴れん坊。生き別れごっこが大好きで、しょっちゅう喧嘩もする。「俺なんか超強いよ!」「俺、最強だぜ!」と強いアピールも欠かさない。掃除機にだってシャワーにだって果敢に挑む。ご飯の盗み食いもするし、いっちょ前に立ちションもする。暴れて物を壊した時の逃げ足は天下一品。怒られそうになればベッドの下から出てこない。甘えるときは力いっぱい。時々神経質、基本的にアホの塊。

…でも、アホな子ほど可愛いっていうから…実際可愛いから…。だからしょうがない。
時々疲れるけどしょうがない。女子を羨む時もあるけどしょうがない。
さて、大食い男子のご飯の用意でもするかね。

TERIYAKI

長らく一人暮らしをしているので、自炊はするし、毎日会社に弁当も持って行っている。
そう言うと誰も彼もが「えら~い」とか「女子力」だとか「マメ」だとか言い出すけど、そういう定型文いらんのじゃ。
一日のメインを弁当にして、弁当のために料理をし、残り物を家で食べれば弁当生活もそんなに大変なことでもない。むしろ昼休みに混みあった社食やコンビニやお店に行くほうがよっぽど面倒でマメだな、と思う。
自炊だって、面倒な料理を作るわけでも新しい料理に挑戦することもなく、自分の乏しいレシピで大雑把なものを大量に作り毎日食べているだけだ。
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きのう何食べた?」のシロさんみたいに食費のやりくりに充実感を見出すわけでもないし、佳代子さんみたいに料理で気持ちがリセットされるほど料理好きなわけでもない。

だけど料理マンガやレシピ本、料理家のエッセイやお弁当ブログを読むのは好きだ。
スポーツ観戦と同じで「見てるだけ」なのがいいんだろう。
人の弁当を見るのも好きだ。

これはシンガポール動物園でショーを待っている間にお弁当食べてたご家族。アイスクリームの容器を活用しているのがいい。そうだよね、そういうの捨てないで使うよね、わかる。

スペインでは、観光バスに乗ったら前に座っていた西洋の青年がおもむろにリュックからぬか漬けでも漬けられそうなでっかいタッパーをとりだし、中にザラザラとつまったシリアルをガバッと手づかみで食べ始めたことがあった。
…それが君の弁当なのか…と驚いた。別にいいんだけど、余計なお世話だけどジップロックフリーザバッグを使えばかさばらないですよ…。心の中でそう呼びかけたが、まあ、彼にしてみればシリアルを絶対に割りたくなかったのかもしれない。
さて、4月からNHKで「BENTO EXPO」という新番組が始まった。NHK WORLDで海外向けに放送している番組を日本用にリメイクした番組のようで、世界の人たちのお弁当が見れるというので早速録画してみた。
ともかく外国人は見た目のインパクトに超こだわるな、というのが印象だった。イタリアントマトをカービングでロブスターに作り上げ、ご飯の上にどかんと乗せる。…すごい…。
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もちろんレシピも紹介してくれる。海外向けなので、英語でやってるものの吹替だ。
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これはそぼろを作るための材料。左上のウスターソースのようなものはなんと照り焼きソース。海外で人気の弁当作家マキさんは「市販の照り焼きソースを使えばそぼろもとっても簡単~!10分でできちゃうよ!」などと外国の通販番組のような笑顔で言う。
市販のテリヤキソース!市販のテリヤキソース!!TERIYAKIソース!
…海外ではそんなものが売られていたのか…。
驚いた勢いのまま、輸入食品業に就いているお料理好きの友人に「ねえ、テリヤキソースが海外で売ってるらしいんだけど、日本には売ってないよね?」と聞いたところ、「焼き鳥のタレは売ってた気がするけど、照り焼きはないんじゃない?」とのこと。
「ずるくない?海外だけこんな便利なもの使えるなんて!あなた輸入しなよ!輸入してよ!!」と懇願したが、キッコーマンがちゃーーーーーんと日本でも売ってた!
…し、し、知らなかった…。全くもって知らなかった。
こんな便利な商品が売られていたことを。
お料理上手の人たちが「照り焼きなんて簡単だよー」「砂糖と醤油とみりんだけ」とドヤ顔で言うのを、いつも少し妬ましく思って生きてきた。
なにせ冒頭で述べた通り、料理が好きなわけでもないし、全くもって得意でもないのだ。
鬼門は粉と照り焼き。
ああ、いやだ、いやだ。粉をはたくとか片栗粉をまぶす、とかもうそれだけでイヤ。材料に粉の文字があるだけで難易度は10倍くらいに跳ね上がる。白い粉、ダメ、絶対。
そして照り焼き。憧れはあった。
何度かチャレンジはしたけれど、どうもうまく照りが出ない。みりんを使わないとダメなのか、と普段は使いもしないみりんを買ってはみたものの、なんというかテリテリしてなかった…ぐったりしてた。食べたけど。
でも、世の中にはテリヤキソースが売られているのだ。キッコーマンからもエバラからも、ハインツからもオタフクからも!
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…なぜあんな無駄な時間を…。そして無駄な出費を…。お高いみりんなんて買う必要なかったのだ…。
テリヤキソース万歳!これで何でもテリッテリにしてやるぜ!照り焼きコンプレックス解消だぜ。
ありがとう、キッコーマン。ありがとう、エバラ、オタフク、ハインツ。
おかげさまでこれからの人生、上を向いて歩いて行ける。

Sukiyaki Kyu Sakamoto FULL SONG ReEdit STEREO ReMix HiQ Hybrid JARichardsFilm 720p

水の都

うちの母は人にあれこれ口出しするのが好きなタイプで、そこかしこに余計な首を突っ込むが、受け入れられないことも多く、時に怒り、時にため息をつき、そして時には芝居がかった口調で、こんなことを言う。
「もういいわ。馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできないものね。」
知らなかったがイギリスの諺だったらしい。
You can take a horse to the water, but you can't make him drink.
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他人にヒントやチャンスを与えることはできても、その実行を強制することはできない、との意。
おかげで私も、職場で誰かが営業相手に「せっかく親切で言ったのに!」と腹を立てていたりすると、かの諺を口にするようになってしまった。
まあ、大概ぽかんとされて終わりですよ。
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さて、こちらが我が家の、ご飯を盗み食いする悪い猫。トースターも引きずり倒す悪い猫。そして下部尿路も悪い猫。
おしっこがキラキラしていたので病院につれて行ったあの日、先生は言いました。
「水分をたくさんとらせるようにしないといけない」
でもうちの子、水は割とよく飲むほうです…と答える私を遮って先生は「もっと必要だからウェットフードの量を増やして。水が流れるタイプの水飲み器なんかも使って工夫して」とおっしゃる。
水が流れるタイプの…あれか!

うーん、アレね。こんなパステルカラーのプラスチックを家に置きたくない…。あと電源が必要なのもイヤ。自分で水もよく飲むから大丈夫…と思っていたが。
いざ、帰宅して猫の水飲み具合を観察すると、なんだかあまり飲んでいないような気がする。おかしい。だってこないだまで、風呂場の水もなめてたし、洗面所についてきて水を飲んだりもしてたでしょう?
気にしていない時は水を飲んでいるように見えたのに、気にし始めると飲んでいない気がしてくる。脳裏をあの諺がよぎる。
馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない
…猫も、なのか…。
どうしたものかとあれこれ調べると、やはり皆さん苦労されているようだ。やれ、お皿を変えるといい、このタイプの水飲み器がいい、湯冷ましの水、冷たい水、お湯などいろいろ用意するといい、など。
そんな中でAmazonさんが私に不思議な商品を薦めてきた。
ヘルスウォーター ボウル M

ヘルスウォーター ボウル M

なんでも「2億8千万年前の地層から産出した、天然希土類元素の成分を含んだ鉱物とバイオセラミックスを焼成して作られた人工機能石を素材に、約1100度の高温で焼成した陶器」だと言う。
ユーザーレビューもすごい。「この器からしか水を飲まない」「半信半疑で買いましたが、本当によく飲みます」「騙されたと思って買ったが期待以上!」
なんだこの胡散臭い健康食品みたいなレビューは!…と最初は笑ってやりすごした。
だが、いろいろ猫の水問題を考えるうちに、私の中で作戦が決まった。その名も、「オペレーション水の都」
ともかくあちこちに水を置き、この家を猫にとって水の都にしてやる。ヴェネツィアだ!!溺れるほどに水を飲むがいい。
そんなわけであの胡散臭いボウルも買ってみた。
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思ったよりも大きく重く、裏には誇らしげに彫ってある。「MADE IN JAPAN」
まるで開港当時の横浜から世界に向けて輸出された商品のような武骨さだ。
同梱の説明書の文章もなかなか良かった。
伴侶動物の様子の変化に喜びの声をいただいています」
「すぐに使ってくれなくても様子を見ながらご使用ください」
部屋の隅にこのボウル、ご飯置き場に水飲み二つ、洗面所に一つ、台所の隅に一つ、あちこちに水を置いて猫たちに「水を飲むのだよ」とよくよく言い聞かせて様子を伺う。
その日こそ飲んでくれなかったが翌日。
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明るさの都合でパステルカラーに見えるけど、この器は抹茶色。

飲んでる!!
言い聞かせたのが効いたのか、洗面所のジップロックコンテナからも、そして台所の隅の釜めしの釜からも。
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2億8千万年前の土のボウルには悪いが、私が見る限り、猫たちの一番のお気に入りは釜めしの釜のように思う。
何はともあれ、飲んでくれるならそれでいい。

馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない。猫もそう。
だが、それならばここを水の都にして、水を飲むチャンスを増やしてやればいいのだな!チャンスを増やして「信じ、待ち、許す」のだ。
まるで荒廃した学園の立て直しに成功した教師のような心持になってくる。
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そう、山下真司だ。スクール☆ウォーズだ。
「お前たち!よく水を飲んだ!!」「俺はお前たちを信じている!」
そんなアツい気持ちで猫に話しかけたり、撫でたりしている。この水の都で。
…別に春先だから頭がおかしくなってるんじゃなくて。

風に吹かれて

若さというのは傲慢なもので、母から「子供の頃は木の冷蔵庫を使っていた。冷却用の氷を買いによくおつかいに行かされた。流し台は石だった」という思い出話を聞かされた時には「木!石!!…なに?この人石器時代の人なの?」と思ったものだ。
しかし、平成も終わろうという今、自分の来し方を振り返って「あの頃は携帯電話なんてなかった」と言えば、今の若い人には「は?じゃあどうやって連絡とってたの?法螺貝?狼煙?」とでも言われるであろう。
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春分の日はとてもよく晴れた気持ちのいい日だった。
あの日はCSの日本映画専門チャンネルで朝10:40からずっと「愛という名のもとに」の一挙放送をやっていた。
そう、そしてあの日は風に吹かれて過ぎていった。
見てしまったのだ。延々と。12話。ざっと9時間。

愛という名のもとに DVD-BOX

愛という名のもとに DVD-BOX

1992年のドラマで、あの頃私は高校生。正直ほとんどリアルタイムでは見ていなかったので、きちんと見るのはこれが初めてだった。
まあ驚いた。唐沢寿明の若さにも、いきなり「風に吹かれて」をみんなで暗唱しだすことにも、卒論が手書きなことにも。
ワープロくらいあったよね?あの時代だって。そんなに…そんなに大昔?
もちろん携帯電話なんてない。唯一それっぽいのは代議士の息子である唐沢寿明が乗る車に搭載された車載電話だ。
みんな家の電話しかないのにすぐに連絡がつく。どうしてみんなそんなに家にいるの?いられるの?
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1986年に放送された倉本聰の「ライスカレー」を久々に見たときにも「なんでみんな人の職場に勝手に電話したり、仕事中に人の職場にふらっとやってきたりするの?」と驚いた。
だが、それは1992年の「愛という名のもとに」でも同じで、職場に私用電話がかかってくる。そしてそれは平気で取り次がれるし、挙句電話の内容によってはそのまま職場を飛び出してしまう。
…そんなことがまだ許されていたのか…。バブルも崩壊した時代に。
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何より驚くのはたばこで、今だったら苦情がくるほどにバンバンたばこを吸う。人の家に行ってさえ、すぐに煙草に火をつける。当たり前のように。
そして江口洋介自動販売機で煙草を買うシーンも出てくる。ああ、懐かしのあの!誰でも買えた自動販売機!
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早稲田と青学のミックス色ジャージの大学、大学最後のレガッタで優勝した面々の卒業して3年後の物語。
職業は左の江口洋介から順に、無職、代議士の秘書、教師、デパートの店員、区役所の窓口、モデル、証券会社の営業マンだ。
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野島伸司セント・エルモス・ファイアーにインスパイアされて書いた脚本とのことで、モデル役は髪型もデミ・ムーア意識。不倫の愛に苦しんで1話目から自殺未遂。不倫相手が森本レオで、その狡さがもうやたら生々しい。森本レオ、リアルでもあんなだったんだろうか、と思ってしまう。
ふぞろいな秘密

ふぞろいな秘密

嫁入り前の娘は実家暮らしが当たり前で、一夜の過ちがあれば「責任だ」「結婚だ」と大事になる時代。
そして答えは風の中、といった感じでドラマも終わる。

どれだけ歩けば人として認めてもらえるのだろう?
いくつの海を越えたら白い鳩は砂地で安らげるのか?
友よ、 その答えは風に吹かれている。
答えは風に吹かれている

神宮外苑イチョウ並木の下、これをみんなで暗唱して。
死んでしまった仲間も一緒に。

ああ、そんな時代であったか…。平成4年とは。
あの頃私は高校の教室で世界史の先生から「人生の答えを他人に求めてはいけない、求めると変な宗教に走り出す」などと教わっていたっけね。
そう、答えは風に吹かれているのだから。

風に吹かれて1日が終わり、風に吹かれて平成も終わる。
すごい速さで物事が変わっても、時代がいくつも変わっても、答えはいつも風に吹かれて。


Bob Dylan - Blowin' in the Wind (Audio)

どういう神経

二月二十七日

黄色い水仙のアップリケはきれいだな
と書いてある手紙を読んで
何を言いたいのか分からないと言うのは
どういう神経か分からない
            谷川俊太郎 「詩めくり」

やっぱり谷川俊太郎は天才だな。
私もこれくらい堂々と言いたいものだ。
ジップロックコンテナは便利だな
 と書いてあるブログを読んで
 何を言いたいのか分からないと言うのは
 どういう神経か分からない」
なんて。

きらきら光ったらあぶないよ、とは猫をひきとる前から友人に言われていた。そんなのわかるかしら、と不安げに言うと、友人は「すぐにわかるよ」と言った。
そしてある日、きらきら光るものを見つけたのだ。おしっこシートの上に。それはまるで味の素のような小さな結晶。
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…ついに来たか…来てしまったか。きらきら光る結晶を前に、目の前が暗くなった。
このきらきら光る憎いやつの名はストルバイト。猫の尿結石だ。人間と同じで男子のほうがかかりやすい。

職場の猫飼い先輩オスカルさん(仮名:ご主人はフランス人)のスコティッシュくんも尿疾患があるという。それで「キラキラしてた…」と告げると「あああ!でも早期発見なら薬で治るから!ひどくなるとトイレで動かなくなる。そうすると病院代は1回で2万5千円」とのお話をいただいた。
ヤバい、これはすぐさま病院に連れて行かなければ。
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ねこまき「ねことじいちゃん (メディアファクトリーのコミックエッセイ)」より

しかし。そこでハタと考える。人間なら病院に行ってから紙コップに採尿すればいいが、猫はそうそう都合よくおしっこしてくれないだろう。おしっこを持っていかなければ診断してもらえないのでは?二匹いるのをわけてそれぞれ採尿できるだろうか・・・。
不安に駆られ動物病院に電話で問い合わせたところ、採尿していくと早いが、そうでなくても大丈夫だとのこと。しかし、オスカルさんは「採尿していかない場合、尿道に管を入れられるので、痛そうで可哀想」だと言う。
そうなのか。ただでさえ2月に去勢してタマをとったばかりのデリケートなヤングボーイズだ。管を入れられるなんて私だって震え上がるほど嫌だものな。それなら採尿しよう、頑張ろう。
システムトイレはこんな時のために、おしっこシートをひかずにおれば、下の容器におしっこが溜まり、回収できるという構造になっている。
その夜の私は、徹夜してもかまわぬほどの覚悟で、常にトイレをチェックし、おしっこはまだかー、おしっこしないのかー、と猫の様子を伺っていた。
そして採取できたのがこれだ。

使用したのはジップロックコンテナの130ml。絶対にまちがって食品に使用しないよう油性ペンで印を書いた。


そして翌朝まで冷蔵庫に保管。

人は言うだろう。冷蔵庫に猫のおしっこを入れるなんてどういう神経?
ジップロックをおしっこ保管に使うなんて、どういう神経?
それらの雑音に対して、私も谷川俊太郎のように堂々と言いたいのだ。
ジップロックコンテナは便利だな!!!!
翌朝はこれら二つのコンテナをさらにジップロックフリーザバッグに入れて病院に持参した。

こちらが我が家のストルバイト王子。
二匹分の尿検査と薬の処方、点滴、注射、診察でしめて1万円。猫の医療費のなんと高額なことよ。

もちろん完治してほしいが、これからも尿には注意が必要だ。そんな時に役立つもの、そう、それはジップロック
ジップロックは便利だな。本当の本当に便利だな。
今日言いたいことはただそれだけ。

目の黒いうちは

この前、同僚のタカハシさんが営業からの電話で「ちょっと待てよ!」と言われたらしく、「キムタクかよ!」と職場で盛り上がった。
どんな映画やドラマを見ていても、誰が言っても、「待てよ」と言われればキムタクを思い出してしまう。


別に意識高いアピールじゃないけど映画やドラマの吹替版が嫌いだ。
何がイヤってあの喋り方だ。吹替というのは必ずああいう喋り方をしないといけないと決まっているのか。
「おっと、こりゃ失礼?」「おいおい!今日はフライデーナイトだぜ?」


ビバリーヒルズ高校白書は別にそれでも良かった。でも、あまりに強烈すぎて、あれから吹き替え版の全てがビバリーヒルズにしか聞こえなくなった。
吹替ができる声優が限られているというのももちろんあるんだろうが、若い声優さんたちでさえあのメソッドを踏襲しているような気がする。そもそもアニメの喋り方も特徴が決まっているからか。
同じ声優がやっているからか、NHKを見てもアイカーリーとゲームシェイカーズの違いがまるでわからない。
ダウントン・アビーすらビバリーヒルズに聞こえてしまう。

そんな私にAmazonさんからオーディブルの無料体験の連絡がきた。

要は朗読されたオーディオブックを聴くというサービスだ。
最近目の疲れもあって、本を読む機会が減ってきた。PCやスマホによる老眼の若年化も進んでいるというし、こういうサービスもこれからどんどん増えるのだろうな。
ものは試しで30日間無料体験に登録してみた。
が、無料で聞けるプログラムはどれもつまらなそう。有料のものを1冊ダウンロードできるコインがついてくるので、とりあえず夏目漱石の「草枕」をダウンロードしてみた。

草枕

草枕

佐々木健という声優さんが読んでくれる。聞き始めて思ったけど、草枕自体がそもそもおっさんが山道を行きながら徒然に考えていることを文章にしたものなので、おっさんにぶつぶつ言われるのはジャストフィットだ。
なるほど、すごい!まあ、よく喋るおっさんだよ、と思いながら聴く。
ハムレットのように独り言をぶつぶつ言う男の物語もこういうメディアに向いているのではないか、と考えたりする。

が、草枕1冊聴くのに8時間ばかりかかるので、途中で飽きもするし、先が気になって自分で本を引っ張り出してきて読んでしまったりもする。
他の本をダウンロードしようと思ったが、まあどれもこれもいいお値段だ。
草枕だって3000円。太宰治の「斜陽」が2100円。他人様に読んでもらおうとすると、これも致し方ないことか。同じタイトルでも朗読する人によって値段が異なったりもする。
そんな中、大山のぶ代が読む「放浪記」の8分だけの抜粋が140円だったので買ってみた。

ドラえもん」というイメージがついている人が読むオーディオブックはどんな風に聞こえるのだろうか、という実験でもあったが、やはりドラえもんであった。
久々に聞くのぶ代の声に「ドラえも~ん!」と甘えたくなるほど安心したが、なにぶん読んでいるのは放浪記なので、不幸で貧乏でみじめな「あたし」だ。
ドラえもん、あたしって言うのか・・・。そう思ってしまう。

いやいや、これじゃとても無理だな。無理だわ。便利なサービスだとは思う。
でも月額会費が1500円で、なおかつオーディオブックの代金がかかる。そのオーディオブックがやたら高い上に、朗読者のイメージが強すぎると雑念が入って集中できない。

「本は、聴こう」とオーディブルは言うが、私はやっぱり本は読むよ。目の黒いうちはな。
映画だって字幕で見るよ。目の黒いうちはな。
白内障で目が白くなったりしたらお世話になります。その時はよろしく。