曲がり角ごとの驚きⅪ ぼくらが旅に出る理由
高校時代の友人Tと、もうかれこれ20年位ずっと年に数回旅行に出かけている。
Tはやたらめったら忙しいと評判の職業であるSE故、毎日帰宅も日付が変わる頃らしい。その時間には既に就寝中の私の携帯に時折Tから不穏なメッセージが投げ込まれている。
「普通の生活がしたい」とか「緑が見たいぞ!」とか。
「緑がみたいぞ!」っていうメッセージに漂うそこはかとない狂気…。あいつは大丈夫なのかと不安になる朝。
そんなTと旅行にいくと、いつでもどこでも蕎麦ばかり食べることになる。
Tがストレスで胃をやられていることと、我々が出かける先が蕎麦屋しかないような場所ばかりであることが原因だ。
こんな。
にも関わらず、出発してまもなく立ち寄るサービスエリアでうっかりコロッケ蕎麦を食べてしまったりもするのだ。私にとって、コロッケ蕎麦はなぜか旅情をかきたてる食べ物。
そして、自分が車を運転できないので、サービスエリアに来ると非日常を感じて旅行気分が高まる。サービスエリアに限らず、空港や港もそうで、時折用もないのにふらふら行きたくなる。
ふらっと冷やかしに行った仙台港で見かけた、大きなアルミ鍋持参の女子。YOUは何ゆえ鍋持参。
トランジットの人々が巡礼のように歩くハマド国際空港。
横浜大さん橋。死ぬまでに一度は船旅がしてみたい。
スペイン アトーチャ駅。新幹線のホーム。
高速道路のぐるぐる。
色んな人が色んな所へ旅立っていく場所っていいものだ。切なくなったりぐったりしたりもするけれど。
Tは昨年暮れ頃から昇進試験やら年度末やらが重なって、GWの旅行もままならず、「食欲が減る一方です」「昇格試験が終わったら旅行に付き合ってください」と不気味な敬語で死亡フラグのようなメッセージをポツポツ送ってきていた。
あらー、大変ね、と、私は呑気に四国へ行ったり三崎港へ行ったり、電動自転車買ったり。
ある日、自転車でフラフラしていたら第三京浜のPAに裏から入れることに気づいてびっくり。
嬉しい驚きのまま、コロッケ蕎麦を食べて旅行気分を味わった。
そうか、これからは自力でここへ来て、あのサービスエリア特有の、コーヒールンバの流れる自販機でコーヒー買って、旅立ち気分や渋滞のうんざり気分を味わうことができるのか。
ちょっと自立したような気でいたら、昇格試験に合格したTからメッセージが来た。
「昇格したら残業代が出ない。お金がもらえない深夜残業がつらすぎます、どこか旅行にいきませんか。ちょっとつかれました!」
「つかれました!」って半ギレみたいな疲れ方されてもね…。おお、恐ろしいったら。
まあ、でも旅行に行きましょう。
蕎麦屋と星空しかないような山奥はあなたの車じゃないと行けないもの。
あなたも疲労の蓄積によるその狂気をちょっと開放したらいいよ。
ゴリラデイズ
ここ最近、コアラ見たさによく動物園に行くので、職場でもちょいちょい動物の話をしてしまう。
多摩動物園の象がルールに厳しいらしい。象社会もいろいろあるんだな、とか。
そんな話をいつもニコニコ聞いてくれていた、同僚のタカハシさんが先日すごい事を言いだした。
「この前、甥っ子と姪っ子の運動会があったもんで、名古屋に帰省して、ついでに東山動物園に行ってきたんだけど、あそこのイケメンゴリラがヤバイのね」
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「シャバーニ、1頭だけものすごいデカいんだけど、何より、もう…ケツがね…。ケツがすごいのよ。プリっとしててさあ。さすがの私もあのケツにはやられたわ。写真撮ったんだけど、黒いしガラスが反射しちゃうし全然とれなくて」
わかる。ガラスの反射、悔しい。あとゴリラとかチンパンジー、黒すぎてうまく撮れない…。
これは多摩動物園で人口アリ塚キメるチンパンジー。
東山動物園の西ローランドゴリラ、シャバーニがイケメンであるというのは知っていたが、ケツもイケてるなんて初めて知った。
興味津々でネット検索して、ああ~ん、素敵~と身悶える。
するとタカハシさんが「実は、シャバーニにやられてクリアファイル買ったのね。でも、家に置いておいてもアレだから、会社に持ってきていいかなあ」と恐る恐る言い出す。
いいよ、いいよ、持ってきなよ、ウェルカムだよ!
翌朝、あまりの迫力に息を呑んだ。
これはヤバい。草食べてる顔がこんなにキメ顔なのずるい。
あまりのインパクトに家に帰ってからも恋の始まりのように折に触れてシャバーニのことを思い出していた。
次の朝、出社するなり、タカハシさんに「あの…シャバーニファイル見せてほしいんだけど…」と懇願したほどだ。
ちなみにタカハシさんによると、シャバーニはイクメンらしく、子供に野菜を食べさせたりしており、そのたびに観客から「おおおおお」という歓声があがるのだそうだ。また、女子からの「シャバーニ!こっち見てーキャー!」という黄色い声もすごいらしい。
イケメンでイクメン。おまけにいいケツ。全身からほとばしるすごいオーラ。なんだろう、見てるだけですごく元気が湧いてくる。
我が職場に、遅れて来たシャバーニブーム。
間もなく産休の同僚も「どうしよう…恋しちゃったかも」と画像検索を始め、入ったばかりの新人ちゃんも恥ずかしそうにタカハシさんに「ゴリラ…もう1回見せてもらってもいいですか」と申し出る日々。
「みんな東山動物園行ってみて!ユキヒョウのユキチもいるから」とタカハシさん。
お金大好きそうなそのネーミングセンスも素敵だ。行くよ、もう絶対名古屋に行くよ。イケメンゴリラもいるし、何よりコアラの聖地だし。
www.youtube.com
米動物園のゴリラのゾラ 飼育員さんからプールを贈られ喜びのダンス - ライブドアニュース
そんなゴリラデイズな今日、踊り狂うゴリラのニュースと動画を見かけた。
これ明日タカハシさんにも教えよう。それでまたシャバーニのファイル、見せてもらおう。そうしたらまた1週間頑張れる。
三途の川の向こう側
三大「友達や親と“いつか一緒に行こうね”と約束する場所」は上高地、尾瀬、屋久島。
どれもまあ、国内だし行こうと思えば行けるけど、なんだかはるか遠くの夢の国みたいで「死ぬまでに1回行ければいいや」なんて後回しにしている。
が、課長はにんまり笑って「俺はもう全部行ったな」と言う。
そして「先週尾瀬行ってきたからさ、写真見せてあげようか」とiPhoneを持っていそいそやってきた。
あら、尾瀬ですかー。私、実は尾瀬ってどこなのかもよく知らなくて…。
と言うと、課長も「うーん、いろんな県の県境」と言葉をにごす。行ってきたくせに…。
新宿を早朝発のバスで5時間くらい、今がちょうど水芭蕉の時期だけど思ったほど混んでいなかったそうだ。
そして「是非行ってご覧。まずは日帰りでも。平坦なコースだし気構えずに。是非に」との事。
この課長の「是非に」に触発され、調べてみたら夜行バスで行く日帰りプランがあった。でも満席でしょう?と思いきや空席有り。週末の天気は晴れ予報。
…行くか。行っちゃうか、もう。
バスのチケットをポチっとして「あの…課長に触発されて週末のバスのチケットとりました…」と報告したら「マジで!?いいねえ!その行動力!!」とお褒めに預かり、有頂天。
池袋23時発。尾瀬戸倉4時30分着。鳩待峠5時30分着で14時30分まで自由行動。
ちなみに尾瀬は群馬県。福島や新潟とも隣接してるらしい。関東だったんだな。
当然のことだが、歩いている間頭の中を流れる曲は「夏がくーれば思い出すー」だ。
水芭蕉か。「夢見て咲いている水のほとり」とか言うけど、水芭蕉の真ん中のマイクみたいなところって若干気持ち悪いよな、どのへんが夢見てる感じなのか、と思っていました、まだこの時は。
1時間ほど歩いて開けたところに出た途端に「あ、これはヤバいな」と思った。
だってこれ、こんなのってもう天国だもの。
私のイメージしてた三途の川の向こうってこんな感じだもの。
ああ、これが「夢見て咲いている水のほとり」か。夢見てるな、確かに。
そして人々はみな同じ方向へゆっくりゆっくり歩いて行く。
これもう完全に召されてるな。召されてるなう。
死にかけた時に川の向こうに死んだばあちゃんが立ってて「まだ来てはいけない」とか言い出すタイプの川。
亀山モデルのテレビのハメコミ画面みたいな景色。
これだけひらけていると日影がないのが少しつらい。天国も日影ないのかしら、太陽に近いから暑いんじゃないかしら、と、余計な心配をする。
帰ってきて友人に「尾瀬ヤバい、浄土感ハンパない。丹波哲郎とか宜保愛子とか出てきそう、召されそうだった」と興奮を伝えると「どんな臨死体験だよ」と笑われた。
いや、ホントあれ、尾瀬に行くって臨死体験ね。大霊界ね、懐かしい!と、また興奮。
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課長は曇りの尾瀬だったからわからなかったんですよ!
晴れてたらあれは完全に、三途の川の向こう側。
曲がり角ごとの驚きⅩ 使いみちのない風景
すべては冠を頂いた幼年期のなかに坐っている
曲がり角ごとの驚き
トリスタン・ツァラ「内面の顔」
犬も歩けば棒に当たるし、曲がり角を曲がるたびに、
どこかへ出かけるたびに、おかしなものばかりが目につくし。
ベトナムの看板。おそらく高圧電流がどうのこうのってやつだろう。言葉のわからない私にも、言わんとすることは伝わる素晴らしい看板だが、なんて顔だ。
奈良井宿。臼改造型椅子。
人はどういうタイミングで「この臼、もう使わないな」と思うのだろう。息子が上京して餅をつく人がいなくなったとか、そういう時か。それでもなぜ「処分しよう」ではなく「そうだ!椅子にリメイクだ」と思えるのだろう。
しかし調べてみると、臼を改造した椅子はアンティークとして多く出回っており、それなりのお値段だ。
ちなみにこの椅子、割りと尻のサイズが限られる。
ベトナムのカラオケおじさん。年の瀬のお忙しい中、昼間から大音量でカラオケを歌いながら歩いてくる。かなり上手だが、なんなんだ、これは。
合羽橋。ネギスライサー・ネギー。そのまんまだが味わい深い。ネギー。
同じく合羽橋。つま太郎。「一気に仕上げる高性能。手切りにせまるつま太郎」なんと語呂の良いキャッチコピーよ…。
談合坂サービスエリアのクレイジーなホットドックさん。
大井町にて。いつから時が止まっているのか…。
スペイン。TUNA TOUR。ツナツアー。
要はあれだな。葛西臨海公園のマグロ周遊みたいなやつだな、きっと。
西洋人もマグロ周遊の雄大さには心打たれるものなのか。
バルセロナ。観光周遊バス停留所の屋根の上には各国語ガイドで使われたイヤホンが山積み。
目の前の老夫婦もやっぱり楽しそうにここに投げ捨てていた。
ゴミのポイ捨てというより、輪投げみたいな感覚っぽい。
仙台の水族館で目の前を歩いていた小学生男子のリュックについていた納豆ブローチを盗撮。
これすごく素敵。特にこぼれた納豆が。
欲しい。けど、作る気力と甲斐性はなし。
仙台うみの杜水族館で売られていたイカバッグ。怖い。
城ヶ島。行き倒れみたいな干され方のダイビングスーツ。
高松。この真ん中のマークは何なのか、あれからずっと考えている。
高知。強力ATM。強そう。何が強いのかわからないけど。
更に高知。「ソフトバンク会長王貞治様お客様です」って言われてもねえ。
ともかくソフトバンク会長王貞治様がお客様な果実店。
高松。一般道の中央分離帯。
「この付近に生えるキノコ(オオシロカラカサタケ)は有毒で食べると中毒症状を起こします。持ち帰らないでください」との事。
こんな場所のキノコを採取して食べようとする猛者がいるのか…この四国の地には。
街はなんと驚きと不思議に満ちていることか。
お久しぶりね
交流戦の季節、一番いいのは会社帰りにライオンズの試合を見に行けることだ。平日ふらっと行くには西武ドームは遠すぎる。
「今日野球行くから、絶対残れないから!」と昼休憩も半分にして仕事をバタバタと片付けて、今年初のプロ野球観戦。
お久しぶりの神宮球場。席に着いたらすでに1点入ってた。
先発は菊池雄星。お久しぶりね。あなたもいい人できて結婚したせいか、ずいぶん大人になったわね。
久しぶりだから忘れてたけど、交流戦はピッチャーも打席に立つんだった。
去年はここで、打席に立つ岸くんを見たっけ。あれは岸くんの怪我からの復帰戦だった。そんな岸くんももういない。
あの時代打で元気に出てきた森くんが今年は怪我でいない。
1年て長いんだか短いんだか。
坂口ってオリックスにいたあの坂口か。神宮は懐かしい人にたくさん会える。前にもソフトバンクにいた新垣くんが出てきて驚いた。大引もいる。
でも何より成瀬くんだ。
成瀬くん!久々の成瀬くん!横浜高校出身の成瀬くん!キャー!
…と、トキめいたがワンポイントなんてひどいじゃないですか、真中監督。もう少し成瀬くんが見たかった。
しかし代打上本くんでトキめきを取り戻す。上本くんやっぱりいいなあ。きっちりヒット打って、ベンチに帰ってみんなにすごい笑顔で迎えられる。
メヒアも満面の笑み。
大松!成瀬くんもいて大松もいるのか。脳内に千葉マリンのウグイス嬢の「オオマツ~」という声が響き始める。
極めつけは鵜久森くんだ。鵜久森くん、そうか、ヤクルトにいたのか。
2004年、駒大苫小牧高校が初めて優勝した夏の甲子園決勝戦、済美高校最後の打者が鵜久森くんだった。真剣な横顔がニュースでも熱闘甲子園でも高校野球雑誌でもどこでもクローズアップされていた。
久々に鵜久森くんの、この横顔を見て変わらないなあと思ったり、でも大人になったなあ、と思ったり。
神宮のナイターは夕焼けがきれい。もっと暗くなると高層ビルの灯りがきれい。月もきれい。
夏も来ようっていつも思うけど、またきっと来年になるんだろう。そして「お久しぶりね」と思うんだろう。
ああ、楽しかった。野球ってやっぱ楽しいな。ライオンズ勝ったしな。
むくわれてあまりある
最近マンガの引用ばかりでちょっと気が引けるが、大好きなんですよ、マンガ。
エースをねらえ! 文庫版 コミック 全10巻完結セット (化粧ケース入り) (ホーム社漫画文庫)
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「あのプライド、あの気性。あの人は10代の男にどうこうできる相手じゃない」と言われるお蝶夫人もまた10代。恐るべし。
尾崎さんは大変な相手を好きになってしまったのだな。
そして私は大変に可愛いコアラが好きになってしまったのだ。
そんな訳で先日多摩動物園に行ってきたが、一人ぼっちのコアラが寂しく眠り続けているのみであり、今際の際のゲーテの如く「もっとコアラを!」と切に願った私は、その情熱の赴くまま、翌日すぐに、赤ちゃんコアラがいるという埼玉へ出かけたのであります。
埼玉県こども動物自然公園 Saitama Children's Zoo
開園前から、コアラ窓口で待機。来る途中、バスの中から「産直市場 コアラの里」なんてお店も見えて、期待が高まる。
開園するなり一直線にコアラ舎へ。
相当歩く。橋も渡る。
まだ歩く。
コアラ舎!
顔ハメ看板がなんか斬新。もちろん一番乗りだ。
いた!
あっちにも!5頭もいる!すごい!
でもまあ寝てるよね、そうよね…と思っていたら動き出すので大興奮する。
おおお起きてる!動いてる!しかもなにげに動きが早い!
「コアラだけど何か質問ある?」みたいな顔。
これ、あの女子がキュンってするって噂の、「ドライブ中、バックする時、助手席に手をかけてハンドル切る彼の姿」でしょ、そうでしょ。すごいトキめく~!
まあ、ここにいるのはみんな女の子なんだけど。
木に登ったり
いい顔をしてくれたり、あまりにサービスがいいので「あなた、なんておもてなし精神に満ちたコアラなの…」と感動する。
ちなみに飼育員さんが作ってくれたコアラ紹介ボードがあるのだが、この子が誰なのか、見分けられなかった。ニコニコ笑顔がジンベラン、鼻が真っ黒なのがエミらしいが、みんなニコニコ笑顔で鼻が真っ黒に見える…。
赤ちゃんもいた!!!赤ちゃんを抱いているのが小顔ガールのドリーのはず…。
隣の木では、赤ちゃんと同じ顔で眠る女子。
一旦起きて、器用な姿勢で眠りなおす。
外でカメとナマケモノ見て、また戻ってきて赤ちゃん見て、約2時間、大興奮しながらコアラ舎に張り付いていた。
エースをねらえの尾崎さんはお蝶夫人を送り届けただけで「思い焦がれた3年半、むくわれてあまりある」と感極まっていた。
私も同じ。
片道2時間の道のりも早起きもむくわれてあまりある。あまりありすぎる。
感極まって鼻血が出そう。
ありがとう、ありがとう、埼玉県こども動物自然公園。
紫のバラのタコ
先日行った小江戸川越。何故だかうなぎも有名らしい。
カメレオンがどーんと鎮座する鰻屋。
今年はうなぎが値下がりするんですってね。
うなぎの価格がうなぎ登りだった数年前、母が得意げな顔で「うなぎって生態が全然わかってないから養殖が難しいんだって。海に出てった後、どこでどうしてるか全然わからないんだって」というので、この時代にまだ解明されていないことがあったのか、と驚いた。
しかも、宇宙の成り立ちとかじゃなくて、うなぎが!
まあ、ダイオウイカも謎らしいけど。
そしてタコも謎らしい。
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「タコをよく食べる国としてはやはり日本を挙げないわけにはいかないだろう」と述べる著者は、しかし日本へのライバル心メラメラである。それはタコをめぐる憎愛と呼べるほどだ。
タコの養殖の難しさを述べる項には
「スペインは積極的にタコの養殖技術を公開しているのに、日本人は秘密にしている。スペイン人やメキシコ人の間では、日本人は本当は既に養殖に成功してるんじゃないかという噂がある。自分たちだけが養殖に成功すれば山ほど金を稼げるもんな」
というようなことが書いてある。
これだけでも、お前どれだけタコが大好きだよ、と驚きだが、タコの世界はさらなる驚きに満ちている。
この本によれば、タコの養殖を成功させたと明言できる国、それはメキシコだとのことだ。著者は幸運にも、卵から養殖されたタコが網にとらえられ、出荷される瞬間を見ることができたらしい。
そうか、それはそんなに幸運なのか…。
そして養殖プログラムを率いた50歳の海洋生物学者ロサスは胸を張って言うのだ。
これまでは、タコは忘れたころにぽつんぽつんと育ってくると育ってくるという感じでしかなかった。でも今後は計画通りに育てれば何万匹でも大丈夫だ。実に感激だよ。
それなのに。嗚呼それなのに、それなのに。
タコ養殖、加工工場、レストランを併設する複合施設の建設にあたり、タコ養殖推進派と他の観光業者との間に悶着が発生。ようやく決着が着き、事業が現実味を帯びてきた矢先、1万3000匹のタコを育成中の建物が全焼。
「火をつけたのは、タコの養殖が成功するのを見たくない誰かであろうというのがおおかたの見方だ」との事。
…放火なのか。タコの養殖に反対するあまりの。タコとはそこまで人を激情に走らせるものか。
尚、このメキシコで養殖されているタコの名前はオクトパス・マヤ
マヤ、おそろしい子…。
本の中で著者は折に触れて、このオクトパス・マヤがマダコに劣らぬ味わいであるにも関わらず、評価が低いことを嘆いており、「世界市場の多くはマダコに慣れているという理由でしかなくても、あくまでもマダコを要求する」と不満げだ。
著者のアツいマヤ推し。まるで紫のバラの人。
あまりの情熱に気圧されて、心の片隅にずっとタコ養殖のことが残っていたので、今日こんなニュースを見て「おお!ついに!!」と図らずも感動してしまった。
ほら見ろ、紫のバラの人。ついに日本がやったぜ。お金のために今まで成功を隠してたんじゃないぜ!
そうか、日本水産がついにやったか。ついに…。
…別にタコ業界に詳しいわけでもないのだが、こんなにも胸をアツくさせるのは、ひとえにタコ業界の方々の情熱のせいだ。
なんてことだ、この私がタコ養殖に感動だって?タコの種類も違いもわからない、まして触ることなどできない、この私が!
…タコって人を紫のバラの人にさせるものなのかしらね。
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